Book

『夜の人工光が心臓を脅かす ── 現代都市が生む新たな健康リスク』

 

『夜の人工光が心臓を脅かす ── 現代都市が生む新たな健康リスク』

あなたの心身の不調は夜間の蛍光灯が原因かも知れません・・・・

私たちは今、光に包まれた夜を当たり前に過ごしています。街灯が照らす道、深夜まで輝く店舗、そしてベッドの中でもスマートフォンの画面を見つめる生活。

 

 

 

 

こうした夜間の人工光は、今や現代都市の風景として欠かせないものとなっています。しかし、この光が私たちの心臓に思いがけない影響を及ぼしている可能性があることをご存じでしょうか。

 

 

 

マサチューセッツ州ボストンで実施された小規模な成人対象研究が、驚くべき事実を明らかにしました(1)。それは、夜間の人工光への曝露量が多いほど、脳内のストレス活動の高まり、動脈の炎症、そして心臓病発症リスクの増加と関連性が認められたというものです。

 

 

 

つまり、夜の光が「見えない凶器」となって、私たちの心臓をじわじわと蝕んでいる可能性があるのです。

 

 

 

研究者らは、この夜間光害(光公害とも呼ばれます)が心血管の健康に影響を与える可能性を示唆し、夜間明るさが高い地域では光環境が変更可能な環境要因となり得ると報告しました。

 

 

これはまるで、大気汚染や騒音公害のように、光も「公害」として認識すべき時代が来たことを意味しています。

 

 

 

⭐️人工光と心臓を結ぶ、見えない糸

 

米国心臓協会(American Heart Association, AHA)の2025年科学セッションで発表予定の予備分析によると、夜間の人工照明の増加は、脳のストレス信号の増大、血管の炎症、心臓病リスクの上昇と相関していました(1)。

 

 

 

大気汚染や騒音公害などの環境要因が、ストレスを介して神経や血管に影響を与え心疾患を引き起こすことは知られています。人工の光公害は非常に一般的ですが、心臓への影響についてはほとんど分かっていませんでした。

 

 

⭐️人工光が増えれば、リスクも増える ── ほぼ直線的な関係

 

研究の主な結果は、驚くほど明確でした。夜間の人工光への曝露量が多い人々は、脳のストレス活動や血管の炎症が高く、重大な心臓イベントのリスクも高かったのです。

 

 

 

具体的には、夜間の人工光曝露量が標準偏差1単位増加するごとに、5年および10年の追跡期間における心臓病リスクがそれぞれ約35パーセント、22パーセント上昇しました。

 

 

 

この関連性は、従来の危険因子(年齢、喫煙、高血圧など)や騒音公害・社会経済的地位などの社会環境的曝露を調整した後も維持されました。つまり、他の要因を考慮に入れても、光の影響は消えなかったのです。

 

 

さらに注目すべきは、交通騒音の多い地域や近隣の所得水準が低い地域など、追加的な社会的・環境的ストレス要因のある地域に住む参加者では、これらの心臓リスクがより高かったという点です。

 

 

 

つまり、逆境が重なると、体に与えるダメージに相乗効果がかかることを示しています。10年間の追跡調査期間中、参加者の17パーセントが重大な心臓疾患を発症しました。

 

 

 

⭐️脳のストレスが心臓血管の炎症につながる

 

では、なぜ夜間の光が心臓病につながるのでしょうか。そこには、脳と免疫系、そして血管をつなぐ複雑なメカニズムが存在します(2, 3)。

 

 

 

脳がストレスを感知すると、血管を炎症を引き起こすシグナルが活性化されます。このプロセスが持続すると動脈硬化を促進し、心筋梗塞や脳卒中のリスクを高めます。

 

 

 

このプロセスを分かりやすく例えるなら、次のようになります。夜間の人工光は、脳にとって「警報ベル」のようなものです。本来、夜は暗く静かであるべき時間帯に光が差し込むと、脳は「何か異常が起きている」と判断します。

 

 

 

すると、脳はストレス反応を起こし、体全体に「戦闘態勢を取れ」という信号を送ります。その結果、免疫系が過剰に活性化され、血管に毒物の排出症状である炎症が起こります。

 

 

この状態が毎晩続くと、血管はじわじわと傷つき、やがて動脈硬化という「血管の老化」が進行するのです(4, 5)。

 

 

 

今回は心臓血管と人工光との関係を調べた研究でしたが、全身の臓器で毒物の排出症状である炎症の引き金になっている可能性があります。

 

 

 

⭐️概日リズムの乱れが招く健康への悪影響

 

この問題は、単なる一過性のストレス反応ではありません。夜間の人工光は、私たちの体内時計(概日リズム)を乱す主要因でもあります(6, 7)。

 

 

米国心臓協会は先週(10月28日)、「心代謝健康と疾患リスクにおける概日リズムの健康の役割」に関する科学声明を発表しました。新たな声明では、光汚染が体内時計を乱し、メラトニン分泌を抑制し、入眠を遅らせ、低レベルでも心血管疾患リスク増加と関連していることが示されています。

 

 

 

⭐️人工光を減らせば、心臓を守れる ── 実践可能な対策

 

では、私たちはどうすればこの「光害」から身を守ることができるのでしょうか。

 

 

 

都市レベルでは、不要な屋外照明の削減、街灯の遮光、あるいは人感センサー付き照明の使用が提案できます。これはまるで「光のダイエット」のようなもので、必要な時に必要な場所だけを照らすことで、無駄な人工光を減らす対策です。

 

 

 

個人レベルでは、室内での夜間照明を制限し、寝室を暗く保ち、就寝前のテレビや電子機器などの画面を避けることが有効でた。これは誰にでもできる、シンプルで効果的な方法です。

 

 

寝室をできるだけ暗くし、就寝の1時間前にはスマートフォンやパソコンの画面を見ないようにすることで、脳に「今は夜だ、休む時間だ」という正しい信号を送ることができます。

 

 

私たちは今、人工の光に溢れた世界に生きています。しかし、それが私たちの健康を脅かしているのだとしたら、私たちは人工照明との付き合い方を見直す必要があります。

 

 

 

日中に本当の光である太陽光を十分に浴び、夜は暗く、静かであるべきだという自然のリズムを取り戻すこと。それは、私たちの心臓だけでなく心身全体を守るための第一歩です。

 

 

 

参考文献

 

(1) Abohashem S, et al. Artificial light at night, stress, and cardiovascular health. American Heart Association Scientific Sessions 2025 Preliminary Analysis. 2025(発表予定).

 

(2) Münzel T, Hahad O, Sørensen M, et al. Environmental risk factors and cardiovascular diseases: a comprehensive expert review. Cardiovascular Research. 2022, 118, 2880-2902.

 

(3) Hu X, Wang LB, Jalaludin B, Knibbs LD, et al. Outdoor artificial light at night and incident cardiovascular disease in adults: A national cohort study across China. Science of The Total Environment. 2024, 918, 170346.

 

(4) Aher A, Doad J, Fappi A, Wasir AS, et al. Pollution, climate extremes, and psychosocial stress: emerging environmental risks for cardiovascular disease: a review. Environmental Medicine and Public Health. 2025(印刷中).

 

(5) Ikeno T, Yan L. Chronic light exposure in the middle of the night disturbs the circadian system and emotional regulation. Journal of Biological Rhythms. 2016, 31, 352-364.

 

(6) Wojciechowska W, Hahad O, et al. Night light pollution and cardiovascular disease. Polish Heart Journal. 2025(印刷中).

 

(7) Smolensky MH, Sackett-Lundeen LL, et al. Nocturnal light pollution and underexposure to daytime sunlight: Complementary mechanisms of circadian disruption and related diseases. Chronobiology International. 2015, 32, 1029-1048.

 

関連記事

  1. 『バクテリアのワクチンの効果も・・・・』

  2. 『「砂糖悪玉説」をなぜ流布し続けるのか?〜俯瞰シリーズ』

  3. 『私のワクチンシェディング肺炎へのご質問〜リアルサイエンスシリーズ』

  4. 『新型コロナ遺伝子ワクチン接種に躊躇する医療スタッフ』

  5. ◆TUEETニュースレター◆   『自然の法則を利用したピラミッドの作…

  6. 『家畜にみるワクチンと感染症の関係』

  7. 『ワクチンフェイク:新型コロナウイルスのワクチンが続々登場!』

  8. 『フッ素の害を軽減する方法』