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『見えない暴力が心臓を攻撃する – ストーカー被害女性の心血管リスクが1.4倍に急上昇』

 

『見えない暴力が心臓を攻撃する – ストーカー被害女性の心血管リスクが1.4倍に急上昇』

 

 

「実際に何か被害が出てから通報してください。」

 

 

 

これは、ストーカー被害に対する日本の警察の一般的な対応です。

 

 

 

日本ではまだまだストーカー被害の深刻さに警察もまったく及び腰です(本質的には警察という組織の問題がある)。

 

 

 

過去にも、未解決殺人事件を含め、警察の杜撰な対応によって、防げていたストーカーによる殺人に発展した事件が無数に存在しています。

 

 

 

今回、その警察の杜撰な対応に一考をせまる最新の研究データをご紹介します。

 

 

 

⭐️相手に接近禁止命令が出ている場合は1.7倍という驚きの数字

 

毎日、みなさんが誰かに見張られているという恐怖の中で生活することを想像してみてください。。

 

 

 

電話が鳴るたびに心臓がドキドキと激しく鼓動し、外出するときも常に後ろを振り返る日々を。このような精神的な重圧が、実は心臓病のリスクを大幅に押し上げていることが、最新の大規模研究で明らかになりました。

 

 

⭐️なぜストーカー被害が心臓に影響するのか?

 

これまで医学界では、女性への暴力被害と健康への影響を調べた研究は、夫婦間のDVや性暴力、幼少期の虐待に焦点を当てたものが主流でした。

 

 

 

しかし、ストーカー被害と心血管疾患の関係は、まるで暗闇に隠れた氷山の一角のように、ほとんど注目されてこなかったのです。

 

 

米国ハーバード大学公衆衛生大学院のRebecca B. Lawn博士らは、まさにこの見過ごされた問題に光を当てました。同国の看護師を対象とした大規模前向きコホート研究「Nurses’ Health Study(NHS)Ⅱ」のデータを用いて、ストーカー被害や接近禁止命令の発令と長期の心血管疾患リスクとの関連を検証しました(1)。

 

 

 

⭐️6万6,000人を20年間追跡した衝撃的な結果

 

この研究は、まさに医学界の「時の試練」に耐える長期追跡調査でした。

 

 

 

2001年に暴力被害に関する質問票調査に回答し、その時点で心血管疾患を患っていない女性6万6,270人(平均年齢46.3±4.7歳)を対象に、約20年間という長期にわたって追跡を続けました。

 

 

 

研究者たちは、まるで探偵のように詳細な調査を行いました。

 

・ストーカー被害歴の有無

・相手に対する接近禁止命令の発令歴(深刻な暴力被害の指標として扱われた)

・心血管疾患イベント(自己申告による心筋梗塞または脳卒中)

 

 

 

そして、年齢、社会経済的要因、幼少期の環境、家族歴など、様々な交絡因子を丁寧に調整して分析を行いました。

 

 

 

⭐️数字が物語る恐ろしい真実

 

結果は医学界に衝撃を与えました。全体で7,721人(11.7%)がストーカー被害を、3,686人(5.6%)が接近禁止命令の発令を報告していました。つまり、約8人に1人がストーカー被害を経験していたのです。

 

 

 

中央値19.9年の追跡期間中に、1,879人(2.8%)が新たに心血管疾患を発症しました。そして分析結果は以下の通りでした。

 

 

 

⭐️ストーカー被害の影響は心臓にまで及ぶ

ストーカー被害のない女性と比べ、被害女性では心血管疾患発症リスクが1.41倍に上昇(調整後ハザード比1.41、95%信頼区間 1.24~1.60)

 

 

 

 

⭐️接近禁止命令は「赤信号」の証拠

相手に接近禁止命令が発令されていない女性と比べ、発令された女性ではリスクが1.70倍に上昇(調整後ハザード比1.70、95%信頼区間 1.44~1.98)

 

 

 

ストーカー被害と接近禁止命令発令の両方を経験した女性では、なんと2.16倍ものリスク上昇(調整後ハザード比2.16、95%信頼区間 1.77~2.62)

 

 

この数字は、まるで心臓が「助けて」と悲鳴を上げているかのようです。心筋梗塞と脳卒中に分けた解析や、医療記録で確認された症例のみの解析でも、同様の結果が得られました。

 

 

 

さらに驚くべきことに、健康行動、服薬、併存疾患、幼少期の虐待、抑うつ症状を調整しても、この関連性は揺らぐことがありませんでした(2,3)。

 

 

 

⭐️現代社会の隠れた健康問題

 

Lawn博士らは「女性におけるストーカー被害や相手への接近禁止命令の発令は、心血管疾患リスク上昇と関連する」と結論付けています。そして、さらに重要な指摘をしています。

 

 

 

米国の女性の約3人に1人が生涯にストーカー被害に遭うとされている。女性では既知の心血管疾患危険因子に加え、ストーキングやハラスメント、親密なパートナーからの暴力(IPV)などが心血管の健康に影響を及ぼすことを考慮すべきだ」

 

 

 

この研究結果は、まるで医学の常識に新たな1ページを加えるような画期的な発見です。

 

 

 

従来の心血管疾患リスク評価では、高血圧、糖尿病、喫煙、肥満などの身体的要因が重視されてきました。しかし、今回の研究は、心の傷が実際に心臓の健康を脅かすことを科学的に証明したのです(4,5)。

 

 

 

⭐️医療現場への新たな視点

 

この発見は、医療従事者にとって重要な意味を持ちます。これからは患者さんの診察において、血圧や血糖値をチェックするのと同じように、「過去にストーカー被害を受けたことはありますか?」という質問が、心血管疾患の予防において重要な役割を果たすかもしれません。

 

 

ストーカー被害は、単なる「心の問題」ではありません。それは心臓という生命維持に最も重要な臓器に、実際の生物学的損傷を与える深刻な健康問題なのです。

 

 

 

この研究は、暴力被害を受けた女性への医学的ケアのあり方に、パラダイムシフトをもたらす可能性を秘めています(6,7)。

 

 

 

未来の医療では、心の健康と身体の健康をより統合的に捉え、暴力被害のスクリーニングが標準的な医療ケアの一部となる日が来るかもしれません。それは、より多くの女性の命を救う、真に予防的な医療の実現につながるでしょう。

 

 

参考文献

  1. Lawn RB, Murchland AR, Thurston RC, Marquez C, et al. Experiences of stalking and obtaining a restraining order are associated with onset of cardiovascular events in women: a prospective analysis in the Nurses’ Health Study II. Circulation 2025, 152: 570-581

 

  1. El-Serag R, Thurston RC. Matters of the heart and mind: interpersonal violence and cardiovascular disease in women. Journal of the American Heart Association 2020, 9: e015479

 

  1. Stene LE, Jacobsen GW, Dyb G, Tverdal A, et al. Intimate partner violence and cardiovascular risk in women: a population-based cohort study. Journal of Women’s Health 2013, 22: 250-258

 

  1. Scott-Storey KA, Hodgins M, Wuest J. Modeling lifetime abuse and cardiovascular disease risk among women. BMC Cardiovascular Disorders 2019, 19: 196

 

  1. Mason SM, Wright RJ, Hibert EN, Spiegelman D, et al. Intimate partner violence and incidence of hypertension in women. Annals of Epidemiology 2012, 22: 562-567

 

  1. Mazza M, Marano G, Del Castillo AG, et al. Interpersonal violence: serious sequelae for heart disease in women. World Journal of Cardiology 2021, 13: 438-451

 

  1. Suglia SF, Sapra KJ, Koenen KC. Violence and cardiovascular health: a systematic review. American Journal of Preventive Medicine 2015, 48: 205-212

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