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『「砂糖ゼロ」という名の落とし穴』

健康のため、あるいは痩せるために、SNSや一般健康本で流布されている「砂糖抜き」ダイエットを実践したことのある方は少なくないのではないでしょうか。ところが、その「善意の引き算」が、私たちの体内に共生している百兆もの微生物たち、すなわち腸内細菌叢にとっては、まるで突然の干ばつになり、最終的には糖尿病を引き起こすことが最新の研究で示されました。

 

2026年6月にシカゴで開催された米国内分泌学会(ENDO 2026)にて発表され、同時期に学術誌「Frontiers in Immunology」に掲載された動物実験の結果は、私たちが長年信じてきた「砂糖は悪、抜けば善」という単純な図式に、真っ向から疑問符を投げかけるものでした(1)。

 

実験の設計は、「砂糖入りの低脂肪食を食べる組」と「砂糖をまったく含まない低脂肪食を食べる組」という二つのグループのマウスを、16週間にわたって追跡比較するという、極めてシンプルなものでした。そして研究者たちは、血糖値の処理能力、インスリンの効き具合、血液中を巡る代謝関連ホルモン、腸内に住む細菌の顔ぶれ、さらには大腸と肝臓における炎症の度合いを、隅々まで丁寧に観察しました。

 

砂糖を抜いたマウスは、体重こそ対照群とほぼ変わらなかったものの、その内側では大きな異変が進行していました。血糖をうまく処理できなくなり、インスリンが効きにくくなるいわゆる「インスリン抵抗性」が現れ、腸内細菌叢のバランスは大きく崩れ、腸壁では炎症がくすぶり、肝臓には脂肪が忍び寄る「脂肪肝」の所見までもが認められました。これは、過去記事でもお伝えしてきたとおり、プーファ(植物油脂、フィッシュおオイルなど)過剰による一連のドミノ症状です。

 

腸内細菌はどのように変化したのでしょうか?

 

砂糖を抜いたマウスの腸内において、現代医学で善玉系の常在菌とされる、たとえば「ラクトバチルス・ムリヌス(Lactobacillus murinus)」やラクノスピラ科(Lachnospiraceae)の細菌たちが軒並み姿を消していたと報告されています。それと入れ替わるようにして、炎症やストレスにで増殖されるとされる細菌、すなわち「ヘリコバクター・ガンマニ(Helicobacter ganmani)」や「オドリバクター・スプランクニカス(Odoribacter splanchnicus)」、「アリスティペス属(Alistipes)」などが増殖していました。

 

腸内細菌のこの変化は、全身に強いストレスが掛かっていたことの証拠(結果)を表しています。

 

この腸内の異変は、決して腸の中だけにとどまりませんでした。大腸では、腸の絨毛を構成する陰窩(クリプト)の構造が乱れ、粘液を分泌する杯細胞が減少し、炎症性の白血球やリンパ球が次々と動員され、炎症を煽るシグナル分子が活発に発現していました。

さらに肝臓では、細かな脂肪滴が肝細胞内に蓄積する「微小水疱性脂肪変性」が認められ、こちらでも炎症性物質の発現上昇が確認されました。

 

ではなぜ、「健康に悪い」と長らく言われ続けてきたショ糖を抜くことで、糖尿病、脂肪肝、そしてそれを反映した腸内環境の悪化がもたらされるのでしょうか?

 

低血糖によって血糖値を上げるべく、リポリシス(脂肪分解)が必ず起こります。これは体内の脂肪あるいは筋肉を分解して得た脂肪とタンパク質を糖に変換する緊急処置です。

 

この時、マウスの脂肪組織に蓄積していたプーファが血液中に流出します。このプーファが糖尿病、肝脂肪を引き起こすのです。そして、このプーファによる全身のストレスの影響の結果として、腸内環境が荒れます。あた、腸内細菌叢も糖質がないことでストレスとなります。

 

過去にも、ココアバターを脂質源にしたショ糖を含まない高脂肪食をマウスに与えると、肝臓には脂肪沈着と炎症が生じ、インスリン抵抗性および腸内環境が悪化したことが報告されています(2)。

 

私たちはとかく、健康の議論において「悪者を一人決めて、それを退治すれば物事は良くなる」という勧善懲悪の物語を求めがちです。脂肪が悪役だった時代があり、コレステロールが悪役だった時代があり、そして今は砂糖が悪役の座に就いているように喧伝されています。

このような悪玉と善玉を分けて、悪玉を攻撃すれば良いという図式は、一見分かりやすいストーリであり、製薬業界や現代医学の格好のマーケットになります。しかし、自然・生命体の摂理はそのような単純な二元論では動いていません。特に、私たちの心身は、基礎代謝(=糖のエネルギー代謝、甲状腺機能)中心で動いており、常にこの観点で判断しなければならないのです。

参考文献
1.    Sucrose-Free Low-Fat Diet Induces Metabolic Dysfunction through Gut Dysbiosis and Inflammation in Mice. Frontiers in Immunology 2026, 17, 1813722

2.    Gut Dysbiosis Shaped by Cocoa Butter-Based Sucrose-Free HFD Leads to Steatohepatitis, and Insulin Resistance in Mice. Nutrients 2024, 16(12), 1929

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