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『現代人には危険な「断食」療法』

『現代人には危険な「断食」療法』

近年、空前のブームとなっている「インターミッテント・ファスティング(断続的断食)」。一日のうち食べる時間を八時間に絞る方法や、週のうち二日だけカロリーを大きく削る「5:2ダイエット」など、そのバリエーションは多彩です。

 

SNSや健康番組では「短期間で体重が落ちた」「お腹がへこんだ」という体験談が花盛りで、まるで万能の魔法のように語られています。しかし、その魔法の杖は本当にすべての人に同じように振るえるのでしょうか。とりわけ、還暦を迎えている高齢者にとっては、危険な行為となることが最新の研究で示されました[1]。

 

1,800人以上を対象とした28本の臨床試験を統合したこの大規模研究(メタ解析)によると、断続的断食は確かに年齢や性別を問わず体重とBMIを下げる効果がありました。ところがその内訳をのぞいてみると、低血糖からくるある重大な問題が浮き彫りになりました。

 

⭐️減っているのは脂肪ではなくあなたの「筋肉」

健康とは、体重計の数字が小さくなることではありません。ここに、多くのダイエッターが見落としている落とし穴があります。先述の2026年のメタ解析が浮き彫りにしたのは、減量で失われた重さの中に、想像以上に多くの「筋肉」が含まれていたという事実でした。一般に、ダイエットで落ちる体重の2割から3割は筋肉に由来するとされていますが、ある断食試験では、なんと減った体重のうち65パーセントが筋肉や骨などの除脂肪組織だったと報告されています。

 

これは、加齢とともに自然に筋肉が減っていく高齢者にとっては、まさに「火に油」を注ぐ行為になりかねません。2019年のレビュー論文でも、断食による筋分解はオートファジー(自己貪食)の亢進と関係しており、高齢者では筋萎縮を加速させる懸念があると指摘されています [2,3]。

 

糖質が枯渇した状態ではコルチゾールという「ストレスホルモン」が分泌され、体は自分の筋肉を分解してブドウ糖を作り出します。いわば、暖を取るために自宅の柱を薪にして燃やしているようなものなのです [4,5]。

 

⭐️「断食+筋トレ+たんぱく質」という三種の神器、しかし…

では、筋肉を守るにはどうすればよいのか。研究者たちが推奨する処方箋は、「断食をするなら必ず筋トレと十分なたんぱく質をセットにしなさい」というものです。2021年に発表されたメタ解析では、レジスタンストレーニングを組み合わせると、断食による除脂肪量の減少が抑えられることが示されています [6]。ある試験では、隔日断食に運動を組み合わせたグループは6キロの減量に成功し、その内訳は脂肪が5キロ、筋肉は維持されたまま、さらにLDLコレステロールも十二パーセント下がったと報告されています [7]。

 

ただし、ここで一歩立ち止まって考えてみる価値があります。そもそも「筋肉を守るために筋トレを追加しなければならない食事法」とは、本当に体に優しい方法と言えるのでしょうか。本来、十分な糖質と良質なたんぱく質を規則正しく摂っていれば、ことさら筋肉を守るための「防御策」など必要ないはずです。むしろ、筋トレはコルチゾールの分泌を促進させて筋肉を分解する危険性を孕んでいます。

 

断食中は、脂肪細胞から遊離脂肪酸(とくに炎症性のプーファ<多価不飽和脂肪酸=PUFA>)が大量に血中に放出されます。これがランドル回路(Randle cycle)を通じて筋肉の糖代謝を阻害し、いわゆる「インスリン抵抗性」を引き起こすことが、2011年の総説ですでに詳細に論じられています [8,9]。つまり、断食は短期的には数字を改善しても、長い目で見ればミトコンドリアのエネルギー産生を低下させるのです。

 

⭐️断食では基礎代謝が低下する
さらに、今回のメタ解析にはもうひとつ、研究者たちの眉をひそめさせる発見がありました。それは、ほとんどの年齢層でLDLコレステロール(現代医学で悪玉と呼ぶもの)が「下がる」のではなく「上がった」という事実です。

断食だけでなく、糖質制限のケトジェニックダイエット(高脂肪食)によってLDLが劇的に上昇する患者群が報告され、その機序が議論されました [10,11]。これは、基礎代謝が低下することによって、LDLコレステロールがホルモンなどに転換できなくなるからです。

 

⭐️基礎代謝の中心となる甲状腺の機能が低下する

加えて、断食が及ぼす影響として見落とされがちなのが「甲状腺機能」への打撃です。2024年に発表された総説によれば、長時間の絶食では甲状腺ホルモンの活性型であるT3が低下し、不活性型のリバースT3(rT3)への変換が増えることが知られています [12]。

 

これはいわば、体が「飢餓モード」に入って暖房の温度設定を下げる現象です。基礎代謝は落ち、体温は下がり、結果として「やせやすい体」どころか「太りやすく疲れやすい体」へと舵を切ってしまう可能性があります。

 

⭐️「やせる」と「健康になる」は同義ではない

さらに最近の観察研究も、この警鐘を補強しています。2024年にアメリカ心臓協会で発表された研究では、食事の時間枠を8時間未満に制限している人々は、心血管死亡リスクが91パーセントも高かったと報告されました [13]。これはあくまで観察研究であり因果関係を断定するものではありませんが、「やせている=健康」という単純な等式が成り立たないことを、改めて私たちに突きつけています。

 

十分に基礎代謝が高い人は予備力があるため、断食や糖質制限といった一時的なストレスを跳ね返せますが、現代人、とくに年を重ねた体にとっては、致命的な負債になり得ます。

 

体をフィットさせるには、基礎代謝を上げ、甲状腺を温存し、ストレスホルモンを抑える鍵は、断食でも糖質制限でもなく、十分な糖質、良質なたんぱく質、そして必須栄養素を「過不足なく満たす」ことにあります。断食を「魔法の杖」ではなく、せいぜい「道具箱の中の一本のドライバー(プーファやエストロゲンをこれ以上摂取しない)」として、その限界と副作用を冷静に見極めて使うこと──それが、私たちが手にすべき本当の「健康リテラシー」です。

痩せたいのであれば、基礎代謝を高めることで、筋肉ではなく、脂肪を減らすことができます。

参考文献
1. Pellegrini M, et al. Age-Specific Analysis of the Effects of Intermittent Fasting on Body Composition and Cardiometabolic Markers in Healthy Adults and Individuals with Overweight or Obesity: A Systematic Review and Meta-Analysis of Randomized Controlled Trials. Nutrients. 2026;18(11):1799. doi:10.3390/nu18111799.

2. Nakamura S, et al. Autophagy and Longevity. Mol Cells. 2018;41(1):65-72.

3. Masiero E, et al. Autophagy is required to maintain muscle mass. Cell Metab. 2009;10(6):507-515.

4. Nair KS, et al. Effect of starvation on the metabolic response of growth hormone, insulin, and cortisol. J Clin Endocrinol Metab. Reviewed in: Intermittent Fasting and Hormonal Regulation. Nutrients. 2024;16(15):2502.

5. Sui X, et al. The influence of extended fasting on thyroid hormone. Front Endocrinol (Lausanne). 2024;15:1429468.

6. Keenan S, et al. Intermittent fasting and continuous energy restriction result in similar changes in body composition and muscle strength when combined with a 12 week resistance training program. Eur J Nutr. 2022;61(4):2183-2199.

7. Bhutani S, et al. Alternate day fasting and endurance exercise combine to reduce body weight and favorably alter plasma lipids in obese humans. Obesity (Silver Spring). 2013;21(7):1370-1379.

8. Boden G. Obesity, insulin resistance and free fatty acids. Curr Opin Endocrinol Diabetes Obes. 2011;18(2):139-143.

9. Karpe F, et al. Fatty acids, obesity, and insulin resistance: time for a reevaluation. Diabetes. 2011;60(10):2441-2449.

10. Goldberg IJ, et al. Dramatic elevation of LDL cholesterol from ketogenic-dieting: A Case Series. Am J Prev Cardiol. 2023;14:100495.

11. Soto-Mota A, et al. Increased LDL-cholesterol on a low-carbohydrate diet in adults with normal but not high body weight: A meta-analysis. Am J Clin Nutr. 2024;119(3):740-747.

12. Sui X, Liu B, Wang Y. The influence of extended fasting on thyroid hormone: a systematic review. Front Endocrinol (Lausanne). 2024;15:1429468.

13. Zhong VW, et al. Association of Time-Restricted Eating with All-Cause and Cardiovascular Mortality. Circulation. 2024;149(Suppl_1):P192. American Heart Association EPI|Lifestyle Scientific Sessions 2024.

14. Mesinovic J, et al. Time-restricted eating and age-related muscle loss. Aging (Albany NY). 2019;11(20):8741-8742.

15. Templeman I, et al. A randomized controlled trial to isolate the effects of fasting and energy restriction on weight loss and metabolic health in lean adults. Sci Transl Med. 2021;13(598):eabd8034.

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