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『中国が独占しているレアアースについて』

『中国が独占しているレアアースについて』

中国が事実上、独占しているレアアースについて興味深い記事(『日本のレアアースに勝算は──中国の輸出規制、南鳥島の試掘成功をどう見るか』 yahoo ニュース、4/10(金))が掲載されていましたので、その内容を忘備録としてまとめたいと思います。

 

今年2月、日本最東端の孤島、南鳥島。その周辺海域の、水深5700メートルという途方もない深さの海底から、「レアアース泥」の試掘に成功したというニュースが私の関心を強くひきました。

 

今年に入ってから高市による反中発言や政策によって中国による日本へのレアアース輸出規制が続いています。

 

「これで中国に頼らずに済むのでは?」
「ついに日本も資源大国になれる?」

 

そんな期待が、政界や経済界の一部で高まっています。

 

でも、本当にそうなのでしょうか?

 

実は、話はそう単純ではありません。海底に資源があることと、それを実際に使えるようにすることは、まったく別の問題だからです。

 

「100年経っても無理」と言われた南鳥島
昨年末、南鳥島周辺海域に眠るレアアースの潜在的な資産価値を「165兆円」と評価した記事が話題になりました。その発信者が、株式会社UMC代表取締役会長の中村繁夫さんです。

 

中村さんは、専門商社の立場から、レアメタルやレアアースを半世紀にわたって扱ってきた第一人者。業界では「レアメタルキング」とも呼ばれています。鉱山の現場、製錬工場、国際取引、国家間の駆け引き――その表も裏も、すべて見てきた人物です。

 

実は、南鳥島周辺にレアアースがあること自体は、東京大学の研究チームとの関係もあり、15年ほど前から知られていたそうです。ただし、当時は誰もそれを本気で「掘り出して産業にできる」とは思っていませんでした。

 

中村さん自身、かつては「100年経っても無理でしょう」と書いたことすらあると言います。それほどまでに、南鳥島のレアアースは「存在はしていても、現実には遠すぎる資源」だったのです。

 

2014年度から始まった「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」第1期では、水深2000メートル以浅の海底熱水鉱床の調査が行われました。続く第2期では、南鳥島のレアアース地層の調査が進められ、水深2470メートルの海底から泥を引き揚げる試験にも成功しました。

 

そして今回の試掘は、2023年度からの第3期調査によるものです。このプログラムが進むにつれて、大手商社なども南鳥島への投資を検討し始めたと、中村さんは語ります。

 

600気圧の海底という過酷な世界
ただし、それは決して簡単なことではありませんでした。

 

南鳥島周辺の海は、水深がおよそ6000メートル。海では10メートル潜るごとに1気圧ずつ圧力が増すため、6000メートルでは約600気圧もの圧力がかかります。

 

600気圧というのは、日常生活ではまず想像できない世界です。まるで巨大なビルを何棟も身体の上にのせられるような、途方もない力が、あらゆる方向から押しつぶそうとしてくるのです。

 

しかも問題は、ただ海底まで到達することではありません。

 

その強烈な圧力の中で、泥をパイプに詰まらせず、船の上まで安定して引き揚げられるかどうかが最大の課題でした。これは、長い長いストローで、深い沼の底の重い泥を一気に吸い上げるようなものです。途中で詰まれば終わりですし、しかもその全体に想像を絶する圧力がかかっています。

 

ところが2022年、茨城沖で水深2470メートルの海底から泥を引き揚げることに成功しました。この成功が大きな転機になりました。そして今回の南鳥島での試掘成功につながりました。

 

そもそもレアアースって何? なぜこんなに大事なの?
ここで少し、レアアースとは何かを整理しておきましょう。

 

レアアースとは、存在量が少ない金属、いわゆるレアメタルの一種で、17種類の元素の総称です。

 

代表的なものに、ネオジム、ジスプロシウム、イットリウムなどがあります。

たとえば、こんなふうに使われています
・自動車のモーター
モーターは高速回転すると熱を持ちます。普通の磁石は熱に弱いのですが、ジスプロシウムを加えた鉄は、高温でも強い磁力を保ちやすくなります。

・強力な磁石
ネオジムを加えると、鉄の磁力は一段と強くなります。

・液晶パネル
イットリウムは液晶ディスプレーなどに使われています。

 

つまりレアアースは、現代技術の世界では「ほんの少し入れるだけで性能を劇的に変える魔法の調味料」のような存在です。

 

料理でたとえるなら、たったひとつまみの塩やスパイスで味が決定的に変わるように、レアアースも量は多くなくても、その効果は非常に大きいのです。だからこそ、電気自動車、モーター、液晶、半導体、精密機器など、現代の製造現場には欠かせません。

 

米国が血眼になって世界のエネルギー源を壊滅させているのも、今後兵器やAIで使用する半導体に必要なレアアースを中国が握っているという事実が一つの理由になっています。そのレアアースを手にいれるためには、中国のエネルギー源を抑えておくという戦略です(取引材料になる)。

 

レアアースは「取る」だけでは使えない
ここで多くの人が見落としがちなのが、レアアースの本当の難しさです。レアアースは、ただ採掘すれば終わりではありません。むしろ、本当に厄介なのはその後です。

 

第一に、産出地が限られています。世界の埋蔵量の5割以上が中国に集中しており、その後にブラジル、オーストラリアが続きます。

第二に、レアアースは混ざっています。

ひとつの鉱石の中に、複数の元素が混ざって含まれているのです。「これはネオジムだけ」「これはジスプロシウムだけ」ときれいに分かれて埋まっているわけではありません。

 

さまざまな成分が入り混じった鉱石から、それぞれの元素を分離し、精製しなければなりません。
それを手作業で分けることはできません。酸やアルカリを使い、化学的な工程を何段階も経て、一つひとつを分離していく必要があります。たとえば、物質の溶解度の違いを利用して成分を分離する溶媒抽出法などが、その代表的な技術です。

 

中国のレアアースを育てたのは、実は日本でもあった
中村さんは1974年に専門商社・蝶理に入社し、1977年からレアメタル、レアアースの輸入契約に関わるようになりました。そして、中国産レアアースの見本品を最初に日本に持ち帰ったのは自分だったと振り返ります。それ以前、蝶理ではレアアースをソ連、現在のロシアから輸入していました。

 

ところがある時、「中国でもレアアースが取れるから、君が担当しなさい」と命じられたそうです。しかし当時の中国は、レアアースを扱う技術が十分ではありませんでした。中国側の技術で出荷されたレアアースは、日本に届いた時には処理が不十分で、酸化して劣化していることがあったといいます。そうなれば製品として使いものになりません。日本のメーカーからは当然クレームが相次ぎます。

 

そこで必要になったのが、製錬技術を中国に教えることでした。中村さんは、その技術移転の一端を担った30代の一人だったと語ります。これは歴史の皮肉でもあります。のちに中国はレアアースの世界覇権を握りますが、その技術力向上の初期には、日本が深く関わっていたのです。

 

歓迎ムードの裏に潜んでいた、放射線リスク
当時は、日本と中国が日中平和友好条約を結ぼうとしていた時期でした。中国国内では、レアアースを買いに来る日本の商社マンは歓迎される存在でした。外貨を稼げる相手だったからです。

 

中村さんは、1978年春の交易会の頃から、中国中の工場を回りました。「工場を見せてください」と言えば見せてくれたし、「鉱山を見せてください」と言えば見せてくれたそうです。しかし、その過程で中村さんは、レアアース産業の厳しい裏側にも直面しました。

 

それが、放射線による被曝の問題です。

 

レアアースには、放射性物質が含まれます。レアアースを含む鉱物は、多くの場合、トリウム232やウランといった放射性物質を含んでいます。そのため、採掘や製錬の過程では、放射性廃棄物が大量に発生してしまいます。

 

白斑ができた研究者たちの手
中村さんは、中国のある大きな工業都市の工場を訪れた時のことを語っています。その工場で研究者たちが会いに来てくれたのですが、彼らの手を見ると、みな被曝による白斑ができていたそうです。これはメラニン色素を産生する細胞が放射線によってダメージを受けることで起こります。

 

さらに、工場内を歩く際には、中村さんたちも放射線被曝を防ぐため、鉛でできた重いコートを着させられたといいます。つまり、レアアースの産出や製錬には、放射線という健康上の深刻な課題があるのです。
環境への負荷も非常に大きく、簡単に「夢の資源」とは言えません。

 

中村さんは、そうした健康被害をある程度犠牲にしてでもレアアース産業を推進してきたのが中国であり、だからこそ中国はこの分野で強くなれたのではないか、と見ています。

 

この放射性物質の問題は、中国だけの話ではありません。マレーシアでは、実際に健康被害の訴訟が起きました。1980年代には、その工場では周辺に放射性廃棄物を野積みにしていました。すると、周辺住民の間で白血病などの健康被害が相次ぎ、住民側が工場の操業停止などを訴える事態になったのです。

 

その後、日本企業はその事業から手を引きました。各国がレアアースの生産に二の足を踏む理由のひとつも、まさにここにあります。

 

「足を洗います」と語った担当者
中村さんは、その企業の担当者が撤退を決意する現場にも立ち会っていたそうです。問題が渦中にあった頃、その担当者と一緒にマレーシアへ行き、現地で彼は「私の会社はこの仕事から足を洗います」と決意を語っていたといいます。

 

この言葉は、非常に生々しいものです。

 

レアアースは華やかな先端産業を支える一方で、その背後では、健康被害、環境汚染、廃棄物処理、企業責任といった重い問題を抱え込む事業でもあるのです。だからこそ、日本国内ではレアアースを生産・製錬する事業が少ないのです。

 

日本の規制も厳しくなった
さらに、日本には制度的な背景もありました。

 

1968年には原子炉等規制法が改正され、イットリウムの製造業者に核原料物質使用届け出の義務が課されるなど、技術上の規制がかけられました。

 

こうした流れもあり、日本国内のレアアース事業は縮小し、海外に活路を見いだす方向へ進んでいったのです。

 

一方、中国は1980年代以降、レアアース技術を着実に向上させていきました。アメリカやフランスが、環境対策コストの高さを理由に生産を縮小していく中で、中国は10分の1以下のコストで製造し、市場を席巻しました。

 

その結果、製錬などの出荷段階では、世界シェアの9割を占めるまでになりました。これは、「ただ資源があるから強い」という話ではありません。資源を掘るだけでなく、それを分離し、精製し、安定供給できる体制まで押さえたからこそ、中国は世界を支配する立場になったのです。

 

原油を持っているだけではガソリン大国になれないのと同じで、レアアースもまた、「採る」だけではなく「使える形にする」国が強いのです。

 

レアアースは「静かな武器」になった
そして中国は、このレアアースを重要な交渉材料としても使ってきました。

 

1991年には国家鉱物資源保護法を制定し、レアアース17種を国家で管理する体制を構築しました。日本に対しては、2010年9月、尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件の際に、約3カ月にわたってレアアースの輸出をほぼ停止する措置を取ったこともあります。

 

つまり、レアアースは単なる工業材料ではありません。それは、現代における外交交渉の静かな武器でもあるのです。

 

コストを考えると厳しい現実
中村さんは、南鳥島でレアアースが取れた事実そのものは喜ばしいとしながらも、今後かかる時間やコストを考えると、南鳥島のレアアースに大きな経済的期待を寄せるのは現実的ではないと語ります。

 

理由は非常にはっきりしています。

 

まず、船で南鳥島まで行かなければなりません。そして、深海から泥を掘り出し、それを日本に持ち帰り、さらに酸やアルカリを使って製錬しなければなりません。しかも日本では、環境面の厳しい規制にも対応しなければなりません。

 

つまり、南鳥島のレアアースは、たとえ大量に眠っていたとしても、それを実際に使える形にするまでの道のりがとても長く、重く、コストもかかるのです。

 

それに対して中国産は、すでに大量生産・大量供給の体制が整っており、価格もはるかに安い。正面からコスト勝負をすれば、やはり太刀打ちしにくいのです。

 

したがって、現実的には、コストを考えたビジネス面ではなく、本当の価値は「経済安全保障」にあると捉えるべきということです。コストや環境負荷面で見向きもされなかった太陽光発電も、エネルギーロックダウンの場面では安全保障になるのと同じです。

 

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