『ポテトチップスの袋から「色」が消えた日 ―ナフサショック』
カルビー(Calbee)が2026年5月、主力ポテトチップスを含む14品目について印刷インキを白黒2色に削減すると発表し、出荷は5月25日以降から順次切り替わる予定だと報じられています [3, 4]。そして伊藤ハム米久ホールディングスも、ナフサ不足から印刷インキの原料である溶剤や樹脂の品薄が続いていることを受け、シンプル包装への切り替えを検討していると公表されました [1, 2]。
今回カルビーと伊藤ハムが直面しているのは、判子に塗る朱肉(インキ)そのものの調達難 ── すなわちインキの原料である樹脂やバインダー、そして溶剤の供給逼迫です [5]。政府が頑なに供給に問題がないと主張しちえるナフサが枯渇すれば、印刷インキが枯渇します。食品包装用インキに使われる溶剤系バインダー(ニトロセルロース、ポリアミド樹脂、ポリウレタンなど)が、いずれもナフサ由来の石油化学製品に深く依存しているからです [5, 6]。
ちなみに、塗装シンナーも現場では枯渇しており、これは建築業界や自動車業界に多大な悪影響を及ぼしています。
日本という国は、ナフサのおよそ4割から6割を中東に依存しています [7]。2026年2月以降にイラン情勢が緊迫化したことで、この廊下が事実上の封鎖状態となり、日本のナフサ調達が急激に滞っています [8]。
ホルムズ海峡のわずかな通行制限でも、アジア全体のプラスチック・化学品市場に2年来の最高水準の逼迫をもたらすと予測されていました [9]。その予測が、現実となったわけです。サカタインクス(Sakata INX)をはじめとする日本のインキメーカーは2026年4月、原材料調達難について公式声明を発表し、印刷業界全体に値上げ要請と納期遅延の波が広がりました [10]。「ナフサショック」とでも呼ぶべき連鎖反応の中で、印刷会社の利益が「消し飛ぶインパクト」を受けていると、業界紙は表現しています [10]。
今後数ヶ月のあいだに、スーパーの売り場全体が「白黒映画」のような景観に変わる可能性も否定できません。しかし、ここで奇妙な事実に気づきます。これだけの大手食品メーカーが連鎖的にパッケージを白黒化するというのは、軽い供給不安では起こり得ない事態です。それにもかかわらず、日本政府は一貫して「供給は問題ない」と発表し続けているのです ── この乖離こそが、最も重大な論点となります。
2026年4月14日、木原官房長官は記者会見で「ナフサ供給上の問題はなく、国内で必要な量は確保していると認識している」と明言しました [20]。同じ時期、赤沢経済産業大臣(も閣議後会見で、石油化学各社による米国からの代替調達や川下在庫の活用によって「化学品全体の供給に問題はない」と繰り返し強調しています [21]。
しかし現場の声はまったく逆を指しています。2026年5月のブルームバーグの報道では、樹脂やシンナーなどナフサ由来製品の供給不足が深刻化しており、政府が「量は確保している」と訴える一方で、現場は「より厳しい」状況に置かれていると明確に指摘されています [22]。
プラスチック業界の一次情報分析でも、政府の「目詰まり」という曖昧な表現が、実態の深刻さを覆い隠していると批判されています [23]。
カルビーが14品目のパッケージから色を抜き、伊藤ハムが追随しようとしているという目に見える事実は、政府発表の楽観的な物語を、白黒のコントラストで静かに否定しています。

ナフサが足りているのなら、なぜ印刷インキが足りないのか。インキが足りているのなら、なぜ二大食品メーカーが同時に白黒化を選ぶのか。この問いに、政府は答えていません。むしろ「全体としては問題ない」という抽象的な総量論で、現場の悲鳴を上書きしようとしているように見えます。これは、消費者一人ひとりが自らの目と頭で事実を見極めなければならない時代に、私たちが完全に突入していることを意味します。
参考文献
1. Calbee potato chips packages turn black and white due to ink shortage, Itoham also considering. Nikkei 2026
- Colorful packaging disappearing: Calbee 14 products and Itoham Yonekyu Holdings consideration. Note Industry Analysis 2026
- Japan’s Calbee chip bags go monochrome as Iran war bites. CNN 2026, May 12
- Snack maker Calbee’s packages go black and white amid Iran war ink crunch. Nikkei Asia 2026
- Solvent ink for gravure printing: binders and petrochemical dependencies. Kinderway Packaging Technical Review 2024
- Water-based vs solvent-based food packaging inks: chemical composition and migration risks. Starcolor Ink Industrial Reports 2024
- Naphtha shortage hits 2-year high amid Strait of Hormuz restrictions. CNBC TV18 Supply Chain Analysis 2026
- 2026 Naphtha shortage impact and reality: risks and corporate countermeasures. Actibook Cloud Industrial Column 2026
- Iran war triggers Asian plastic shortage. Fortune 2026, May 6
- The naphtha shock impact on Japanese printing manufacturers. TBS News Dig Industry Report 2026
- Naphtha supply has no problem, domestic necessary amount secured: Chief Cabinet Secretary Kihara statement. Reuters Japan 2026, April 14
- Minister Akazawa post-cabinet press conference on naphtha alternative procurement. Japan Ministry of Economy, Trade and Industry Official Release 2026, April 3
- Naphtha shortage not solved by volume securing alone: government response emphasized but field situation harsher. Bloomberg Japan 2026, May 1
- Naphtha supply bottleneck: deciphering the three-layer structure from primary information. Plastic Pallet Industry Analysis 2026

















