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『インプラントが治療不能の炎症を引き起こす』

『インプラントが治療不能の炎症を引き起こす』

―口の中で静かに錆びていく金属―

 

いまはどこもかしこも歯科領域ではインプラントの宣伝で埋め尽くされています。街でもよくインプラントを宣伝する派手な看板が乱立しています。

失った歯の代わりに、あごの骨へ金属のネジを埋めて人工の歯を固定する。それが歯科インプラントです。入れ歯のように外れる心配がなく、自分の歯のようにしっかり噛めるため、世界中で何千万人もの人に推奨されてきました。

ところが、このネジの周りで静かに進む炎症があります。「インプラント周囲炎」と呼ばれる病気で、歯ぐきだけでなく、インプラントを支えるあごの骨まで溶かしてしまいます。

この病態は決して珍しくありません。2015年のシステマティックレビューでは、インプラント周囲炎の有病率は平均で約22パーセントと推定されています  [1]。2016年にスウェーデンで行われた大規模調査では、骨の吸収を伴う中等度以上の周囲炎が、患者のおよそ7人に1人に見られました [2]。つまり、インプラントを入れた人のうち、5人から10人に1人ほどが、いずれこの問題に向き合う可能性があるということです。

 

⭐️インプラントの炎症は治療困難

不思議なのは、インプラント周囲炎が、天然の歯の周りに起こる歯周病とよく似ていることです。原因となる口の中の細菌もほとんど同じです。ところが、治療の結果は大きく違います。天然の歯であれば、抗生物質と専門的なクリーニングを組み合わせると炎症が落ち着くことが多いのですが、インプラントでは同じ治療をしても半分以下しか成功しません。

2016年のランダム化比較試験では、外科治療に抗菌薬を加えた効果はインプラントの表面の種類によって大きく異なりました [3]。さらに2017年に報告された3年間の追跡結果でも、抗菌薬を加えた長期的な上乗せ効果ははっきりしませんでした  [4]。

 

 

⭐️口腔内で金属ナノ粒子が発生する

インプラントの多くはチタンでできています。チタンは錆びにくく体になじむ「夢の金属」と言われてきました。ところが、インプラントの表面に細菌がたまると、細菌は「バイオフィルム」と呼ばれるぬるぬるした膜を作り、その中で酸を出します。これは、雨風にさらされた鉄橋が長い年月で錆びていく様子に似ています。2017年の横断研究では、周囲炎のあるインプラントの周りの歯垢には、健康なインプラントより多くの溶け出したチタンが含まれていたことが示されました [5]。

2018年のレビューは、「金属の粒子が放出されること自体が、インプラントの周りの骨破壊に関わっているのではないか」という新しい考え方を提案しています [6]。同じ年の研究では、溶け出したチタンが、インプラントの周りにすむ細菌の顔ぶれ、つまり細菌叢そのものを変えてしまう可能性も報告されました [7]。2025年のレビューでも、細菌のバランスの乱れとチタンの放出が互いに悪循環をつくり、周囲炎を進めることが指摘されています [8]。

実際に、インプラントの周りの組織からは、金属の微粒子が見つかっています。2013年の研究では、インプラントの周りの粘膜からはがれ落ちた細胞の中にチタン粒子が確認されました [9]。2020年の分析研究では、炎症を起こした歯ぐきの組織の中に、マイクロサイズからナノサイズの金属粒子が入り込んでいることが詳しく示されています [10]。その大きさは、赤血球よりも小さいほどです。

 

⭐️免疫細胞を「消化不良」に陥らせる金属の粒

2026年に学術誌「PNAS Nexus」に発表された研究は、この謎の中心に迫りました [11]。研究チームは、人の組織サンプル、実験室で育てた人の免疫細胞、さらに遺伝子を改変したマウスを使って、チタン粒子が体の中で何をしているのかを調べました。

歯ぐきに放出された小さなチタン粒子の表面には、細菌の毒素である「リポ多糖」がくっつきます。すると、この粒子は免疫細胞から見て「とても大きな細菌」のように見えてしまいます。体の掃除役であるマクロファージは、細菌を丸ごと飲み込んで消化する白血球ですが、この偽物の細菌にも食いつきます。ところが、金属は消化できません。たとえるなら、ゴミ収集車が溶けない鉄くずを詰め込まれて、身動きが取れなくなった状態です。

消化できない粒子を抱え込んだマクロファージは、「緊急事態だ」という警報を鳴らし続けます。その警報物質の一つが「インターロイキン1ベータ」という炎症を強める物質です。2017年の研究では、チタンのイオンが粒子をつくり、細菌毒素で刺激されたマクロファージからインターロイキン1ベータを放出させることが示されています [12]。2022年の研究でも、チタンのイオンが細胞の中の炎症スイッチを入れて、同じ物質を放出させることが報告されました [13]。

警報が鳴り続けると、周りの骨はじわじわと溶かされていきます。2026年の研究では、チタン粒子にさらされたマクロファージが飲み込める細菌の数は、粒子にさらされていない細胞の半分以下に落ちていました [11]。火災報知器が鳴りっぱなしなのに、消防士は鉄くずを抱えて動けない。

それまでの最大の守りは、やはり定期的な専門のクリーニングです。ただし、その「掃除の道具」が大きな意味を持ちます。およそ10年前までは、天然の歯の歯石を取るのと同じ金属製の器具で、インプラントを掃除することがよくありました。

しかし、金属の器具はチタンの表面を傷つけ、さらに粒子を削り出してしまう可能性があります。2021年の研究では、インプラントの掃除の方法によって、溶け出すチタンの量や、周りの細胞への影響が変わることが示されています [14]。よかれと思って磨いたつもりが、実は錆を広げていた、ということも起こりうるのです。

口の中に埋め込まれた異物である金属は、何年にもわたってじわじわ炎症を引き起こしています。インプラントは、決して安全な選択ではありません。

参考文献

1. Peri-implant health and disease. A systematic review of current epidemiology. J Clin Periodontol 2015;42 Suppl 16:S158-71

2. Effectiveness of Implant Therapy Analyzed in a Swedish Population: Prevalence of Peri-implantitis. J Dent Res 2016;95(1):43-9

3. Adjunctive Systemic and Local Antimicrobial Therapy in the Surgical Treatment of Peri-implantitis: A Randomized Controlled Clinical Trial. J Dent Res 2016;95(1):50-7

4. Surgical treatment of peri-implantitis: 3-year results from a randomized controlled clinical trial. J Clin Periodontol 2017;44(12):1294-1303

5. Increased Levels of Dissolved Titanium Are Associated With Peri-Implantitis – A Cross-Sectional Study. J Periodontol 2017;88(5):436-442

6. Is Metal Particle Release Associated with Peri-implant Bone Destruction? An Emerging Concept. J Dent Res 2018;97(3):259-265

7. Titanium as a modifier of the peri-implant microbiome structure. Clin Implant Dent Relat Res 2018;20(6):945-953

8. Microbial Dysbiosis, Titanium Release, and Peri-implantitis. J Dent Res 2025;104(5):473-480

9. Exfoliative cytology and titanium dental implants: a pilot study. J Periodontol 2013;84(1):78-83

10. Distribution and Chemical Speciation of Exogenous Micro- and Nanoparticles in Inflamed Soft Tissue Adjacent to Titanium and Ceramic Dental Implants. Anal Chem 2020;92(21):14432-14443

11. Implant-derived titanium particles impair macrophage bacterial clearance via TRPC1 and lysosomal dysfunction. PNAS Nexus 2026;5(4):pgag081

12. Titanium ions form particles that activate and execute interleukin-1β release from lipopolysaccharide-primed macrophages. J Periodontal Res 2017;52(1):21-32

13. Ti Ions Induce IL-1β Release by Activation of the NLRP3 Inflammasome in a Human Macrophage Cell Line. Inflammation 2022;45(5):2027-2037

14. Effect of implant cleaning on titanium particle dissolution and cytocompatibility. J Periodontol 2021;92(4):580-591

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