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『やはり副腎疲労はない!〜リアルサイエンスシリーズ』

やはり副腎疲労はない!〜リアルサイエンスシリーズ

 

「疲れが取れない…もしかして副腎疲労?」そんな言葉を耳にしたことはありませんか?

健康ポップカルチャーや代替医療界隈で話題の「副腎疲労」という概念。しかし、これは本当に医学的に認められた病気なのでしょうか?その真相に迫ります!

 

 

副腎疲労とは何か?

「副腎疲労」とは、慢性的なストレスによって副腎の機能が低下し、ストレスホルモンであるコルチゾールの分泌が減少するという仮説に基づいた概念です。

 

 

この状態が原因で慢性的な疲労感が生じるとされています。しかし、驚くべきことに、この「病名」は医学的には存在しないのです。

 

 

 

実際に知られている副腎の疾患

副腎に関する病気としては、以下の2つが知られていますが、いずれも非常に稀です。

 

クッシング症候群

副腎腫瘍などによりコルチゾールが過剰に分泌される状態。体重増加や高血糖などを引き起こします。

 

アジソン病(慢性副腎皮質機能低下症)

副腎に毒性物質が蓄積されることが原因(現代医学では自己免疫疾患と誤認している😢)で組織が破壊される病態。激しい疲労や皮膚の黒ずみなどが特徴です。

 

 

これらの疾患と異なり、「副腎疲労」という概念には科学的根拠が乏しいのです。

 

 

 

「副腎疲労」が疑われる場合には、血清コルチゾール基礎値と唾液コルチゾールリズムの検査が行われます。これらの検査で低値を示した人は、原因に関係なく、副腎皮質ステロイド(コルチゾールの薬剤)による治療を受けるはめになります。

 

 

 

ステロイド投与による一時的な症状軽快の仕組み

この副腎皮質ステロイド投与で疲労感などが回復したことをもって「副腎疲労」が存在するとしています。

 

 

 

これは、断食、雪山での遭難やトライアスロンなどでも起こる極度のストレスによる一時的な多幸感にすぎません。

 

 

 

コルチゾールやエンドルフィンなどのストレス物質の大量分泌は、一時的に脳機能を麻痺させて、幸福感をもたらすのです(パレオ協会ニュースレター『鉄剤投与と気分高揚、多幸感』参照)。

 

 

しかし、その後は以前よりもっと症状が悪化するため、コルチゾールの一時的多幸感を求めて、自分をまた極度のストレス状態にもっていくのです。

 

 

 

これがマラソンやトライアスロン中毒の仕組みです。

 

 

 

慢性疲労ではコルチゾールは低下しない!

しかし、疲労の原因が副腎疲労であれば、コルチゾールは分泌されないので低下するはずですが、疲労した人を対象にした臨床実験では、逆にコルチゾールが増加するデータが出ています。

 

 

また、慢性疲労症候群(CFS)と診断された人は通常、コルチゾール値に異常は見られません。

 

 

 

そもそも、コルチゾールやその他の副腎ホルモンは、ストレス反応や日内変動があるため、単一の評価方法では正確な状態把握が難しいため、副腎疲労の診断基準にはなり得ません。

 

 

「副腎疲労」は誤診である:本当の原因はどこにある?

副腎の機能も、エネルギーに依存しています。私たちのエネルギーを産生するのに重要なのは、副腎よりもむしろ甲状腺機能(つまり、糖のエネルギー代謝)です。慢性疲労に共通しているのは、むしろ甲状腺機能低下なのです(パレオ協会ニュースレター『副腎疲労(アドレナル・ファティーグ)の真実』参照)

 

 

実際に、副腎皮質不全のアジソン病は、甲状腺機能低下がその背景にあります。

さらに、副腎は2つありますが、機能するには1つ未満でも十分なほどです。

 

 

 

左右の副腎が仮に同時にダメージを負ったとしても、副腎組織の再生は非常に速いことが知られています。

 

 

副腎疲労として挙げられている症状は、甲状腺機能低下症の症状そのものです。

したがって、「副腎疲労」と勘違いしている病態は、単なる甲状腺機能低下(糖のエネルギー代謝低下)に過ぎないのです。

 

 

 

心臓、肝臓、脳の機能低下を心臓疲労、肝臓疲労、脳疲労と呼ぶことがないのと同じく、副腎疲労という病態は存在しません。

 

 

副腎疲労の名のもとに投与されるステロイドの危険性

低用量および生理学的用量であっても、副腎皮質ステロイドは、うつ病などの精神疾患、骨粗鬆症 、筋疾患 (筋肉崩壊)、胃潰瘍、緑内障、白内障、糖尿病、睡眠障害、心筋梗塞などの心血管疾 などの全身の疾患リスクを高めます。

 

 

 

副腎皮質不全(アジソン病)が疑われる場合を除き、コルチゾール検査はあらゆる症状の検査に臨床現場で使用すべきではありません。

 

 

 

さらに、グルココルチコイド療法(ステロイド投与)は、低用量でも上記のように精神疾患、糖尿病、心血管疾患や骨粗しょう症などの深刻なリスクを高めるために、行うべきではありません。

 

 

鉄欠乏(現代人では極めて稀。『眠れなくなるほど面白い鉄の話』参照)による鉄剤投与と同じく、副腎疲労というようなエビデンスが存在しない病名を作ってステロイド投与を行う危険性を知っておいてください。

 

 

参考文献
・Adrenal fatigue does not exist: a systematic review. BMC Endocr Disord. 2016 Aug 24;16(1):48

 

・Investigations on the morphology and function of adrenocortical tissue regenerated from gland capsular fragments autotransplanted in the musculus gracilis of the rat. Endocrinology. 1990 Jun;126(6):3251-62.

 

・[The subcapsular blastema of the adrenal cortex of the swine after continuous long-term infusion of exogenous ACTH] Gegenbaurs Morphol Jahrb. 1976;122(5):731-60.

 

・Reversible hypothyroidism in Addison’s disease. Lancet. 1972 Oct 7;2(7780):734-6.

 

・Hypothyroidism and adrenal insufficiency in sepsis and hemorrhagic shock. Arch Surg 2004; 139(11): 1199–1203.

 

・Isolated adrenocorticotropic hormone deficiency associated with Hashimoto’s disease and thyroid crisis triggered by head trauma. Case report. Neurol Med Chir (Tokyo). 2012;52(1):44-7.

 

・Addison’s disease in a patient with hypothyroidism: autoimmune polyglandular syndrome type 2. BMJ Case Rep. 2015 Aug 3:2015:bcr2015210506.

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