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『認知症が女性に多い本当の理由』

認知症が女性に多い本当の理由』

 

アルツハイマー病(AD)は、性別によって有病率に顕著な差があることが国内外の研究で明らかになっています。

 

 

 

特に注目すべき点は、アルツハイマー病患者の約3分の2が女性であるという事実です。

 

参考文献

・Differences Between Women and Men in Incidence Rates of Dementia and Alzheimer’s Disease.  J Alzheimers Dis. 2018;64(4):1077–1083.

 

・Women and the risk of Alzheimer’s disease. Front Glob Womens Health. 2024 Jan 5;4:1324522.

 

 

 

その理由として、従来、この性差は「女性が男性より平均寿命が長いから」と説明されてきました。しかし、寿命だけではこの差を完全に説明することはできません。実際には、エストロゲンという女性ホルモンがこの問題の核心にある可能性が指摘されています。

 

 

エストロゲン過剰が認知症リスクを高める?

女性の方に認知症が多い原因として、現代医学はいつものごとく真逆の説を流布しています。それは、エストロゲンの減少が原因とする説です。

 

 

 

エストロゲンの減少が認知症の原因であれば、そもそもエストロゲンが少ない男性の方が認知症になりやすいはずです。

 

 

実際は、過去記事でもお伝えしたように、更年期以降のエストロゲン過剰がアツルハイマーなどの認知症の原因になっています。

 

 

エストロゲンは「メタボリック・スイッチ」させる

エストロゲンがピルビン酸脱水素酵素(PDH)をブロックして、ミトコンドリアでのエネルギー産生(糖の完全燃焼)をブロックする作用があります。

 

 

 

またエストロゲンはミトコンドリアでのATP合成酵素や熱産生に関わる酵素をブロックすることでミトコンドリアでの糖からのエネルギーおよび熱産生を低下させます。

 

 

 

エストロゲンは糖から脂肪へエネルギーの源をシフトさせる(メタボリック・スイッチ)ことで、アルツハイマー型認知症を含めたあらゆる病態に関わります。

 

脂肪の燃焼は、マラソンで脳が溶ける現象と同じです。

参考文献

・Roles of Estrogen, Estrogen Receptors, and Estrogen-Related Receptors in Skeletal Muscle: Regulation of Mitochondrial Function. Int J Mol Sci. 2023 Jan 17;24(3):1853.

 

・Estrogen-related receptors stimulate pyruvate dehydrogenase kinase isoform 4 gene expression. J Biol Chem. 2006 Dec 29;281(52):39897-906.

 

・Mechanism of inhibition of mitochondrial ATP synthase by 17β−Estradiol. J Bioenerg Biomembr 45, 261–270 (2013).

 

 

 

 

脂肪を糖の代わりのエネルギーする(脂肪の燃焼、ベータ酸化)と、糖(グルコース)の酸化よりも多くの活性酸素種(ROS)を生成します。この過剰なROSは、神経細胞に損傷を与え、アルツハイマー病の進行に寄与します。

 

 

特に脂肪を燃焼する過程で発生するプーファ(多価不飽和脂肪酸)の過酸化脂質は神経毒性があり、アルツハイマーやパーキンソン病の特徴(結果)であるアミロイドβやタウタンパク質の凝集を促進することが示されています。

 

 

 

脳は体の中で最もエネルギーを消費する臓器であり、全体のエネルギー消費の約20%を占めています。記憶や判断などの思考を担う大脳はブドウ糖に依存しているため、糖から脂肪への燃料のシフト(メタボリック・スイッチ)は認知機能の低下につながりやすいのです。

 

 

参考文献

・Lipid metabolism and Alzheimer’s disease: clinical evidence, mechanistic link and therapeutic promise. FEBS J. 2022 Jan 18;290(6):1420–1453.

 

・Fatty Acid Oxidation in the Pathogenesis of Alzheimer’s Disease. Am J Pathol. 2005 May;166(5):1283–1289.

 

 

 

ホルモン補充療法で認知症リスク上昇

実際に、質の高い臨床試験(ランダム化比較試験)や更年期以降でエストロゲン補充療法を開始した場合、言語記憶の悪化などの認知症リスクが高くなったことが複数報告されています。

 

 

アルツハイマー病患者の約3分の2が女性であるという事実は、単に女性の長寿によるものだけではなく、更年期以降のエストロゲン過剰がその背景にあります。

 

 

認知症予防には、糖のエネルギー代謝を支える食を含めた生活習慣やエストロゲンへの留意が不可欠です。

 

 

参考文献

・Perspective: Estrogen and the Risk of Cognitive Decline: A Missing Choline(rgic) Link? Adv Nutr. 2021 Nov 27;13(2):376–387.

 

・Long-term cognitive effects of menopausal hormone therapy: Findings from the KEEPS Continuation Study. PLoS Med. 2024 Nov 21;21(11):e1004435.

 

・Systematic review and meta-analysis of the effects of menopause hormone therapy on risk of Alzheimer’s disease and dementia. Front Aging Neurosci. 2023 Oct 23;15:1260427.

 

・Menopausal hormone therapy and dementia: nationwide, nested case-control study. BMJ. 2023 Jun 29:381:p1499.

 

・Dementia in Women Using Estrogen-Only Therapy. JAMA. 2023 Dec 18;331(2):160–162.

 

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