『電気自動車は、エネルギーロックダウンに用意されていた』
ホルムズ海峡が封鎖され、ロシアの石油施設が破壊されることで原油価格が跳ね上がるたびに、いよいよ本格的に電気自動車の時代が来ることになります。
私も電気自動車のコストパフォーマンスや環境負荷(バッテリーの廃棄問題)を考えると、このような電気自動車が日の目を見る時代が来ることを予想できませんでした。
電気自動車は、蓄電池があるため、非常用に家庭で使用できます。これからの時代は、後述するように乗り物としてだけではなく、蓄電機能としても注目されていくでしょう。
2010年代から電池パックの価格は9割以上も下がり、その急降下ぶりはすでに「自動車の常識を塗り替える水準」として注目されていました[1]。さらに2025年の研究では、生産量が積み上がっていくほどコストが下がる「学習効果」がなお強く働いており、生産が倍になるごとにコストが約9%下がると示されています[2]。その結果、欧州では新車EVの総保有コストがガソリン車に急接近し、中古市場ではむしろEVのほうが安くつくという局面まで見え始めました[6][7]。
加えて、2025年の「Nature Energy」論文では、新しいEVは寿命の面でもガソリン車にかなり近づき、走行距離では上回る可能性さえ示されています[5]。もはやEVは、家計の計算に耐える現実の選択肢になりつつあります。
その勢いは販売台数にも表れています。国際エネルギー機関(IEA)によれば、2024年の世界のEV販売は1700万台を超えました[3]。ノルウェーでは新車販売のほぼ全体が電動化に近づき、エチオピアでも2024年にEV販売比率が約60%に達したと報告されています[3][4]。
ここで重要なのは、EVが単なる「エンジンの置き換え」ではなく、「経済的なプラットフォーム」だという点です。スマートフォンが、端末そのものよりもアプリや通信網とのつながりで価値を増したのと同じように、EVも充電網、ソフトウェア、電力料金制度、再利用された電池とのつながりによって価値が増していきます。2026年の研究では、上海の約8000台のEVを追跡すると、いわゆる「航続距離不安」は実在する経済的負担ですが、それは充電網の拡大と車両性能の改善によって着実に小さくなっていることが示されました[8]。
ただし、電気自動車は、ガソリン脱却にはなりますが、石油の代わりにレアアース(希少鉱物)に依存することになるという問題があります。リチウム、コバルト、ニッケル、黒鉛、ネオジムといった資源は、EV時代の「新しい蛇口」です。そして、その蛇口の多くは先日お伝えしたように中国の精製・加工能力に強く結びついています。
いまロシアおよびイラン侵攻などによって強引に引き起こされた現況は、ガソリン車から電気自動車の普及にも現れています。電気自動車の普及は「石油危機への一時的な反応」から、「社会の土台そのものを作り替える段階を迎えた(半ば強引に)のではないでしょうか。

原油価格高騰、電池価格の低下、充電網の拡大、寿命と中古価値の改善、そして電力システムとの接続が、EVを単なる乗り物以上のものへ変えています。今後は、レアアース(鉱物)利権をどのようにして中国から奪うかが権力者たちの悪巧みの焦点となっていくでしょう。
参考文献
[1] Rapidly falling costs of battery packs for electric vehicles. Nature Climate Change 2015, 5, 329-332.
[2] Drive Down the Cost: Learning by Doing and Government Policies in the Global EV Battery Industry. NBER Working Paper 2025, 33378.
[3] Global EV Outlook 2025: Trends in electric car markets. International Energy Agency 2025.
[4] The EV leapfrog: How emerging markets are driving a global EV boom. Ember 2025.
[5] The closing longevity gap between battery electric vehicles and internal combustion vehicles in Great Britain. Nat Energy 2025, 10, 354-364.
[6] Total cost of ownership of electric and gasoline used vehicles. Environ Res Lett 2026, 21, 024022.
[7] From transition to reality: a turning point for consumers’ electric mobility. BEUC 2025.
[8] Range Anxiety. NBER Working Paper 2026, 34871.
















