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『その胃もたれ、犯人は「脂」だった!―赤肉悪玉説を斬る』

 

『その胃もたれ、犯人は「脂」だった!―赤肉悪玉説を斬る』

 

 

⭐️なぜ焼肉の後は胃が重くなるのか?

 

「また肉を食べ過ぎて胃がもたれてしまった…」そんな経験はありませんか?多くの人が「肉は消化に悪い」と思い込んでいますが、実はこれ、大きな誤解なのです。

 

 

 

胃もたれの真の犯人は「肉」ではなく、一緒に摂取した「脂」にあります。まるで交通渋滞のように、脂質が消化管の流れを滞らせることで起こる現象なのです。

 

 

⭐️体内の「交通信号」:三大消化ホルモンの巧妙なシステム

 

私たちの体内では、まるで高度な交通管制システムのように、三つの重要なホルモンが消化をコントロールしています¹。

 

 

 

・ガストリン(Gastrin)は胃酸分泌の「アクセル」役。胃での消化を促進します。

 

・セクレチン(Secretin)は膵液分泌を促す「補助エンジン」。十二指腸や小腸での消化を後押しします²。

 

 

 

そして最も注目すべきがコレシストキニン(Cholecystokinin, CCK)です。このホルモンは胆汁の分泌を促進する一方で、胃の働きを「ブレーキ」で抑制する二重の作用を持ちます³。

 

 

⭐️なぜ脂質で胃が「渋滞」するのか?

 

コレシストキニンの作用は、まさに消化管の「交通整理」です。脂質を感知すると、胃から小腸への食べ物の流れを意図的に遅くします。

 

 

 

これは一度に大量の脂質が小腸に押し寄せることを防ぐ、体の防御メカニズムです⁴。

 

 

 

しかし、この「渋滞」状態が続くと問題が生じます。もともと脂質を消化できない胃に脂が溜まり続け、胃もたれや不快感を引き起こすのです。

 

 

 

⭐️肝臓の悲鳴:胆汁産生の限界

 

さらに深刻な問題があります。胆汁は肝臓で作られますが、脂っこい食事を続けていると、肝臓は24時間体制で胆汁を大量生産せざるを得なくなります⁵。

 

 

 

これは工場が長時間のフル稼働を強いられるような状態です。やがて肝臓は疲弊し、胆汁の産生能力が低下してしまいます。

 

 

すると体は少ない胆汁を無理やり絞り出そうと、コレシストキニンを大量分泌。この悪循環が胃の不調を慢性化させます⁶。

 

 

 

⭐️真実:肉は「無実」だった

 

驚くべき事実をお伝えしましょう。たんぱく質は実は非常に消化しやすい栄養素なのです⁷。

 

 

 

牛肉のたんぱく質も、鶏ささみのたんぱく質も、消化の速さに大きな違いはありません。

 

 

 

問題となるのは、その肉に含まれる「脂質の量」です。霜降り和牛とささみの違いは、まさにここにあります。脂質の少ない部位を選べば、肉料理での胃もたれは大幅に軽減できるのです。

 

 

⭐️脂でもプーファが胃もたれの主因!

 

脂質による胃もたれですが、実はすべての脂が同じように問題を起こすわけではありません。特に問題となるのがプーファ(PUFA 、PolyUnsaturated Fatty Acids:多価不飽和脂肪酸)、なかでも植物油脂(オメガ6系脂肪酸のリノール酸(linoleic acid))です。

 

 

1960年代以降、「コレステロール悪玉説」により植物油(揚げ物、炒め物で使用される調理油)の消費が急激に増加しました。しかし、この植物油の主成分であるリノール酸の摂取量は、人類史上かつてないレベルまで達しています。

 

 

 

プーファは胃内で酸化されやすく、特に胃酸という強酸性環境では急速に酸化が進行します8。この酸化過程で生成される4-ヒドロキシノネナール(4-HNE)などの過酸化脂質(アルデヒド化合物)が、胃粘膜上皮細胞に直接的な毒性を発揮します9

まるで胃の内壁に「化学やけど」を負わせるような状態で、これが胃もたれや不快感の直接的な原因となります。PUFAの摂取は、機能性ディスペプシア(functional dyspepsia)と呼ばれる慢性的な胃の不調を引き起こすことが報告されています10

 

 

 

特に加工食品や調理油で使用される植物油脂は、先述のコレシストキニン(CCK)の過剰分泌を誘発し、胃の蠕動運動を長時間にわたって抑制します11

 

 

 

 

⭐️次回肉料理をする際に留意すること

 

・脂身の少ない部位を選ぶ(鶏ささみ、豚ヒレ、牛もも肉など)

 

・調理法を工夫する(揚げ物より蒸し料理や網焼き)

 

・食べる量を調整する(一度に大量摂取を避ける)

 

 

 

健全な消化システムは、私たちの生活の質を大きく左右します。SNSや医師が書いている一般健康本の情報を鵜呑みにせず、美味しく健康的な食生活を送りましょう。

 

 

 

参考文献

  1. Liddle RA, et al. Regulation of gastric emptying in humans by cholecystokinin. The Journal of Clinical Investigation, 1986, 78, 1515-1521
  2. Iwanaga T. Anatomical basis of gastrin-and CCK-secreting cells and their functions. A review. Biomedical Research, 2023, 44, 81-97
  3. Mathus-Vliegen EMH, et al. Gastric emptying, CCK release, and satiety in weight-stable obese subjects. Digestive Diseases and Sciences, 2005, 50, 1261-1267
  4. Feinle C, et al. Effects of fat digestion on appetite, APD motility, and gut hormones in response to duodenal fat infusion in humans. American Journal of Physiology-Gastrointestinal and Liver Physiology, 2003, 284, G798-G807
  5. Rao A, et al. Inhibition of ileal bile acid uptake protects against nonalcoholic fatty liver disease in high-fat diet–fed mice. Science Translational Medicine, 2016, 8, 357ra122
  6. Nakade Y, et al. Characteristics of bile acid composition in high fat diet-induced nonalcoholic fatty liver disease in obese diabetic rats. PLoS One, 2021, 16, e0247303
  7. Boyd KA, et al. High-fat diet effects on gut motility, hormone, and appetite responses to duodenal lipid in healthy men. American Journal of Physiology-Gastrointestinal and Liver Physiology, 2003, 284, G188-G196
  8. Sharifi R, et al. Dietary PUFA Increase Apoptosis in Stomach of Patients with Dyspeptic Symptoms and Infected with H. pylori. Lipids, 2017, 52, 295-304
  9. Lei L, et al. Roles of lipid peroxidation-derived electrophiles in pathogenesis of colonic inflammation and colon cancer. Frontiers in Cell and Developmental Biology, 2021, 9, 665591
  10. Feinle-Bisset C, Azpiroz F. Dietary Lipids and Functional Gastrointestinal Disorders. American Journal of Gastroenterology, 2013, 108, 737-747
  11. Wakabayashi M, et al. Comparison of clinical symptoms, gastric motility and fat intake in the early chronic pancreatitis patients with anti-acid therapy-resistant functional dyspepsia patients. PLoS One, 2018, 13, e0205165

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