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  『私たちの身体は、回復力と適応力に富む:「更年期」という常識への挑戦』

『私たちの身体は、回復力と適応力に富む:「更年期」という常識への挑戦』

 

私たちの身体は、想像している以上にしなやかで、回復力と適応力に富んでいます。

 

 

 

従来の医学では、女性の卵子の数は胎児期に決定され、それ以降新たに作られることはないとされてきました。この考え方は、銀行口座に決まった金額が預けられ、それを使い果たしたら終わり、という単純なモデルに似ています。

 

 

 

まるで時計の針が進むように、女性の卵巣は決められた時期に機能を停止し、生殖能力は永遠に失われる――これが医学の「常識」とされてきたのです。しかし、この常識は本当に正しいのでしょうか。

 

 

 

⭐️男性の更年期障害

男性が年齢を重ねると、体の中で男性ホルモンと呼ばれているテストステロンやDHT(いずれも糖のエネルギー代謝を高める保護ホルモン)が減っていく「加齢性性腺機能低下症」が起こることがあります。疲れやすくなったり、気力や性欲が落ちたりします。

 

 

2022年に発表された大規模な分析(19の研究、合計1,642人の男性を対象)では、血中テストステロン値が平均で約2.6倍に上昇させることで、7割以上で実際の症状も良くなったことが報告されました(1)。

 

 

 

2022年の分析(616人の男性)によると、テストステロンを増産させると、約6割の男性に精子濃度の改善が見られたという報告があります(3)。さらに別の研究では、64パーセントの男性で運動精子の数が50パーセント以上増加していました(4)。つまり、生殖能力は年齢で完全に失われるわけではなく、テストステロンというホルモンが回復すれば、更年期障害から十分に回復できるということです。

 

 

 

 

一方、もう一つの代表的な治療法が「テストステロン補充療法」です。2018年の包括的分析では、この治療が性機能や生活の質を改善することが確認されています(5)。2020年の研究でも、性欲の改善が統計的に有意であったと報告され(6)、さらに2022年のイギリス内分泌学会のガイドラインでは、テストステロン補充が第一選択の治療法として正式に推奨されています(7)。

 

 

加齢による男性ホルモン低下は避けられないものの、最新の研究は「回復できる可能性」を強く示しています。

 

 

 

⭐️女性の更年期も回復可能

2025年、私たちが長年「当たり前」だと思ってきた生殖の常識を揺さぶる研究結果が発表されました。人間の卵子は、年齢を重ねてもなお、驚くほど高いエネルギー産生能力を保ち続けているという事実です(8)。

 

 

 

20歳から42歳の女性から採取した卵子、血液、唾液を精密に解析し、「高精度二重シーケンシング法」という最先端技術を用いて、ミトコンドリアDNAの変化を一つ一つ追いかける研究内容です。

 

 

 

ミトコンドリアは「細胞の発電所」と呼ばれる、エネルギー産生工場です。私たちが歩く、考える、心臓を動かす、そのすべてを支えるエネルギーを作り出しています。

 

 

 

通常、血液や皮膚などほとんどの体細胞では、年齢とともにミトコンドリアDNAに少しずつ「傷」が蓄積していきます。長年使い続けた機械に摩耗がたまるように、見えないところで老化の足跡が刻まれていくのです。実際、この研究でも血液と唾液では、予想通り年齢とともに変異が増えていることが確認されました。

 

 

 

ところが――卵子だけは違っていました。卵子のミトコンドリアDNAには、年齢を重ねても変異の増加がほとんど見られなかったのです。まるで、卵子だけが時間の流れから守られた「特別な部屋」に隠されているかのような結果でした。

 

 

 

さらに、よく現れる変異は、ミトコンドリアDNAの中でもタンパク質をコードする重要な領域には少なく、有害な変化が入り込みにくいパターンを示していました。これは「浄化選択」と呼ばれる、生命が自ら設計図を守るために行っている品質管理システムが働いている可能性を示しています。

 

 

 

一方で、ごく少ない頻度の変異はDNA全体に均一に散らばっており、不要なノイズは拡大させない巧妙な仕組みが感じられます。

 

 

この発見は、生殖機能の「老化」をどう捉えるかという根本的な視点を変えうるものです。研究チームは、女性の出産可能年齢が今後さらに延長できる可能性や、理論的には生涯を通じて妊娠能力を維持できる方向性についても言及しています。ライフプランが多様化し、「いつ産むか」の選択がより重要になっている現代において、これは多くの女性にとって大きな希望となり得るメッセージです。

 

 

 

⭐️ホルモン産生の鍵はコレステロールにあり!

実はテストステロンやDHT(女性においても活躍するホルモン)は、ミトコンドリアで合成されています。そして、その材料としてコレステロールが必要となります。テストステロンやDHT の産生を高める物質は、実際はミトコンドリア内でコレステロール輸送を活性化し、ステロイドホルモン合成を後押しするという共通のメカニズムがあります(11)。

 

 

 

この共通性は、性腺機能低下が生殖腺そのものの不可逆的な故障ではなく、適切な刺激とホルモンバランスの調整によって十分に回復しうる状態であることを強く示唆しています。

 

 

 

したがって、コレステロールそのものの合成が低下したり、コレステロールのミトコンドリアへの輸送がブロックされたりすると、更年期障害と呼ばれる老化現象が認められることになります。コレステロール低値があらゆる病態を引き起こすことは拙著『世界一やさしい薬のやめ方』にも多数のエビデンスをご紹介しています。

 

 

ちなみに、コレステロールの合成をブロックするものは、スタチン製剤(コレステロール降下剤)やオメガ3(最も酸化しやすい油)がその代表です。

 

 

 

卵子のミトコンドリアが、時間の中を歩きながらも驚くべき強靭さを保っているという事実は、生殖能力の寿命に関する理解を一段深い次元へと押し広げます。更年期は「突然訪れる終わり」ではなく、体が新しいモードへと切り替わる過程であり、その変化を和らげたり遅らせたりする余地があります。

 

 

 

実際に、ハダカデバネズミという種は死ぬまで妊娠可能です。

 

 

そして男性の更年期障害が適切な介入によって回復可能であるように、女性の卵巣機能もまた、その構造自体は保たれています。これは車のエンジンに例えるなら、エンジン自体が壊れているのではなく、単に燃料供給や点火システムに問題があるだけ、という状態に似ています。

 

 

私たちの身体は、想像している以上にしなやかで、回復力と適応力に富んでいます。卵巣や精巣が加齢のダメージから自らを守る高度な仕組みを備えているという事実は、生命の設計がいかに精巧であるかを改めて教えてくれます。

 

 

 

参考文献

 

  1. van Dijk D, Kok NF, Tjan-Heijnen VC, et al. Clomiphene citrate for men with hypogonadism: a systematic review and meta-analysis. Andrology. 2022;10(3):451-469.

 

  1. Lunenfeld E, Schwartz I, Machtinger R, et al. Clomiphene citrate: A potential alternative for testosterone therapy in hypogonadal males. Endocrinol Diabetes Metab. 2023;6(2):e416.

 

  1. Puia IC, Bordejevic DA, Cumpanas AA, et al. Effectiveness of Clomiphene Citrate for Improving Sperm Concentration: A Literature Review and Meta-Analysis. Cureus. 2022;14(5):e25093.

 

  1. Guay AT, Bansal S, Heatley GJ. Effect of raising endogenous testosterone levels in impotent men with secondary hypogonadism: double blind placebo-controlled trial with clomiphene citrate. J Clin Endocrinol Metab. 1995;80(12):3546-3552.

 

  1. Ponce OJ, Spencer-Bonilla G, Alvarez-Villalobos N, et al. The efficacy and adverse events of testosterone replacement therapy in hypogonadal men: a systematic review and meta-analysis of randomized, placebo-controlled trials. J Clin Endocrinol Metab. 2018;103(5):1745-1754.

 

  1. Corona G, Rastrelli G, Di Pasquale G, et al. Endogenous Testosterone Levels and Cardiovascular Risk: Meta-Analysis of Observational Studies. J Sex Med. 2018;15(9):1260-1271.

 

  1. Jayasena CN, Anderson RA, Llahana S, et al. Society for Endocrinology guidelines for testosterone replacement therapy in male hypogonadism. Clin Endocrinol (Oxf). 2022;96(2):200-219.

 

  1. Arbeithuber B, Hester J, Hashimoto K, et al. Human oocytes maintain high mitochondrial DNA quality across reproductive age. Nat Aging. 2025;5(2):183-196.

 

  1. Patel AS, Leong JY, Ramasamy R, et al. Indications for the use of human chorionic gonadotropic hormone for the management of infertility in hypogonadal men. Transl Androl Urol. 2019;8(Suppl 1):S36-S42.

 

  1. Rohayem J, Sinthofen N, Nieschlag E, et al. Testosterone versus hCG in Hypogonadotropic Hypogonadism: A Retrospective Study. Horm Res Paediatr. 2022;95(1):33-41.

 

  1. Bose HS, Lingappa VR, Miller WL. Steroidogenic activity of StAR requires contact with mitochondrial VDAC1 and phosphate carrier protein. J Biol Chem. 2008;283(14):8837-8845.

 

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