『命のリング:ボクシングと頭部外傷の知られざる真実』
――急性硬膜下血腫と格闘技の未来を問う――
今頃になってエプシュタイン(とうに逃亡し、悠々自適生活を送っている)とトランプの関係が暴露された大騒ぎしていますが、呆れ果てます。自己破産を繰り返していたトランプが政界に出てきたときに、すでに指摘されていた話です。「政治」というものが権力者によって都合よく作られたシステムであるという基本原則から、感情や信念ではなく、論理を積み重ねてもらいたいものです。
さて、本日はスポーツ、とりわけ命の危険が高いボクシングについてお伝えしたいと思います。
⭐️1日で2人が倒れた夜
2025年8月2日、東京・後楽園ホール。
この夜、リングの上で壮絶な戦いを終えた二人の若きボクサーが、別々の試合後に意識を失い、急性硬膜下血腫と診断され緊急開頭手術を受けるという前代未聞の事故が起こりました。神足茂利選手、浦川大将選手。いずれも28歳。
かつてない「同一興行での二重事故」に、ボクシング界は激震しました。
ですが、これは氷山の一角にすぎません。
すでにその数カ月前、元世界王者・重岡銀次朗選手も同様の症状で手術を受けていたのです。
2023年12月26日に開催された日本バンタム級タイトルマッチで、選手が急性硬膜下血腫による重体となり、その後治療のかいなく2024年2月2日に23歳で亡くなったケースは、国内外のメディアで大きく報道されました。
繰り返される脳の悲鳴に、私たちはようやく耳を傾けるべき時を迎えています。
⭐️ 脳の悲鳴:急性硬膜下血腫とは何か?
リングの衝撃が、なぜ命を奪うのでしょうか?
最新の研究では、「加速-減速メカニズム(acceleration-deceleration)」――つまり、頭が強打された直後に急停止・回転することで脳が内部から揺さぶられ、脳表と硬膜を結ぶ静脈(架橋静脈)が剪断力で引きちぎられる現象が原因とされています。
脳は水に浮かぶゼリーと考えてください。
頭部への衝撃=瓶を突然振って急停止させる行為です。
その結果、瓶の中のゼリーが遅れて動き、内部で「脳表と硬膜を結ぶ糸のような血管(架橋静脈)」がブチッと切れてしまう――これが急性硬膜下血腫です。
血液は脳と頭蓋骨の間に溜まり、脳を圧迫。意識障害、昏睡(こんすい)、そして死に至る危険性があるのです。
⭐️ “見た目“は回復、でも“脳“は叫んでいる
急性硬膜下血腫の典型的な臨床経過として、「意識消失」「頭痛」「傾眠・混迷」「一時的な回復期(lucid interval)後の急激な神経学的悪化」が挙げられています。
まさに今回の事故でも神足選手が「判定結果を聞いた直後は自力で立って歩いたが、控え室に戻ってから意識がもうろうとなった」という経過と一致しています。まるで氷山の下で静かに沈み始めるタイタニック号のように、脳の内部ではすでに血腫が進行していたのです。
⭐️ 二度目の衝撃が脳を破壊する:「セカンドインパクト症候群」
脳は、繰り返しの衝撃に極端に弱い臓器です。
特に「最初の軽度外傷から完全に回復しないうちに再び頭部に打撃を受けた場合」、たとえ衝撃が軽くても致命的になることがあります。これが「セカンドインパクト症候群(SIS)」と呼ばれ、軽微な外力でも致命的な脳腫脹や急性硬膜下血腫を起こす現象です。。
さらに研究では、たった一度の頭部外傷が、数年後まで「進行性の神経変性(タウタンパク病理)」を引き起こす可能性があることも示されています。
これは一度の脳損傷が長期にわたって脳機能に影響を与え続ける可能性を示唆しており、現役復帰を禁じるJBCの規定には医学的合理性があることが分かります。
⭐️ 「安全」は後からやってくる
JBC(日本ボクシングコミッション)は今回の事故を受けて、JBCは複数の安全対策強化を発表しました。最も注目すべきは東洋太平洋タイトルマッチのラウンド数を12回から10回に短縮する検討です。これは1987年に世界ボクシング協会が15ラウンドから12ラウンドに短縮した歴史的経緯と同様の安全重視措置です。
また、過度の減量を抑制するための「ハイドレーションテスト」の導入検討も発表されました。これはONE Championshipが採用している尿比重測定による水抜き抑制策で、脱水状態による脳脆弱性の増大を防ぐことを目的としています。
無理な減量が、脳の外傷による損傷のリスクを高めるのです。
⭐️パンとサーカス
現代西洋医学は症状の治療に重点を置いていますが、古代の叡智では「予防」と「全体性」が重視されていました。そして東洋医学では「頭」は“命の中心”とされ、刺激を極力避けるべき聖域でした。
ボクシングにおける頭部外傷問題も、単なる医学的対処療法ではなく、競技そのものの本質的なあり方を問い直す必要があります。
格闘技やスポーツの起源は、権力者たちが、圧政のために疲弊している奴隷(私たちのことです)のガス抜きとして与えた「サーカス」です。
そのサーカスのために、廃人となる選手(私たちと同じ奴隷)たちに、私たち自身の姿が投影されていることを強く感じます
参考文献
・A Systematic Review and Meta-Analysis Investigating Head Trauma in Boxing. Clin J Sport Med. 2023 Nov 1;33(6):658-674.
・Headguard use in combat sports: position statement of the Association of Ringside Physicians. Phys Sportsmed. 2024 Jun;52(3):229-238.
・What boxing tells us about repetitive head trauma and the brain. Alzheimers Res Ther. 2013 Jun 4;5(3):23.
・Boxing-Related Head Injuries. THE PHYSICIAN AND SPORTSMEDICINE • ISSN – 0091-3847, October 2010, No. 3, Volume 38
・The spectrum of acute and chronic consequences of neurotrauma in professional and amateur boxing – A call to action is advocated to better understand and prevent this phenomenon.Brain Spine. 2023 Dec 30;4:102743.