オメガ3という最も酸化しやすい油の危険性をお伝えすると、必ず「昔の日本人は魚を食べていた」が現代人よりも健康であったという推論の主張にぶつかります。
それでは、現代の日本人は魚を食べなくなったので、EPAやDHAといったオメガ3とされる油は体内にほとんどないのでしょうか?
日本の戦後(第二次世界大戦後)の食事事情は、諸外国よりもプーファ(多価不飽和脂肪酸、PUFA)、とくにオメガ3が多いことが報告されています(Polyunsaturated fatty acids in the food chain in Japan. Am J Clin Nutr. 2000 Jan;71(1 Suppl):189S-96S)。
そして、加齢とともにEPAやDHAといったオメガ3の油の血液濃度(体内蓄積)が増加していることが明らかにされています(Higher serum EPA or DHA, and lower ARA compositions with age independent fatty acid intake in Japanese aged 40 to 79. Lipids. 2013 Jul;48(7):719-27)(Plasma concentrations of (n-3) highly unsaturated fatty acids are good biomarkers of relative dietary fatty acid intakes: a cross-sectional study. J Nutr. 2003 Nov;133(11):3643-50)。
一方、オメガ6系のプーファであるアラキドン酸は、加齢とともに減少していきます。
現代日本人は諸外国よりもオメガ3系の油が体内に蓄積しているのです。
魚を食べていないのに、なぜDHAやEPAが加齢とともに上昇しているのでしょうか?
その原因の一つは、フィッシュオイルのサプリメントの摂取がありますが、現代日本人の心身の不調に大きな原因があります。
野菜などに含まれるオメガ3(αリノレイン酸)は、心身の不調があると体内でEPAやDHAに変換されやすくなるのです(拙著『オメガ3神話の真実』第二章に詳述)。
それでは、江戸時代以前の日本人はどうだったのでしょうか?
もちろん、血液検査などのデータがないので推測となりますが、当時の状況を考えてみましょう。
当時は造船技術も発達していないため、まず現在のように遠洋漁業で大量に冷水魚(青魚)や脂ののったマグロを大量に市場に流通することはありませんでした。
もちろん、たまに海岸近くに出没する鯨(クジラ)を狩猟することはありましたが、常時市場に出回ることはありません(クジラの肉は私の小学校時代の給食によく出ていました(^_−)−☆)。
魚を食べていたとしても、主に川魚と近郊の魚介類であったと思われます。
これらの魚は、冷水魚よりも脂身は少ないため、当然オメガ3という冷水魚特有の油はそれほど摂取できません。
したがって、明治以降の近代日本人よりも、はるかにオメガ3摂取量は少なかったはずです。
また、現代のような魚の切り身ではなく、昔は魚を頭から食べていました。
魚の目や頭部には、プーファの酸化を防ぐビタミンA,Eが豊富に存在しています(ただし、ビタミンEなどを問投与しても、オメガ3の酸化を完全には防げない)。
これは、原始人食本で書きましたが、江戸時代には、ジビエのお店が大繁盛していたことが記されています。つまり、魚だけでなく、イノシシや鹿の肉もある程度は流通していたのです。
以上から、昔の日本人は、
・そもそも魚食によるオメガ3摂取量が少なかったこと
・オメガ3の弊害をある程度カバーできる食べ方であったこと
・魚だけがタンパク質源ではなかったこと
で、現代の日本人よりは、オメガ3の弊害が少なかったといえるでしょう。
そして、明治以降でも漁民の健康状態はそれほど悪くないという見聞が本になっています(疫学的調査にもなっていない)。
これが仮に本当であったとしても、漁民はまだフレッシュな魚を食べているので、市場に出回ってオメガ3が酸化した魚を食べる内陸の日本人よりも悪影響は少なかったことが考えられます。
フィッシュオイルは、冷水魚から油だけを搾りとって加工した極めて不自然な油ですが、オメガ6の油も植物の種を絞り複雑な加工過程を経るこれもまた不自然極まりない植物油脂です(ただし、亜麻仁などの種を絞ったものはオメガ3系)。
これらの不自然極まりない油を大量に摂取する現代日本人の食習慣(スーパー、コンビニ、加工食品、サプリメント)が、現代人の心身の不調というオメガ3(プーファ)の真の効果を明らかにしてくれているのではないでしょうか(^_−)−☆。