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『「魔法のやせ薬」の落とし穴:糖尿病薬(GLP-1)が奪うもの』

『「魔法のやせ薬」の落とし穴:糖尿病薬(GLP-1が奪うもの』

減ったのは脂肪だけじゃない。筋肉と命の持久力まで

 

 

 

⭐️「体重が落ちる。でも、その代償は?」

痩せたい。

 

この願いは、誰もが一度は抱いたことのある想いでしょう。そんな中、糖尿病治療薬の「GLP-1受容体作動薬」(オゼンピックやウゴービなどのグルカゴン様ペプチド-1受容体作動薬)は、過去記事でもお伝えしたように「魔法のやせ薬」として脚光を浴びています。

 

 

 

2025年8月時点での報道によると、エプシュタイン問題で揺れるトランプ政権はオゼンピック(Ozempic)、ウェゴヴィ(Wegovy)などのGLP-1薬と呼ばれる糖尿病治療薬を体重管理目的(肥満治療)で公的保険(MedicareやMedicaid、つまり日本から奪った私たちの税金🤫)でカバーする5年間の試験的プログラムを検討中と発表しています。

 

注射一本で食欲が減り、体重がスルスル落ちる。多くの人がこの「夢の薬」に飛びついています。しかし――その陰で、ある重大なものが静かに失われているのです。

 

 

それは、筋肉

 

そして、心肺機能(=体のスタミナ)

 

 

 

これが健康寿命を縮めるという警告を鳴らすレヴュー論文が先日(2025年7月)発表されています。

 

 

⭐️痩せたけど疲れやすい? それ、筋肉の減少かも

今回発表された論文中ででこう警告しています。

 

 

「GLP-1薬で体重は落ちるが、脂肪と同時に筋肉も減る。この筋肉の減少が、心肺機能の低下寿命の短縮といった深刻な影響を及ぼす可能性がある」

 

 

つまり、数字の上では体重が減っても、体の中では「燃費の悪い、パワーのない体」になっている可能性があるのです。

 

 

たとえば、体重が10キロ減ったとしても、そのうち最大4キロが筋肉だったとしたら? 見た目はスリムになっても、「息切れしやすい」「疲れやすい」「姿勢が悪くなる」といった、健康寿命を縮めるサインが忍び寄ってきます。

 

 

 

⭐️ 体のエンジン性能を測るVO₂maxとは?

研究者たちが注目しているのが、「心肺持久力(CRF」、なかでもVO₂maxという指標です。これは、「運動中に体がどれだけ酸素を取り込めるか」を示す数値であり、車でいうところのエンジンの排気量にあたります。

 

 

驚くことに、このVO₂maxは、体重やBMIよりも死亡リスクの予測に優れているとされており、40万人を対象としたメタ解析でもその重要性が裏付けられています。

 

つまり、どれだけ痩せていても、VO₂maxが低い人(つまり筋肉のない人)は健康リスクが高いのです。

 

 

GLP-1薬は、このVO₂maxを低下させる結果が出ています。

 

 

⭐️ 痩せる=健康、とは限らない。筋肉がカギに。

GLP-1薬は食欲を抑え、胃から十二指腸への食物の排出を遅くさせるため、他の糖尿病薬や糖質制限と同じく低血糖を招きます。

 

 

低血糖は、ストレスホルモンを分泌させ、私たちの体の筋肉と脂肪を溶かして糖に変換し、血糖を維持しようとします。

 

 

 

このように、筋肉量の減少心肺機能の悪化が長期的に続けば、むしろ早死にのリスクを高めてしまう可能性もあるのです。

 

 

筋肉の減少は、

 

・基礎代謝の低下

・健康寿命の短縮と脆弱性の増加

・全体的な寿命への悪影響

 

 

をもたすため、このGLP-1薬という糖尿病薬は、「私たちを不健康のまま早死にさせる」というまさに”彼ら”の目的とする理想の設計薬といえるでしょう。

 

 

 

「痩せたけど、なんだか前より疲れやすい……」

 

 

もしあなたがそう感じたら、“体重”だけに目を奪われないことが大切です。体は「軽ければ軽いほどいい」のではなく、「よく動けること」「エンジンがしっかり働くこと」が命を守る鍵なのです。

 

 

 

*GLP-1薬についてのさらに詳しい情報は、拙著『世界一分かりやすい 薬のやめ方』に掲載しています。

 

 

参考文献

・Incretin Receptor Agonism, Fat-free Mass, and Cardiorespiratory Fitness: A Narrative Review. J Clin Endocrinol Metab. 2025 Jun 9:dgaf335.

 

・Cardiorespiratory fitness, body mass index and mortality: a systematic review and meta-analysis. Br J Sports Med. 2024 Nov 13;59(5):e108748.

 

・Cardiorespiratory fitness, body mass index and mortality: a systematic review and meta-analysis. Br J Sports Med. 2025 Feb 20;59(5):339-346.

 

・Changes in lean body mass with glucagon-like peptide-1-based therapies and mitigation strategies. Diabetes Obes Metab. 2024 Sep:26 Suppl 4:16-27.

 

・Body Composition Remodeling and Mortality: The Health Aging and Body Composition Study. J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2017 Apr 1;72(4):513-519.

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