【危険信号】健康の常識が一変?オメガ3礼賛論文の裏に潜む真実
SNSで広がる健康情報、あなたは正しく見極められていますか?
最近、私の読者の方から「またオメガ3を礼賛する記事がSNSで拡散されている」というメッセージをいただきました。健康に良いとされてきたオメガ3ですが、その評価に疑問を投げかける研究結果が次々と発表されています。
今回は、SNSで拡散されているオメガ3礼賛記事の論拠とされる論文を徹底検証し、健康情報の正しい見方をお伝えします。
「オメガ3信仰」の根拠となっている論文を解剖する
まず知っておくべき:利害関係のある研究は信頼性に欠ける
SNSで引用されている2019年の論文「Marine Omega-3 Supplementation and Cardiovascular Disease: An Updated Meta-Analysis」。この論文、実はオメガ3サプリメントを販売しているPronova BioPharma社やBASF社から資金提供を受けています。
重要ポイント:特定企業から資金提供を受けた研究は「利害の衝突」があり、サイエンス界では信頼性が低いとみなされ、エビデンスにはなりません。
参考文献
・Conflicts of interest at medical journals: the influence of industry-supported randomised trials on journal impact factors and revenue – cohort study. PLoS Med. 2010 Oct 26;7(10):e1000354.
なぜこのような明らかに信頼性の低い論文が「エビデンス」として提示されているのでしょうか?おそらく、医学論文の読み方に慣れていない方からの情報発信なのでしょう。
コクランのレビュー論文も実は…
もう一つの根拠とされる2020年の以下のコクラン・レビュー論文を詳しく見てみましょう。
Omega‐3 fatty acids for the primary and secondary prevention of cardiovascular disease. Cochrane Database Syst Rev. 2020 Feb 29;2020(3):CD003177.
この論文は企業からの資金提供はありませんが、結果を詳細に分析すると:
・冠動脈性心疾患死亡率では「334人治療して1人だけ有益」という結果(絶対リスク減少率はわずか0.003%)
・冠動脈性心疾患発症率では「167人治療して1人に有益」(絶対リスク減少率はわずか0.6%)
つまり、冠動脈性心疾患死亡率に関して、100万人がオメガ3を摂取しても、恩恵を受けるのはたった3人程度というのが実際の効果なのです。コクラン自身も、オメガ3による心疾患リスク低下のエビデンスレベルは「低い」と結論づけています。
見過ごされている危険性:オメガ3の「影の部分」
心房細動リスクの上昇という警告
それでは、オメガ3を摂取してもメリットのない100万人(3人以外の)にデメリットはでないのでしょうか?問題はオメガ3摂取によって利益を得る人がほんのわずかに対して、重大な不利益を被る危険性が近年警告されるようになっていることです。
2021年の最新の解析では、オメガ3摂取が心房細動(危険な不整脈)のリスクを有意に高めることが示されています。心房細動は脳卒中や動脈閉塞を引き起こす危険な不整脈です。
特に注目すべきは、心臓血管疾患のリスクが高い人や、すでに心臓血管疾患を持っている人において、このリスク上昇が顕著だということです。まさに「良薬は口に苦し」どころか、「効果の少ない薬が重大な副作用をもたらす」という事態です。
参考文献
・Omega-3 fatty acids supplementation and risk of atrial fibrillation: an updated meta-analysis of randomized controlled trials. Eur Heart J Cardiovasc Pharmacother. 2021 Apr 28;7(4):e69–e70.
・Evaluating the Real-World Safety of Icosapent Ethyl Versus Omega-3 Polyunsaturated Fatty Acid in Nationwide US Veterans Cohort: Examining Atrial Fibrillation and Bleeding Endpoints. Clin Drug Investig
. 2025 Feb;45(2):69-84.
健康な人にはオメガ3は効果なし
さらに複数の研究が示すのは、健康な人にオメガ3を投与しても、プラセボと比べて心臓死や主要冠動脈イベントに対するリスク低減効果がないという事実です。
つまり、健康な人が「予防」のためにオメガ3を摂取する意味はほとんどないのです。
参考文献
・Associations of Omega-3 Fatty Acid Supplement Use With Cardiovascular Disease Risks: Meta-analysis of 10 Trials Involving 77 917 Individuals. JAMA Cardiol. 2018 Mar 1;3(3):225-234.
Marine n-3 Fatty Acids and Prevention of Cardiovascular Disease and Cancer. N Engl J Med. 2019 Jan 3;380(1):23-32.
・Association of marine omega-3 fatty acid supplement use with cardiac death: a meta-analysis of randomized clinical trials. JAMA Cardiology. 2018;3(3):225-234.
・n–3 Fatty Acids and Cardiovascular Outcomes in Patients with Dysglycemia. N Engl J Med. 2012 Jul 26;367(4):309-18.
高容量オメガ3でも効果はなく早期終了した試験
2020年に発表された研究でも、高容量のオメガ3を投与しても主要心血管イベントが有意に減らせなかったと報告されました。比較対象はコーン油(プラセボ)でしたが、優位性が示せず、この臨床試験は有効性を示せないまま早期終了しています。
オメガ3製薬を手がけるビッグ・ファーマ(アストラゼネカなど)が資金提供していたにもかかわらず、成果が出ず途中で中断されたということは、未報告の重大な有害事象があった可能性も考えられます。
参考文献
・Effect of High-Dose Omega-3 Fatty Acids vs Corn Oil on Major Adverse Cardiovascular Events in Patients at High Cardiovascular Risk: The STRENGTH Randomized Clinical Trial. JAMA. 2020;324(22):2268-2280.
臨床試験だけで結論づけられない「エビデンス」の難しさ
ここまでの内容は、操作しやすいとされる「臨床試験(ヒト対象の試験)」に限定しての話ですが、本来エビデンスを確立するには、利害関係のない複数の二重盲検ランダム化比較試験だけでなく、細胞・動物実験などの基礎研究も総合的に見ることが必要です。
オメガ3に関しては、体内で過酸化脂質(MDAやアクロレインなど)が生成されると、公式に発がん性が認められている点が見逃せません。これらの過酸化脂質は、がんに限らず多くの病態の進行に深く関与しているとエビデンスが多数存在しています。
また、DHAがミトコンドリア膜に組み込まれることで老化や寿命の短縮につながるエビデンスも、拙著『図解・その油が命を縮める』でご紹介したとおりです。こうした地道な基礎研究の蓄積こそ、臨床試験の結果を正しく読み解くために欠かせない材料となります。
情報を見極める目を養うために
SNSで拡散される健康情報は、統計操作が可能な臨床試験の結果だけを都合よく切り取っている場合が多いのです。権力側が何を流通させたいのかという歴史的な背景知識も必要となってきます(実は、この視点が一番重要で、専門家を含め多くの人に欠けている点です)。
真実を知るためには:
・資金提供元を確認する – 企業から資金を受けた研究は注意が必要
・絶対リスク減少率を見る – 相対的な数字だけでは真の効果はわからない
・副作用情報も確認する – 効果だけでなくリスクも同時に評価する
・基礎研究の結果も参照する – 細胞・動物実験も重要な判断材料
・医学雑誌掲載の論文の傾向を知っておく
・歴史的背景も知っておく
プロフェッショナルの間では、「検索できる医学論文の影には、その数倍もの掲載が却下された本当の事実を伝える論文がある」ことが常識です。医学論文もSNSと同じく“検閲”を受けているのです。
SNSの情報だけで判断せず、複数の視点から情報を見極めることが大切です。
本当の健康情報のエビデンスを知りたい方は、ぜひ拙著『奇跡のハチミツ療法』や『図解・その油が命を縮める』をご参考にしてください。また、『図解・その油が命を縮める』のサイン会でも詳しくお伝えしますので、事前質問をしていただければ幸いです。
健康情報の海で溺れないために、真に役立つ情報の見極め方を身につけましょう。
▶ まとめ
・オメガ3の恩恵を謳う論文の多くに“利益相反”がある。
・コクランによる解析でも、冠動脈性心疾患への効果はほとんどない。
・心房細動リスクの増加など、副作用の警告が近年強まっている。
・高容量オメガ3でも、有意な効果が示せず臨床試験が早期終了している。
・基礎研究のデータ(発がん性や寿命短縮など)の検討も必要。
・SNSの情報は“検索して出るもの=真実”とは限らない。
一般に流布している「オメガ3は体にいい」とただ鵜呑みにするのではなく、裏にどんな“仕掛け”や“リスク”があるのか、今一度立ち止まって考えることが大切です。情報の真偽を慎重に見極めましょう。