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『自然の甘味料に過剰摂取はない』

『自然の甘味料に過剰摂取はない』

自然に組み込まれた過剰摂取のブレーキ―

最近は、自然の甘味料そのものの効果は疑いようがないため、ハチミツやショ糖の「過剰摂取」の危険を流布する人たちもSNSを賑わせています。そもそも自然の甘味料には、「過剰摂取」など存在しないことを2回に渡ってじっくりとお伝えしていきます。

 

 

 

ハチミツを一匙、口の中でとろりと転がしたときのあの感覚を思い出してみてください。舌の上に広がる強烈な甘さは、最初こそ幸福の頂点を運んでくれますが、二匙、三匙と続けるうちに、不思議なほど早く「もういい」という感覚が体の奥から立ちあがってきます。

 

 

 

この体験は、決して個人の気まぐれや意志の力ではありません。私たちの体には、濃厚な甘さに対して自動的にブレーキをかける精緻な仕組みが、幾重にも組み込まれています。以下、その仕組みを1つずつ、エビデンスとともに紐解いていきましょう。

 

 

 

⭐️「感覚特異的満腹感」という体内のセキュリティシステム

 

まずお伝えしたいのが、栄養学で「感覚特異的満腹感(sensory-specific satiety)」と呼ばれる現象です。

 

 

 

同じ味の食べ物を口にし続けると、その味に対してだけ快感が急速に薄れていく。けれど別の味の食べ物は、相変わらずおいしそうに見える——これがこの現象の核心です。お腹いっぱいのはずなのにデザートは入る、という日常の経験は、まさにこれです。

 

 

 

体が特定の栄養素に偏らないよう、自然に食事を切り上げさせる。いわば体内に組み込まれたセキュリティシステムです。

 

 

 

1998年に発表された研究では、若い健康な成人32人(男性16人、女性16人)を対象に、この現象が検証されました[1]。参加者は8種類のテスト食品について「味の心地よさ」「食感の心地よさ」「食べたい欲求」を評価し、そのうち一つを昼食として好きなだけ食べたあと、2分後と20分後に同じ項目を再評価しました[1]。

 

 

 

結果、甘い食品を食べた人は、甘い食品全般に対する「おいしさ」と「食べたい欲求」の両方が有意に低下しました。塩味でも同じことが起こり、さらに食感(硬さ)についても、程度は弱いながら同様の傾向が見られています[1]。

 

 

 

さらに驚くべきことに、この効果が最大になるのは食べ終わってからわずか2分後です。1989年の研究では、食後2分、20分、40分、60分の四回にわたって評価が行われました。すべての食品、すべての感覚項目(見た目・匂い・食感・味)において、最大の低下は2分後に起きていました。そして20分後以降、それ以上下がることはありませんでした[2]。

 

 

 

この事実には重い意味があります。食後2分では、食べ物はまだほとんど消化・吸収されていません。つまり感覚特異的満腹感は、カロリーが体に届く前に、感覚刺激だけで成立しているということです[3]。血糖値の上昇を待つ必要すらないのです。

 

 

 

味の刺激が強い食品ほど、この「飽き」が速く立ち上がることが複数の研究で示されています。したがってハチミツのような濃厚な甘味は、まさにその濃厚さゆえに、体に「もう十分だ」というシグナルを早く出させます。人工液糖による薄い甘さの清涼飲料水をだらだらと飲み続けられてしまうのとは、正反対の性質なのです(そもそも本物の自然の甘味料の味に慣れている人は、液糖入りのものは飲めない)。

 

 

 

⭐️甘さの門番

 

私たちの舌には、甘さだけを感じ取る専用のセンサーが備わっています。それが「T1R2/T1R3」と呼ばれるものです。

 

 

 

このセンサーは、二つの異なるタンパク質(T1R2とT1R3)がペアを組んで初めて働きます。片方だけでは機能しません。二人がかりで一つの門を守っている、そんなイメージです。そしてこの門番一組が、砂糖もハチミツも人工甘味料も、化学構造がまるで違うのに「甘い」と感じられるものすべてを、まとめて検知しています[4]。

 

 

 

しかもこのセンサーは、ただ「甘い」と脳に伝えるだけではありません。細胞の内部で信号を次々に受け渡していく仕組みを通じて、「いま体はブドウ糖を必要としているのか」「栄養は足りているのか」という判断を、ホルモンを司る内分泌系と結びつける役割まで担っています[5]。

 

 

 

⭐️舌だけではなく腸にもある

さらに面白いのは、この同じセンサーが「舌だけでなく腸の中にも並んでいる」という事実です[6]。

 

 

 

胃を通り抜けた糖は、小腸で再びT1R2/T1R3に出会います。ここで甘さが検知されると、α-ガストデューシンという細胞内の伝達役が起動し、その先で腸内分泌細胞から満腹に関わるホルモンが放出されます[7]。

 

 

 

放出されるのは、主に次のようなホルモンです。

・GLP-1(L細胞から放出)——インスリン分泌を促し、胃の排出を遅らせ、満腹感を高める[8]。

・GIP(K細胞から放出)——インスリン分泌を後押しする[7]。PYY——食欲を抑える方向に働く[9]。

同時に、SGLT1というブドウ糖の運び手の量が増え、腸からの糖の吸収そのものも調整されます[7]。

 

 

 

健康な35人を対象にした人での試験で、このセンサーをラクチゾールという物質でブロックすると、ブドウ糖を与えたときのGLP-1とPYYの分泌が有意に減少しました。センサーを塞げばホルモンが出なくなる——つまり、この門番が確かに満腹ホルモンの引き金を引いているということです[9]。

 

 

 

マウスでも、α-ガストデューシンやT1R3を欠損させると、ブドウ糖によるGLP-1の放出が大きく損なわれます[5]。つまり、濃厚な甘さは舌から腸まで、体の各所で「甘い信号」を鳴り響かせます。そしてその信号の強さに応じて、満腹に関わるホルモンの応答が引き起こされるのです。

 

 

 

⭐️消化管ホルモンGLP-1による「食べ終わりの合図」

濃厚な糖分が小腸に届くと、そこから「満腹ホルモン」が放出されます。その代表格が「GLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)」です。

 

 

 

このホルモンは、小腸にあるL細胞という細胞から、食後に血中へと送り出されます[10]。近年、痩身薬として世界的に話題になっているオゼンピックなどが狙っているのは、まさにこのGLP-1の働きです。

 

 

 

GLP-1が体に対して行うことは、大きく三つに整理できます[10]。

・インスリンを出させる——ただし血糖が高いときだけ働く「血糖依存性」という賢い性質を持ちます[11]。

・胃の中身が出ていくのを遅らせる——食べ物が胃にとどまる時間が延び、満腹感が長続きします[10]。

・食欲そのものを抑える——脳に直接働きかけ、食事量を減らします[10]。

 

胃排出を遅らせる作用は、想像以上に強力です。健康な男性8人での試験では、GLP-1を投与すると固形物が胃を出始めるまでの時間が約19分から約91分へと延び、排出速度も半分以下に落ちました。「胃に食べ物が残っている」という感覚そのものが、満腹シグナルとして働くわけです[10]。

 

 

 

⭐️糖濃度が濃いほど強く出る

そして重要なのが、「糖の濃度が高いほどGLP-1の放出量も増える」という点です。これは実験で確認されています。

 

 

 

ラットの小腸を使った実験では、5パーセントのブドウ糖液でGLP-1が14.9から20.2 pmol/Lへ上昇したのに対し、20パーセントでは19.6から39.5 pmol/Lへと、はるかに大きく跳ね上がりました。ヒトの腸の組織を使った実験でも、濃度が高いほど分泌が増える用量依存性が確認されています[12]。

 

 

 

ハチミツのようにブドウ糖と果糖が高濃度で凝縮された食品は、小腸に到達した瞬間、このGLP-1放出のスイッチを強く押します。その結果、脳は「もう食べる必要はない」という明確なメッセージを受け取るのです。

 

 

たとえ、ハチミツを大量に勧められても体が受け付けないようになっているので、ハチミツの過剰摂取というようなことは非現実的です。頭の中だけでなく、自分の体でも試すとよいでしょう。

 

 

 

さらに次回でも自然の甘味料を生理的に過剰摂取できない理由を述べていきます。

 

 

参考文献

  1. Sensory-specific satiety for a food that is filled with a savoury or sweet flavour. Appetite 1998, 31, 291-306.
  2. The time course of sensory-specific satiety. Appetite 1989, 12, 57-68.
  3. Sensory-specific satiety: a bibliometric analysis and its implications. Psychol Bull 2001, 127, 325-341.
  4. Functional roles of the sweet taste receptor in oral and extraoral tissues. Curr Opin Clin Nutr Metab Care 2014, 17, 379-385.
  5. Regulation of glucose-dependent GLP-1 secretion by tas1r2 in the gut. Am J Physiol Endocrinol Metab 2019, 316, E668-E679.
  6. Sweet taste signaling in the gut. Sci STKE 2007, 405, tw343.
  7. Gut-expressed gustducin and taste receptors regulate secretion of glucagon-like peptide-1. Proc Natl Acad Sci U S A 2007, 104, 15069-15074.
  8. Sweet-taste receptors, low-energy sweeteners, glucose absorption and insulin release. Br J Nutr 2010, 104, 803-806.
  9. Modulation of gastrointestinal hormone release by sweet taste receptor blockade in healthy subjects. Am J Physiol Endocrinol Metab 2011, 301, E317-E325.
  10. Glucagon-like peptide-1 promotes satiety and slows gastric emptying in humans. Am J Physiol 1999, 277, R910-R916.
  11. GLP-1 receptor stimulation and insulin secretion in humans. J Clin Endocrinol Metab 2006, 91, 1916-1923.
  12. Molecular mechanisms of glucose-stimulated GLP-1 secretion from intestinal L cells. Diabetes 2015, 64, 370-382.

 

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