糖質制限によって低血糖になることで、私たちの体の代謝が健康から病的なものにスイッチします(拙著『慢性病の原因は「メタボリック・スイッチ」にあった!』参照)。
糖質制限を行うと、脂肪分解(リポリシス)によって血液中に脂肪(プーファ)があふれます。
肝臓では、エネルギー源としての糖質の代替として、この脂肪を分解して「ケトン体(ketones)」を大量に産生されます。
このケトン体は、一時的に脳や筋肉のエネルギー源として糖質の代替を果たしますが、それはあくまでも緊急事態のとき限定です。
なぜならば、臓器がケトン体をエネルギー源として利用すれば、本来の糖質をエネルギー源として利用できなくなるからです(ランドル効果といいます)。
糖質をエネルギー源として利用できない場合は、ミトコンドリアというエネルギー産生所が徐々に破壊され、みなさんの基礎代謝(=糖のエネルギー代謝)が低下していきます。
したがって、ケトン体をエネルギー源としている限りは、みなさんの基礎代謝が低下することで、肥満(糖尿病)や病的な痩せが起こります(これも拙著で詳述しています)。
さて、糖質制限のスポーツのパフォーマンスへの影響はどうでしょうか?
耐久競技のサイクリングの選手に、ケトン体のサプリメントを投与した最新のランダム化二重盲検比較臨床試験(ワクチンや医薬品では厳密に行われていない)が報告されています(Acute Ketone Monoester Supplementation Impairs 20-min Time-Trial Performance in Trained Cyclists: A Randomized, Crossover Trial. International Journal of Sport Nutrition and Exercise Metabolism, 2023; 33 (4): 181)。
糖質制限かつ高脂肪食である現代食によって肝臓でのケトン体産生およびエネルギー源としての使用がアップしますが、ケトン体のサプリメントを投与するとその過程がさらに加速されます。
この臨床試験では、ケトン体のサプリメントを摂取したグループでは、有意にスピードの維持時間が低下しました。
つまり、ケトン体のエネルギー利用は、スポーツのパフォーマンスを低下させるということです。
ケトン体の投与によって、心臓血管系のストレスが高まることは以前から知られていましたが、今回の結果はそれを補強するエビデンスです。
糖質制限で、プーファが体内に充満するだけでなく、ケトン体をエネルギー源して慢性的に利用する状態になることで、スポーツのパフォーマンス低下だけでなく、あらゆる心身の不具合が出てきます。
物事は長期的な視点にも立って、最もシンプルな原理から眺め直さないといけません(^_−)−☆。