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『なぜ日本人や中国人や欧米人と違うのか?』

 

『なぜ日本人や中国人や欧米人と違うのか?』

〜サイコパスは物質主義社会が生み出す「適応戦略」である〜

 

私たちほとんどの日本人は、世界を実感をもって肌感で知りません。日本の道徳や倫理観といったものは、海外では露ほども(つゆほども)認められません。そこにあるのは、冷徹で残酷なほどの現実主義だけです。暴力と金だけが支配する冷徹な社会です。

 

 

私も中国や中東などでその現実に直面することが何度もありました。根本的な考え方が違うので、同じ土場に立つことができません。何度も騙された経験から、他国のビジネスパーソンは、程度の差こそあれ、彼らは本質的にサイコパスだと実感しました。

 

 

もちろん、海外でも田舎に暮らす一般の人たちは、日本人に近い道徳・倫理観を持つ人もいますが、それも日本同様徐々に侵食されています。

 

私たちは一般的に、支配者層に偏在するサイコパスを「生まれつきの異常者」「脳の欠陥を持つ病的な人々」と捉えがちです。しかし近年、進化心理学、神経科学、社会学の研究者たちは、まったく異なる視点を提示しています。

 

それは、サイコパス的特性が単なる「病理」ではなく、特定の環境条件、とりわけ現代の物質主義的・資本主義的社会構造に対する「適応戦略」として機能している可能性があるというものです。

 

 

⭐️新自由主義社会がサイコパス的特性を促進する

2019年の重要なレヴュー論文において、研究者たちは新自由主義経済政策が人間の心理に与える影響を詳細に分析されています(1)。この論文では、新自由主義が約40年にわたって世界の経済政策を支配してきたにもかかわらず、その心理的影響については比較的注目されてこなかったことを指摘しています。

 

 

新自由主義の根底には、「人間は自由競争のもとで最大限に力を発揮する」という心理的前提があります。しかし実際の心理学研究によれば、この前提は人間の本質的な心理特性とは必ずしも合致しません。むしろ、新自由主義的な経済環境は、感情の情動的要素を構成するサイコパス的特性を促進する傾向があることが示されています(1)。

 

 

たとえば、激しい市場競争、個人主義の極端な強調、短期的利益の追求、他者への共感よりも自己利益を優先する価値観、つまり「今だけ、金だけ、自分だけ」などは、すべてサイコパス的特性と親和性が高いのです。この環境では、他者を踏み台にすることへの罪悪感が少なく、冷徹に自己利益を追求できる人々が「成功者」として選別されやすくなります。

 

サイコパス特性を持った支配層が築いた物質主義社会での生き残った人間たちもまた彼らと同じサイコパスになる傾向にあるということです。

 

⭐️「サイコパシーのヘゲモニー」――社会システム全体が文化的サイコパシーを生み出す

2017年に出版された研究書『The Hegemony of Psychopathy(サイコパシーのヘゲモニー)』は、さらに踏み込んだ主張を展開しています(2)。この研究では、現代社会の価値観や信念体系そのものが「文化的サイコパシー」を促進し、共感や思いやりといった人間性の根幹を破壊していると論じられています。

 

 

ヘゲモニーとは、支配者層が人々の価値観や信念を形成することで、社会・政治的な現状を受け入れさせる仕組みを指します。現代の「サイコパシーのヘゲモニー」は、大衆メディアや文化産業、そして主流派経済学によって支えられています。メディアはヘゲモニー的なプロパガンダを絶え間なく流し続け、経済学は「これ以外に選択肢はない」という誤った信念に疑似科学的な正当性を与えているのです(2)。

 

 

医学など他の分野でも同じ現象が蔓延しています。

 

この研究によれば、資本主義システムそのものが「サイコパス的システム」として定義されるべきだとされています。つまり、個々人がサイコパス的特性を持つかどうかにかかわらず、システム全体が冷酷で他者への配慮を欠いた構造になっており、その結果として生じる社会生態学的破壊に対して無頓着な「支配階級」を生み出しているということが指摘されています(2)。

 

 

⭐️進化生物学的視点:レアだからこそ生き残る「サイコパス戦略」

進化生物学では、サイコパス的な性質が「頻度依存選択」という仕組みで保たれている可能性があると考えられています(3)(4)。頻度依存選択とは、その性質を持つ人の“多さ・少なさ”によって、生き残りの有利さ(適応度)が変わる、という進化のルールです。

 

ほとんどの人が「助け合い・信頼・約束」を大事にする社会では、少数のサイコパス的な「裏切り者」が、他人の善意を利用して大きな利益を得やすくなります。

 

しかし、そうした裏切り者が増えすぎると、社会全体が信用崩壊を起こし、互いに騙し合うだけになり、その戦略はもはや得ではなくなります。

 

 

その結果、「少数なら有利だが、多数になると一気に不利になる」というバランスが働き、サイコパス的特性は人口の約1〜3%という低い割合で保たれていると考えられています。

 

言い換えれば、サイコパスは“多すぎれば社会を壊すが、少数なら社会のなかで利益をかすめ取れる存在”として、進化的に残ってきた可能性があるのです(3)(4)。

 

 

⭐️サイコパスは「善か悪か」では語れない

2022年に発表された進化人類科学の総説論文では、サイコパス的特性を「適応的か/非適応的か」の二択で判断するのは不十分だと結論づけています(3)。

 

 

その特性がプラスに働くかマイナスに働くかは、育つ環境、人生のどの段階か、社会の仕組み、文化的な価値観など、さまざまな条件が複雑に絡み合って決まるからです。

 

 

とくに現代の競争的・物質主義的な社会では、「短期的な成果」「個人の成功」が過度に評価され、「長期的な人間関係」や「共同体への責任」が軽く扱われがちです。

 

 

こうした環境では、共感に流されず、冷徹に自分の利益だけを追いかけられるサイコパス的特性が、むしろはっきりした優位性を持ってしまう可能性があります(3)(4)。

 

⭐️ライフヒストリー理論:幼少期の過酷な環境が「冷たい心」をつくる

もう一つの重要な視点が「ライフヒストリー理論」です(3)(4)(5)。この理論では、サイコパス的特性は“生まれつきの異常”だけではなく、幼少期の過酷な環境や慢性的ストレスへの「適応的な反応」として形成されることがある、と考えます。

 

 

暴力、貧困、親のネグレクトや虐待などの逆境に長くさらされると、子どものストレス反応システムは大きく変化します。

 

 

長期ストレスは遺伝子発現やホルモンバランス、行動パターンを変え、その結果「無感情パターン」と呼ばれる、ストレスや非難・恥といったネガティブな社会的反応に鈍くなる状態が生まれます(3)。

 

こうした無感情パターンは、一見「情がない」「怖い」と感じられますが、予測不能で危険だらけの環境では、“いちいち傷つかずに突き進める”という点で、むしろ生存にとって有利になり得ます。

 

 

そこで促進されるのが「速いライフヒストリー戦略」、つまりリスクを恐れず、短期的な利益や交配機会に全力投資し、子どもの養育など長期的な責任にはあまりリソースを割かないという生き方です。

 

この戦略は、明日の生活すら保証されない不安定な環境では、「とにかく今のチャンスをつかむ」ことに集中できるため、ある種の生存・繁殖上のメリットをもたらします。

 

 

言い換えれば、サイコパス的特性は「壊れた心」ではなく、「壊れた世界に合わせて変形した心」として理解できる面があるのです。

 

 

⭐️現代資本主義社会がサイコパスを育てる

現代の物質主義社会、とくに新自由主義的な経済システムのもとでは、経済格差の拡大、不安定な雇用、薄くなるセーフティネットなどにより、多くの人が慢性的なストレスと将来不安にさらされています。

 

こうした環境は、まさに「速いライフヒストリー戦略」を選ばざるを得ない状況を広げ、サイコパス的特性の発達を後押しする土壌になっている可能性があります。

つまり、サイコパス的な人を単に「異常者」として切り捨てるのではなく、その背後にある社会構造や経済システムそのものが、“冷たい心”を合理的な戦略にしてしまっているのかもしれません。

 

個人の性格の問題というより、「そんな性格が得をするルールで社会が動いている」こと自体が問われるべきなのです。

 

 

⭐️文化が変われば、サイコパスの「有利さ」も変わる

サイコパス的特性がどう表に出るかは、文化によっても大きく左右されます。

 

2021年の国際比較研究では、サイコパス的特性と「文化的個人主義(個人の自由や達成を重んじる文化)」とのあいだに関連があることが示されました(6)。

 

個人主義が強い社会では、「周囲との調和」よりも「自分の成功」が優先されやすく、自分の利益を押し通す行動が正当化されやすい土壌があります。

 

とくにアメリカ合衆国のような、極端に競争的で成果主義的な社会では、サイコパス的特性がむしろ“よく働くツール”として機能しやすいと考えられています(6)(7)。

 

実際、アメリカの首都ワシントンD.C.は、全米の中でもサイコパス傾向を持つ人の割合がとくに高い地域だという報告があります(7)。

 

 

政治や権力の中枢には、「共感よりも権力・駆け引きに長けた人」が集まりやすく、そのなかにはサイコパス的特性を持つ人々が少なからず含まれている可能性があるのです。

 

 

一方で、集団の調和や相互扶助を重んじる東アジアの文化圏では、西洋とはまた違った関連パターンが報告されています。

 

 

これは、サイコパス的特性の“得か損か”は、人間の内面だけでなく、その人が生きている文化や社会のルールによって大きく変わる、ということを物語っています。

 

 

⭐️ダークトライアド×物質主義:見せびらかすほど強くなる性格

ブランド物を見せびらかす人、冷酷なトップ経営者、他人を利用するのがうまい営業マン――こうした人たちの背後には、「ダークトライアド」と呼ばれる性格特性と、物質主義に支配された消費社会の相互作用が潜んでいます(8)(9)。サイコパスは“異常者”というより、現代資本主義がもっとも得をさせてしまうタイプの人間なのかもしれません(7)(11)。

 

 

以前の記事でもお伝えしましたが、心理学では、サイコパシー(冷酷さと良心の薄さ)、ナルシシズム(自己愛と自己誇示)、マキャヴェリズム(計算高く人を操る傾向)の3つを「ダークトライアド」と呼びます(8)(9)。

 

2023年の研究では、中国の若者を対象に、このダークトライアドと「顕示的消費」――高級車やブランド品などを見せつけるための消費――との関係が調べられました(8)。

 

 

結果は非常にわかりやすいもので、ダークトライアド特性が強い人ほど、「人に見せつけるための買い物」を好み、その背景には強い物質主義(お金やモノこそ成功の証という価値観)があることが示されました(8)。

 

つまり、サイコパス的な人たちは、豪華なモノを集めて誇示することで、実力や人格とは別に「影響力」や「ステータス」を手に入れようとする傾向が強いのです(8)(9)。

消費社会では、見た目の華やかさが人間の中身よりも優先されがちです。高級マンション、ブランドスーツ、高級車を持っていれば、「できる人」「成功者」として扱われることが多く、そこで冷徹な野心を持つ人間が有利になる土壌が整ってしまいます(8)(9)。

 

 

⭐️サイコパスが集まりやすい仕事:資本主義の「中枢」

ケヴィン・ダットンの著書『サイコパス』では、サイコパス傾向を持つ人が多い職業ランキングが紹介されています(7)。上位に挙げられるのは、CEO(最高経営責任者)、弁護士、メディアのパーソナリティ、営業職、外科医、ジャーナリスト、警察官、聖職者、シェフ、公務員などです(7)。

これらの仕事に共通するのは、「権力や影響力を持ち、他人を動かしたりコントロールしたりできるポジション」であることです。別の研究でも、ダークトライアド特性を持つ人ほど、支配的なリーダーシップを発揮できる役職――とくに金融、営業、法律など、金と権力が集中する分野のポスト――に強く引きつけられることが示されています(10)。

 

言い換えれば、サイコパス的特性を持つ人々は、資本主義システムの中核を動かす仕事に“不釣り合いなほど多く”存在している可能性が高いのです(7)(10)。そこでは共感や倫理よりも、冷酷な利益計算、ハイリスクを取る勇気、ライバルを叩き潰す攻撃性の方が高く評価されがちであり、そのような性格の持ち主が出世レースで優位に立ちやすくなります(7)(10)。

 

 

⭐️「企業サイコパス」が組織を作り替える

2023年の論文「Psychopathy Incorporated(法人化されたサイコパシー)」は、資本主義そのものを「サイコパス的なシステム」として捉えています(11)。株主資本主義のもとでは、企業の最優先目標は「短期的な利益の最大化」であり、従業員の生活や地域社会、環境への配慮は後回しになりがちです(11)。

 

 

こうした環境では、サイコパス的な人物――同僚を平然と踏み台にし、部下を搾取し、倫理の一線を易々と越えられる人――が出世しやすくなります(11)。

彼らが管理職や経営層に上り詰めると、組織文化そのものが「数字のためなら何を犠牲にしてもよい」という方向にねじ曲げられ、会社全体がよりサイコパス的な振る舞いをするようになります(11)。

 

さらに2025年の研究では、新自由主義的な超競争環境では、サイコパス的な行動が“生き残るためのスキル”として周囲の人々に感染していく可能性が指摘されています(12)。

 

もともとはサイコパスでなかった人でも、そうした職場に長くいるうちに、「感情を切り捨てる」「他人を駒として扱う」といった振る舞いを学習し、模倣するようになる危険があるのです(11)(12)。

 

 

⭐️サイコパスは「個人の異常」ではなく、社会システムの産物

これらの研究を総合すると、サイコパス的特性は単に「脳の故障」や「生まれつきの異常」というだけでは説明しきれません。進化生物学的には、サイコパス的特性は頻度依存選択によって少数派として維持され、特定の環境では強力な武器になります(3)(4)。

 

 

発達心理学的には、幼少期の虐待や貧困などの過酷な経験に対する“防御反応”として、共感が薄く、恐怖や罪悪感を感じにくい心のあり方が形成される可能性があります(3)(5)。

 

そして社会学的には、新自由主義的な競争社会、個人主義文化、消費主義の価値観が、サイコパス的な人々に報酬を与え、その数と影響力を増やしている構造が浮かび上がります(6)(8)(11)(12)。

 

もちろん、だからといってサイコパス的行動が許されるわけではありません。

 

むしろ問題なのは、私たちの社会システムそのものが、共感や協力よりも「冷徹な自己利益追求」を称賛し、出世と富で報いるように設計されていることです(11)(12)。

 

 

約束を守らない中国人、欧米人や中東の人々は、実際は私たち日本人と根本のことろでは変わりません。ただ、彼らの方が過酷で冷徹な社会で生き抜いてきた分、その社会に適応した人格形成になったと見るのが自然です。

 

 

実は、支配者層そのものも、子供の教育でサイコパスになるべく心理的な虐待を与えてきたことも史実として残っています。これも、支配者層どうしの争いで生き残る戦略だったと考えられます。

 

本当に変えるべきなのは、個々の“サイコパス”というよりも、そうした特性を生み出し、強化し、勝者として祭り上げてしまう社会のルールそのものです。このような歴史的背景を丹念に追って、本当の原因を探究することが「サイコパスの時代」を終わらせるための第一歩になるでしょう。

 

 

参考文献

  1. Beattie P. The road to psychopathology: Neoliberalism and the human mind. J Soc Issues. 2019;75(1):89-112.
  2. Brons L. The Hegemony of Psychopathy. Brooklyn, NY: Punctum Books; 2017.
  3. Ene I, Wong KKY, Salali GD. Is it good to be bad? An evolutionary analysis of the adaptive potential of psychopathic traits. Evol Hum Sci. 2022;4:e30.
  4. Glenn AL, Kurzban R, Raine A. Evolutionary theory and psychopathy. Aggress Violent Behav. 2011;16(5):371-380.
  5. Del Giudice M, Ellis BJ, Shirtcliff EA. The Adaptive Calibration Model of stress responsivity. Neurosci Biobehav Rev. 2011;35(7):1562-1592.
  6. Shou Y, Lay SE, De Silva HS, et al. Sociocultural influences on psychopathy traits: A cross-national investigation. J Pers Disord. 2021;35(Suppl A):145-159.
  7. Dutton K. The Wisdom of Psychopaths: What Saints, Spies, and Serial Killers Can Teach Us About Success. New York: Scientific American/Farrar, Straus and Giroux; 2012.
  8. Zhu X, Geng Y, Pan Y, Shi L. Conspicuous consumption in Chinese young adults: The role of dark tetrad and gender. Curr Psychol. 2023;42:14784-14794.
  9. Górnik-Durose M, Jach Ł. Functionality of materialism – cultural and evolutionary perspectives. Rev Psychol. 2020;63(2):27-42.
  10. Jonason PK, Slomski S, Partyka J. The Dark Triad at work: How toxic employees get their way. Pers Individ Dif. 2012;52(3):449-453.
  11. Priels K. Psychopathy incorporated. J Crit Realism Socio-Econ. 2023;5(1):1-24.
  12. Murphy P. Group Narcissism ‘A Disease of Capitalism’. ResearchGate preprint. 2024.

 

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