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『アンチエイジングの鍵は心の持ち様』

 

『アンチエイジングの鍵は心の持ち様』

 

年をとっても体力・認知力も向上する人がいるのはなぜか?

 

 

私自身、最近は心身の体力が低下しているように感じることが多くなってきました。年齢を重ねることは、まるで下り坂を転がり落ちる雪だるまのように、心も体も少しずつすり減っていく一方なのだ ― 私たちはずっと、そう信じ込まされてきました。

 

 

 

しかし、12年という長い歳月をかけて1万1千人以上の高齢アメリカ人を追跡した最新の研究では、なんと65歳以上の約半数(45.15パーセント)が、認知機能や身体機能のどちらか、あるいは両方で「測定可能なレベルの向上」を示したのです[1]。下り坂どころか、人によっては緩やかな上り階段を登っていた ― そんな景色が浮かび上がってきました。

 

 

 

⭐️平均値という名のフィルターが見落とすもの

ここで一つ、面白い「マジック」をご紹介します。教室のテストで、生徒全員の点数を平均してしまうと、頑張って大きく伸びた子の輝きも、ぼんやりした全体像の中に溶けて消えてしまいますよね。高齢者研究もまったく同じで、これまで「平均値」というフィルターを通して老化を眺めていたために、伸びていく人々の姿がすっぽり抜け落ちていたのです。

 

 

老化についても平均だけ見れば確かに加齢とともに衰えが見えます。しかし一人ひとりの軌跡をたどると、まったく別の物語が浮かび上がってきます。今回の研究は、その「個人の物語」に光を当てた、いわば老化研究の顕微鏡を取り換えたような試みでした。

 

 

 

具体的には、約32パーセントが認知機能で、約28パーセントが歩行速度で改善を見せました。歩行速度は、老年医学の世界では「全身の通信簿」とも呼ばれる指標で、入院リスクや死亡率と密接につながっていることがすでに知られています[2,3]。つまり、ただ歩くのが速くなったというだけの話ではなく、命の灯がより強く燃え始めたサインでもあるのです。さらに、認知機能が「下がらず維持された人」まで含めると、半数以上が「老いれば衰える」という運命論から自由になっていました。

 

 

 

⭐️心の中の「老い観」が、細胞の運命を変える

では、なぜ同じ年齢でも、伸びる人と伸びない人がいるのでしょうか。研究チームが鍵として取り出したのは、ちょっと意外なもの ― 「自分が老いることをどう思っているか」、つまり「年齢観(age beliefs)」でした。

 

 

「年を取ると頭も体もダメになる」と信じている人と、「年を重ねるほど味わい深くなる」と信じている人。この心の中の物語の違いが、12年後の体力と頭脳の差として、はっきり数字に表れたのです。年齢、性別、教育歴、慢性疾患、うつ症状などを統計的に差し引いてもなお、ポジティブな年齢観を持つ人ほど、認知機能でも歩行速度でも改善する確率が有意に高かったといいます。

 

 

 

広告や映画、SNSの中で繰り返し描かれる「ヨボヨボのおじいちゃん像」「物忘れの激しいおばあちゃん像」 ― そうした社会のシナリオを、人は知らず知らずのうちに自分の台本として取り込んでしまう。すると、その台本どおりに、細胞や脳がふるまい始める。ちょうど、毎日「私はダメだ」と呟き続けると、本当に背中が丸まってくる。この現象は、「ステレオタイプ具現化理論(Stereotype Embodiment Theory)」と呼ばれます[4]。

 

 

 

実際、過去の研究では、ネガティブな年齢観を抱いていた人は、記憶力の低下、歩行速度の遅延、心血管リスクの上昇、さらにはアルツハイマー病に関連する脳のバイオマーカー(海馬の萎縮や、アミロイド斑・神経原線維変化の蓄積)までもが促進されることが報告されています[5]。逆に、ポジティブな年齢観は、認知症リスクを高める遺伝的傾向(APOE ε4)を持つ人たちですら守る盾になり得ることも分かっています[6]。

 

 

そして2002年の研究では、自分の老いを肯定的に見ていた人々は、そうでない人々より平均で7.5年も長生きしていたという、衝撃的な数字も報告されています[7]。これは、低血圧や禁煙が寿命を延ばす効果を上回るほどの数字でした。心の持ち方が、もはや薬や運動以上の「処方箋」となるということです。

 

 

 

⭐️「もう手遅れ」は、誰にも言えない

今回の研究でもっとも勇気をもらえるのは、改善を見せた人々が「もともと弱っていた人たち」に限らなかったという点です。スタート時点で認知も体力も正常だった人々の中からも、12年後にさらに上向きへ伸びていく人が次々と現れました。つまり、これは病気から立ち直る「回復」ではなく、もともと私たちの中に眠っている「予備能(reserve capacity)」が、然るべきスイッチで点火される現象なのです。

 

 

 

脳科学の世界では、高齢になってからも脳には可塑性(プラスティシティ)が残っており、訓練や経験によって新たな神経回路を編み直せることがすでに繰り返し報告されています[8,9]。古い陶器が、金継ぎによって以前より美しくなるように、老いた脳もまた、新しい「つなぎ目」を作り出せる存在なのです。

 

 

 

家族の何気ない「もう年だから無理しないで」という言葉を「まだまだこれからだね」に置き換えること ― そんな小さな書き換えの積み重ねが、12年後の歩幅や記憶力を変える可能性があるわけです。

 

 

「老いは下り坂」という古い地図を畳んで、私たちは新しい地図を広げる時に来ています。そこには、年輪を重ねるごとに深まる森、登るほどに視界が開ける丘、そして何より、自分の手で書き換えられる物語が描かれているのです。もちろん、この加齢を肯定的に捉えることができるのも、基礎代謝(糖のエネルギー代謝)を高くキープすることで可能になります。

参考文献

  1. Levy BR, Slade MD. Aging Redefined: Cognitive and Physical Improvement with Positive Age Beliefs. Geriatrics 2026, 11(2), 28
  2. Studenski S, Perera S, Patel K, et al. Gait Speed and Survival in Older Adults. JAMA 2011, 305(1), 50-58
  3. Liu B, Hu X, Zhang Q, et al. Usual walking speed and all-cause mortality risk in older people: A systematic review and meta-analysis. Gait Posture 2016, 44, 172-177
  4. Levy B. Stereotype Embodiment: A Psychosocial Approach to Aging. Curr Dir Psychol Sci 2009, 18(6), 332-336
  5. Levy BR, Ferrucci L, Zonderman AB, Slade MD, Troncoso J, Resnick SM. A Culture-Brain Link: Negative Age Stereotypes Predict Alzheimer’s Disease Biomarkers. Psychol Aging 2016, 31(1), 82-88
  6. Levy BR, Slade MD, Pietrzak RH, Ferrucci L. Positive age beliefs protect against dementia even among elders with high-risk gene. PLoS One 2018, 13(2), e0191004
  7. Levy BR, Slade MD, Kunkel SR, Kasl SV. Longevity increased by positive self-perceptions of aging. J Pers Soc Psychol 2002, 83(2), 261-270
  8. Park DC, Bischof GN. The aging mind: neuroplasticity in response to cognitive training. Dialogues Clin Neurosci 2013, 15(1), 109-119
  9. Stern Y, Arenaza-Urquijo EM, Bartrés-Faz D, et al. Whitepaper: Defining and investigating cognitive reserve, brain reserve, and brain maintenance. Alzheimers Dement 2020, 16(9), 1305-1311

 

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