『世界で揺れるグリホサート規制』
私たちの食卓に並ぶ野菜や果物、子どもたちが遊ぶ公園の芝生、そして農家の畑を覆う作物――これらすべてに使われてきた一つの化学物質があります。それがグリホサート、世界で最も広く使用されている除草剤の主成分です。

この物質は実際に多くの健康被害や環境汚染を引き起こしいているにも関わらず、何十年もの間、政府から「安全」という科学的お墨付きに守られてきました。しかし2025年、そのマントが突然引き剥がされる出来事が起きました。それは、科学の信頼性そのものを揺るがす衝撃的な真実の露呈でした。
⭐️崩れ落ちた「安全神話」の土台
物語は2000年に遡ります。この年、一つのレビュー論文が学術誌『Regulatory Toxicology and Pharmacology』に掲載されました(1)。この論文は、グリホサートとその商品名「ラウンドアップ」の安全性を評価したもので、結論は明快でした――「人体への発がん性リスクは低い」と。
米国環境保護庁(EPA)は、この一つの論文を繰り返し引用し、グリホサートが「ヒトに対して発がん性の可能性は低い」という公式見解の中核的根拠としてきました。2016年の問題文書(EPA-HQ-OPP-2009-0361-0073)においても、2017年版の「ヒト健康リスク評価(草案)」においても、さらには2020年版「暫定登録審査決定」においても、この論文は何度も何度も引用され続けたのです(2)。規制当局にとって、この論文は盾であり、剣であり、そして何よりも「科学的正当性」という魔法の杖でした。
しかし、その魔法は2025年12月、突如として効力を失いました。掲載から丸25年を経て、学術誌『Regulatory Toxicology and Pharmacology』が衝撃的な声明を発表したのです――この論文を正式に撤回すると(3)。撤回の理由は、科学研究における最も深刻な倫理違反の一つ、「ゴーストライティング」でした。

⭐️ ゴーストライティングー実際に論文を書いたのは誰か?
ゴーストライティングとは何でしょうか。それは、実際には企業の従業員が論文を執筆しながら、表向きは独立した学者の名前だけが著者として掲載される行為です。まるで舞台裏で操り人形師が糸を引きながら、観客には人形が自ら動いているように見せかけるようなものです。
米国での大規模訴訟「ジョンソン対モンサント裁判」において公開された内部文書や電子メールから、驚くべき事実が明らかになりました(4)。この論文の執筆には、グリホサートの製造元であるモンサント社のお抱えの科学者たちが深く関与していたのです。
彼らは原稿の草稿を作成し、編集を行い、そして結論を誘導していました。しかし、論文上にはその関与は一切記載されず、金銭的な報酬についても開示されることはありませんでした。

2025年の撤回通知において、学術誌の共同編集長は厳しい言葉で事態を総括しています。生存する唯一の著者であるゲイリー・M・ウィリアムズ(Williams, G.M.)氏に説明を求めたものの、返答は得られませんでした。編集者たちが記録したのは、以下のような深刻な問題点でした――グリホサートの発がん性に関する結論が未発表のモンサント社研究のみに基づいていたこと、執筆時点で利用可能だった複数の長期発がん性研究が説明なく省略されていたこと、そして「著者の独立性と説明責任に関する深刻な倫理的懸念」が存在することです(3)。
具体的には、論文における貢献度の虚偽記載、モンサント社からの未開示の金銭的報酬、企業関係者が執筆した部分の不明確さ、そして未発表の業界研究に偏重した証拠選択が指摘されました。
これらの問題が「本論文とその結論の学術的信頼性を損なう」と結論づけた編集長は、査読プロセスへの信頼が失われたこと、そして学術誌の信頼性を維持するために撤回が必要であると述べています(3)。
⭐️700の論文に広がった虚偽の「汚染」
一つの論文が撤回されたからといって、何がそれほど重大なのでしょうか。問題は、この論文が単独で存在していたわけではないという点にあります。この論文は学術界全体に影響を及ぼしていました。
2025年初頭、学術誌『Environmental Science & Policy』に画期的な分析論文を発表されました(5)。撤回の憂き目にあった虚偽論文は、グリホサートに関する世界で最も引用された毒性学レビューの一つとなり、実に700以上もの学術論文、EPAへの提出書類、さらには人工知能(AI)のトレーニングデータセットにまで使用されていました(5)。
チャットGPTなどでただグリホサートの情報を探しても真実は見えてこない理由がここにあります。

さらに驚くべきことに、この論文の影響はウィキペディアのような公共知識プラットフォームにまで及んでいました。ウィキペディアでこのレビューを参照する編集者たちは、法廷で事実が明らかになった後でさえ、その利益相反やゴーストライティングの起源についてほとんど言及していなかったのです(5)。一つの欺瞞的な論文が科学文献全体を汚染していったのです。
⭐️米国環境保護庁(EPA)を援護したトランプの鶴の一声
グリホサートなどの毒性物質を規制する立場にある米国環境保護庁は今、きわめて危うい立場に置かれています。2025年9月時点の公式サイトにおいても、同庁はグリホサートが「人間の健康に懸念されるリスクはない」「ヒトに対する発がん性は認められない」と主張し続けています(6)。しかし、これらの表現は、まさに倫理的・科学的不正行為により撤回されたあのレビュー論文によって形成されたものなのです。
状況をさらに複雑にしているのは、法的な動きです。2022年6月、米国第9巡回控訴裁判所は、グリホサートに関するEPAの2020年暫定登録審査決定のうち、人体健康に関する部分を無効とする判決を下しました(7)。裁判所は、EPAの「ヒトに対する発がん性は低い」との結論が、連邦殺虫剤・殺菌剤・殺鼠剤法(FIFRA)で要求される証拠基準を満たしていないと判断したのです。
この判決を受けて、EPAは暫定決定を撤回せざるを得ませんでした。しかし、2025年現在に至るまで、同庁は無効化された分析に代わる新たな最終的な健康影響評価を発表していません(7)。
この真実に突き上げられ、まずい状況に援護射撃をしたのがトランプ政権です。
司法省の法務総監であるジョン・サウアー氏は25年12月1日、連邦最高裁判所に意見書を提出しました。「国の機関である米環境保護局(EPA)が安全と判断しているのだから、州がこれを無視して、勝手に『危険だ』と警告させるのはルール違反だ」と宣言したのです。
その結果、グリホサートの健康被害で係争中の数万件の訴訟はすべて取り消しになる見通しとなっています。

ちなみに、トランプ政権の厚生長官、ロバート・F・ケネディ・ジュニア氏氏も議会でグリホサートを禁止することでトウモロコシ農家を潰すようなことはしないという趣旨の発言をしています。
日本も高市政権になってまた減反政策に戻ったり、国民には見えない売国政策が次々と打ち出されています(そのためマスコミのヨイショが加速している)が、どこの国の政府も似たり寄ったりということです。政府に期待することはできないことは歴史が証明しています。
⭐️独立研究が示す真実
米国環境保護庁(EPA)の欺瞞とは対照的に、独立した科学研究は着実に証拠を積み重ねてきました。そして、その証拠はEPAの主張とは正反対の方向を示しています。
2025年6月、グローバルグリホサート研究プロジェクトの発がん性評価部門が、学術誌『Environmental Health』に重要な論文を発表しました(8)。この大規模かつ長期にわたる毒性学研究では、スプラグ・ドーリー系ラットの雄と雌を、妊娠6日目から生後104週まで――つまりラットのほぼ一生涯にわたって――グリホサートおよび2種類のグリホサート系除草剤に曝露させました。
投与された濃度は、欧州連合(EU)がグリホサートに対して設定した1日許容摂取量(ADI)および無毒性量(NOAEL)に相当する、0.5、5、50 mg/kg/日でした。つまり、規制当局が「安全」と定めたレベルでの曝露です。ところが、結果は衝撃的なものでした。
研究者たちは、血液リンパ組織(白血病やリンパ系悪性腫瘍)、乳腺、肝臓、甲状腺、神経系、卵巣、副腎、腎臓、膀胱、骨、膵臓内分泌部、子宮、脾臓など、複数の臓器において、良性および悪性腫瘍の統計的に有意な用量依存性増加を報告したのです(8)。さらに、曝露された動物では早期発症の白血病による死亡が認められました。

研究チームは明確に結論づけています――グリホサートおよびグリホサート系除草剤は、「EUのADI(一日摂取許容量)およびEUのNOAEL(無影響量)に相当する曝露レベル」において、実験動物に発がん性の確固たる証拠を示しました (8)。
この結論は、国際がん研究機関(IARC)が2015年に下した分類――グリホサートを「ヒトに対する発がん性の可能性が高い物質(グループ2A)」とする判断――と一致するものです(9)。
人体への影響についても、証拠は蓄積されています。2024年、ガリ(Galli, C.)らが学術誌『Frontiers in Toxicology』に発表した包括的なヒト健康レビューは、グリホサートとその主要代謝物AMPA(アミノメチルホスホン酸)に関するバイオモニタリング、疫学、および機序に関するデータを統合しています(10)。
このレビューが明らかにしたのは、グリホサートが私たちの体内に広く存在しているという事実です。複数の集団ベース研究に基づき、研究者たちはグリホサートが尿、血液、母乳中に検出可能であることを報告しています。一般集団(小児を含む)の約60~80%がバイオモニタリング調査で陽性反応を示し、北米および欧州の複数のコホートではさらに高い検出頻度が確認されています(10)。
この化学物質はすでに私たちの体内に浸透しているのです。
健康への影響も多岐にわたります。このレビューでは、職業的にグリホサートに曝露される労働者における非ホジキンリンパ腫との関連性、脂肪肝および非アルコール性脂肪性肝疾患と一致する肝臓・脂肪組織の変化、呼吸器疾患および喘息様症状、生殖組織における内分泌撹乱作用、腸内細菌叢の異常、そして腸脳軸を介した認知機能障害との関連性が網羅的に整理されています(10)。
グリホサートおよびグリホサート系除草剤に変異原性・発がん性の可能性があり、エストロゲン物質として作用するという、試験管内実験、動物実験、ヒト研究からの収束する証拠を強調しています(10)。

そして研究者たちは、この証拠と、欧州食品安全機関(EFSA)、欧州化学物質庁(ECHA)、そしてEPAが採用した「非発がん性」危険性分類との明らかな不一致を指摘しています(10)。
⭐️世界で揺れるグリホサート規制
グリホサートをめぐる規制の動きは、まるで世界中に貼りめぐらされた“パッチワーク”のようです。国や地域によって方針が大きく異なり、その差は科学的な証拠の評価の違いというよりも、政治的・経済的な力関係を映し出しているといえます。
2015年、国際がん研究機関(IARC)は、グリホサートを「ヒトに対する発がん性の可能性が高い物質(グループ2A)」と分類しました(9)。この判断は、ヒトでの非ホジキンリンパ腫に関する限定的な証拠、動物実験での発がん性の明確な証拠、そして遺伝毒性を示す強力な証拠に基づくものです。WHOの関連機関が下したこの評価は、世界中の政策に大きな波紋を広げました。
この発表をきっかけに、いくつかの国では規制強化の動きが広がりました。フランスでは農業用途を除き、家庭や家庭菜園での使用が禁止に。オーストリア議会も2019年に全面禁止法案を可決しましたが、EU法の手続き上の問題により、完全施行には至らず部分的な制限にとどまっています。

中南米では、メキシコが2020年に「2024年までの段階的廃止」を命じる大統領令を出しました。国内外の業界団体が繰り返し異議を申し立てたものの、政府は方針を維持。しかしその後、政権の方針転換によって廃止スケジュールは大幅に遅れています。
一方、欧州ではより複雑な攻防が続いています。2023年11月、欧州委員会はグリホサートの承認をさらに10年間(2033年末まで)延長しました。加盟国の採決では賛否が拮抗し、定足数に届かなかったための“自動延長”措置でしたが、この決定は市民団体や独立科学者から強い反発を招いています。
欧州化学物質庁(ECHA)と欧州食品安全機関(EFSA)の専門パネルは、何度も「グリホサートはEUの発がん性・変異原性・生殖毒性・内分泌かく乱作用の基準を満たさない」と結論づけています。EFSAの2023年レビューでも「代表的な使用法では人の健康に重大な懸念は認められない」とされたのです。
こうした判断の多くは、製造企業が提出したGLP(優良試験所規範)準拠のガイドライン研究に基づいています。多くの動物実験データは未公表のまま扱われ、それでも“最も信頼できる証拠”とされる一方で、独立系の査読付き研究は軽視あるいは無視されています。
アメリカでも同様の構図が見られます。米国環境保護庁(EPA)は2020年にグリホサートの登録を暫定的に更新しましたが、自らの発がん性ガイドラインに反していたとして、2022年に連邦控訴裁判所がこれを取り消しました(7)。
このような現状は、「規制の乗っ取り」と呼ばれています。エヴァ・ノヴォトニーらが2022年に学術誌『Toxics』に発表した論文「グリホサート、ラウンドアップ、そして規制評価の失敗」では、EUと米国のケースが典型例として分析されています(11)。

そこでは、行政機関と産業界の間の“回転ドア現象”(規制当局職員の企業への天下りと再登用)、製薬・化学メーカーによる非公開試験への依存、独立研究の排除といった構造的問題が描かれています。
まるで「狐が鶏小屋の番をしている」ような状態です。規制する側と規制される側の境界はどこにあるのか──。公衆の健康よりも企業の利益が優先されているのではないかという疑念が、いま世界中の市民と研究者の間で高まっています(日本の現状については次回詳しくお伝えしたします)。
⭐️政治的風向きの変化
米国の政治レベルでも、興味深い動きがありました。「Make America Healthy Again(アメリカを再び健康に)」委員会、通称MAHA委員会による2025年報告書の初版は、環境毒素や農薬について警鐘を鳴らし、除草剤を含む化学物質への曝露が小児の慢性疾患の要因となり得ることを指摘していました(12)。この報告書は、公衆衛生の観点から農薬の危険性を真正面から取り上げた内容でした。
しかし、議論が活発化し、業界や農業ロビー関係者が動き出すと、状況は一変しました。2025年9月9日付で発表されたMAHA戦略報告書は、初版とは全く異なるトーンになっていました。この公開文書では、農薬の危険性に関する以前の警告表現が削除され、代わりに既存の農薬承認プロセスを支持し、農業・化学セクターとの協力を促進することが強調されていました(13)。
公衆衛生の擁護者や独立系ジャーナリスト、特にThe New Ledeに寄稿する者らは、この転換を化学産業と農業関連企業のロビー活動による圧力下での後退と位置づけています(13)。かつて農薬を公衆衛生上の主要な脅威と認めていた政策姿勢が、規制審査の効率化を擁護する姿勢へと180度転換したのです。政府の言うことはすべて幻想なのです。
⭐️今、私たちは何を知り、何をすべきか
独立した科学研究は、グリホサートが安全であるという主張に対して、ますます多くの疑問符を投げかけています(8,10)。私たちの体内に広く存在し、複数の臓器で腫瘍の増加を引き起こし、内分泌系を撹乱し、腸内細菌叢を乱し、認知機能に影響を与える可能性がある――こうした証拠が積み重なる中で、規制当局が過去の判断に固執し続けることは、もはや科学的にも倫理的にも正当化できません。
25年間にわたって科学の仮面をかぶっていた企業の宣伝文書が、ついにその正体を露わにしました。今こそ、私たちは真の科学的証拠に基づいて、グリホサートの安全性を再評価する時です。
それは単に一つの化学物質の問題ではありません。それは、支配者層の科学至上主義(サイエンティズム)が、自然や私たちの心身を完全支配しようとしている瀬戸際に立っているという自覚です。

科学至上主義(サイエンティズム)が頂点を極めるAI監獄の2030年まで残り5年を切りました。一人でも多くの人に真実が届くことを祈っています。
参考文献
- Williams GM, Kroes R, Munro IC. Safety evaluation and risk assessment of the herbicide Roundup and its active ingredient, glyphosate, for humans. Regul Toxicol Pharmacol. 2000;31(2 Pt 1):117-165. PMID: 10854122. (2025年撤回)
- U.S. Environmental Protection Agency. Glyphosate Issue Paper: Evaluation of Carcinogenic Potential. EPA-HQ-OPP-2009-0361-0073. 2016. https://www.regulations.gov/docket/EPA-HQ-OPP-2009-0361
- Retraction Notice. Regul Toxicol Pharmacol. 2025;146:105619. https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0273230024000619
- U.S. District Court, Northern District of California. In re: Roundup Products Liability Litigation. Monsanto Documents. https://www.baumhedlundlaw.com/toxic-tort-law/monsanto-roundup-lawsuit/monsanto-secret-documents/
- Kauroff AA, Oreskes N. The afterlife of a ghostwritten paper: How corporate authorship shaped two decades of debate over glyphosate safety. Environ Sci Policy. 2025;164:104160. DOI: 10.1016/j.envsci.2025.104160
- U.S. Environmental Protection Agency. Glyphosate: Interim Registration Review Decision. 2020. https://www.epa.gov/ingredients-used-pesticide-products/glyphosate
- U.S. Court of Appeals for the Ninth Circuit. Natural Resources Defense Council v. U.S. Environmental Protection Agency. Case No. 20-70787. 2022.
- Panzacchi S, Gnudi F, Mandrioli D, et al. Carcinogenic effects of glyphosate and glyphosate-based herbicides in Sprague-Dawley rats following prenatal and lifelong exposure at environmentally relevant doses. Environ Health. 2025;24:36. DOI: 10.1186/s12940-025-01187-2
- International Agency for Research on Cancer. IARC Monographs Volume 112: Evaluation of five organophosphate insecticides and herbicides. 2015. https://monographs.iarc.who.int/wp-content/uploads/2018/06/mono112-10.pdf
- Galli C, Brunetti G, Lozano VL, et al. A comprehensive overview of human health effects associated with glyphosate exposure. Front Toxicol. 2024;6:1474792. DOI: 10.3389/ftox.2024.1474792
- Novotny E. Glyphosate, Roundup and the failures of regulatory assessment. Toxics. 2022;10(6):321. DOI: 10.3390/toxics10060321
- Civil Eats. MAHA activists confront the EPA over lack of action on pesticides. October 2025. https://civileats.com
- The New Lede. White House MAHA strategy scrubs pesticide language. 2025. https://www.thenewlede.org

















