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『腸内環境を決めるのは腸内細菌ではなく、あなたの代謝』

 

『腸内環境を決めるのは腸内細菌ではなく、あなたの代謝』

 

私たちは長年、腸内細菌が健康を左右する主役であると信じ込まされてきました。しかし、基礎研究と私の臨床経験は、まったく逆の真実を示しています。腸内環境を決定しているのは腸内細菌ではなく、私たち自身の代謝状態です。現代医学は原因と結果を取り違えているといえるでしょう。

 

⭐️甲状腺機能が腸内環境の主導権を握っている

甲状腺ホルモンは私たちの基礎代謝を司る重要なホルモンで、その機能はミトコンドリアのエネルギー産生や糖の完全燃焼(=糖のエネルギー代謝)とイコールです。この甲状腺機能が腸の蠕動運動や消化管の動きを直接コントロールしていることが、数多くの研究で明らかになっています。

 

 

2009年の研究では、甲状腺機能低下症の患者において食道通過時間が52.56秒と健康な人の24.3秒に比べて著しく延長し、胃排出時間も49.06秒と健康な人の30.4秒より大幅に遅れることが示されました(1)。

 

 

 

これは単なる偶然ではありません。甲状腺ホルモンが低下すると、消化管全体の運動性が低下し、その結果として腸内での食物の停滞時間が長くなります。この停滞こそが、腸内細菌の過剰増殖を招く土壌を作り出すのです。

 

 

 

⭐️腸内細菌過剰増殖(SIBO)は代謝低下の結果である

慢性病の原因の一つに小腸内細菌過剰増殖症(SIBO)という病態があります。本来ほぼ無菌状態であるべき小腸に腸内細菌が異常増殖する状態です。現代医学では、このSIBOが様々な消化器症状や全身症状を引き起こすと考えられていますが、重要な視点が欠けています。それは「なぜSIBOが起こるのか」という根本原因です。

 

 

2007年の重要な研究では、甲状腺機能低下症患者の54%にSIBOが認められたのに対し、健康な対照群ではわずか5%だったことが報告されています(2)。さらに注目すべきは、甲状腺治療を受けて甲状腺ホルモン値が正常化した後でも、一度確立したSIBOは自然には改善しなかったという点です。これは、基礎代謝(=糖のエネルギー代謝)の低下が腸内細菌の過剰増殖という「悪循環」を作り出し、それが固定化してしまうことを示唆しています。

 

 

 

2024年の包括的なレビュー論文では、甲状腺機能障害と消化管運動障害の密接な関連が改めて確認されました(3)。甲状腺機能低下症では消化管の運動性低下により、胃食道逆流、便秘、そしてSIBOのリスクが高まることが明確に示されています。

 

 

 

⭐️代謝が高ければ腸内細菌の増殖は抑えられる

では、なぜ甲状腺機能が高い人は腸内細菌の過剰増殖が起こりにくいのでしょうか。答えは消化管の運動性にあります。甲状腺ホルモンは腸管平滑筋の収縮を促進し、食物や腸内容物を速やかに移動させます。この「掃除機能」により、細菌が一か所に留まって増殖する時間的余裕が与えられないのです。

 

 

1977年の古典的研究では、健康な人の小腸では空腹時に規則的な運動複合体(Migrating Motor Complex, MMC)が発生し、これが腸内細菌の過剰増殖を防いでいることが示されました(4)。このMMCの機能は甲状腺ホルモンに依存しており、代謝が低下するとMMCの頻度や強度も低下します。

 

 

 

また拙著『慢性病は現代食から』でお伝えしたように、甲状腺機能(=糖のエネルギー代謝)が回っていると、腸内の粘膜の防御機構や白血球の作用によって腸内の微生物の過剰増殖は抑えられています。

 

 

 

腸内細菌、特にグラム陰性菌が過剰増殖すると、その細胞壁成分であるエンドトキシンが腸管から血中に漏れ出し、全身性の炎症反応を引き起こします。このエンドトキシン血症は、さらに甲状腺機能を抑制し、代謝を低下させるという悪循環を生み出すのです。

 

 

 

⭐️現代医学が見落としている因果関係

ここで重要なのは、現代の腸内細菌ブームが語る「腸内細菌が健康を決める」という主張の根本的な誤りです。確かに腸内細菌叢の状態は健康指標として有用ですが、それは「結果」であって「原因」ではありません

 

 

 

2021年の研究では、潜在性甲状腺機能低下症(血液検査では軽度の異常しか見られない状態)においてもSIBOの発生率が有意に高いことが示されました(5)。これは、わずかな代謝の低下でも腸内環境に影響を与えることを意味します。

 

 

私たちの身体は「糖のエネルギー代謝」によって駆動されています。甲状腺機能が適切に働き、細胞レベルでのエネルギー産生が円滑に行われている状態こそが、健康な腸内環境の前提条件なのです。

 

 

 

⭐️プロバイオティクスの限界と本質的アプローチ

では、プロバイオティクス(善玉菌)を摂取すれば腸内環境は改善するのでしょうか。答えは「No」です。2024年のレビュー論文では、プロバイオティクスがSIBOの一部の症例で有効である可能性が示されていますが、根本的な問題である消化管運動性の低下が改善されなければ、一時的な効果に留まることが指摘されています(3)。何よりも腸内細菌の総量を減らすことが大事です。

 

 

 

 

真の解決策は、甲状腺機能を最適化し、基礎代謝を高めることにあります。フルール、ハチミツや黒糖などの良質な糖質の摂取は、まさにこの代謝改善を目的としています。実際、甲状腺ホルモン補充療法により、多くの患者で消化器症状が改善し、腸内環境が正常化することが2013年の研究で確認されています(6)。

 

 

⭐️代謝を高めることが腸内環境改善の近道

腸内環境を改善したいなら、まず自分の代謝状態を見直すべきです。便秘や下痢、腹部膨満感などの消化器症状は、腸内細菌の問題ではなく、あなたの甲状腺機能や基礎代謝の低下を示すサインです。

 

 

 

プロバイオティクスやプレバイオに頼るのではなく、まず十分なエネルギー源(良質な糖質)を確保し、甲状腺機能を支える栄養素(プーファ&エストロゲンフリー)を適切に摂取することが重要です。代謝が改善されれば、腸内環境は自然と整っていきます。

 

 

「病は腸からはじまる」

そして、その腸内環境は腸内細菌が決めるのではなく、あなた自身の代謝が決めているのです。

 

 

参考文献

  1. Yaylali O, Kirac S, Yilmaz M, et al. Does hypothyroidism affect gastrointestinal motility? Gastroenterology Research and Practice. 2009, 529802.
  2. Lauritano EC, Bilotta AL, Gabrielli M, et al. Association between hypothyroidism and small intestinal bacterial overgrowth. Journal of Clinical Endocrinology and Metabolism. 2007, 92, 4180-4184.
  3. Xing GM, He MX, Liu SY, et al. Thyroid disorders and gastrointestinal dysmotility: an old association. Frontiers in Physiology. 2024, 15, 1389113.
  4. Vantrappen G, Janssens J, Hellemans J, et al. The interdigestive motor complex of normal subjects and patients with bacterial overgrowth of the small intestine. Journal of Clinical Investigation. 1977, 59, 1158-1166.
  5. Wang B, Cai Z, Su X, et al. Small Intestinal Bacterial Overgrowth in Subclinical Hypothyroidism: A Case-Control Study. Frontiers in Endocrinology. 2021, 12, 604070.
  6. Canpolat AG, Kav T, Sivri B, et al. Effects of L-thyroxine on gastric motility and ghrelin in subclinical hypothyroidism: a prospective study. Journal of Clinical Endocrinology and Metabolism. 2013, 98, E1775-E1779.

 

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