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「見えない脳の悲鳴」~体重が増える前に始まる恐ろしい変化~

 

あなたが気軽に楽しんでいる高プーファ(酸化・腐敗しやすい油、多価不飽和脂肪酸)含有のファストフードが、実は知らないうちに脳細胞を破壊していたとしたら?

 

 

最新の科学研究が明らかにした事実は、私たちの食習慣に対する考え方を根本から覆すものかもしれません。

 

 

 

恐るべき実験の内容:「ハンバーガー食」vs「健康食」

研究者たちは、人間のアルツハイマー病モデルの特殊なマウス(3xTg-ADマウス)を用いて衝撃的な実験を行いました。彼らは二つのグループに分け、一方には普通の健康的な餌、もう一方には「ファストフード再現食」を与えました。

 

 

 

この「ファストフード再現食」は、あなたが街角で手に入れるチーズやベーコン入りのダブルパティバーガーとほぼ同等の栄養成分になるよう慎重に調整されています。カロリーは通常食の約1.7倍、プーファが5倍(脂質全体3.5倍)以上の恐るべき数値です!

 

 

こってりした食品やジャンクフードなど、「高脂肪(=高プーファ)の食べ物を習慣的にとるのは体に悪い」ということは、すでによく知られていると思います。そして多くの人が、その理由は、「高脂肪な食品は太りやすいから」と理解しているでしょう。

 

 

 

確かに肥満になると心臓に負担がかかり、代謝バランスも乱れて動脈硬化などが引き起こされやすくなります。結果として心筋梗塞や脳梗塞が引き起こされれば、命にかかわる危険があります。

 

 

 

しかし、2024年にアメリカのオハイオ州立大学の研究チームが発表した研究論文では、別の衝撃的な結果が報告されました。

 

 

 

ネズミに高プーファ食を含んだ餌を短期間摂取させただけで、脳内の免疫系が過剰に活性化され、シナプスが刈り込まれてしまうという事実が明らかになったのです。分かりやすく解説します。

 

 

 

高プーファのハンバーガーを3日間食べたらどうなるか? マウスによる実験内容

まず、この研究には、人間のアルツハイマー病で認められる遺伝子異常を組み込むことで、加齢に伴ってアルツハイマー病を発症するよう改変されたマウス(3xTg-ADマウス)が用いられました。

 

 

 

このマウスを標準的な餌で飼育したグループと高プーファ食(全体のカロリーの16%を占めるプーファ量)の餌を与えたグループに分け、それぞれの記憶力や脳内の炎症マーカーがどのように変化するかが比較されました。なお、この実験で用いられた餌は、次のようなものでした。

 

 

 

・通常飼料:カロリーが1g当たり3.0kcal、29%のカロリーがタンパク質、54%が炭水化物(甘味料無添加)、17%が脂質(0.9%が飽和脂肪酸、1.2%が一価不飽和脂肪酸、2.7%が多価不飽和脂肪酸

 

・高脂肪飼料:カロリーが1g当たり5.1kcal、18.4%のカロリーがタンパク質、21.3%が炭水化物(90g/kgスクロース、160g/kgマルトデキストリン)、60.3%が脂質(37%が飽和脂肪酸、47%が一価不飽和脂肪酸、16%が多価不飽和脂肪酸

 

 

 

高プーファ食の定義

高PUFA食とは、一般的に総エネルギー摂取量(カロリー)に占めるPUFA由来のエネルギー割合が、国際的な推奨上限値に近いか、それを超える食事パターンを指します。FAO/WHO(国連食糧農業機関/世界保健機関)の専門家委員会によると、成人におけるPUFAの推奨摂取量は総エネルギーの6〜11%(%E)の範囲とされています(https://www.fao.org/fileadmin/user_upload/nutrition/docs/requirements/fatsandfattacidsreport.pdf)。

 

この上限11%を’超えるプーファ摂取量を高PUFA食としています。

 

 

臨床研究では、PUFAの摂取割合が総エネルギーの5.84%以上の場合を「高PUFA群」と定義しています。

 

 

 

ちなみに、欧州の成人集団における平均的なPUFA摂取量は総エネルギーの4〜8%の範囲であり、アメリカの成人では、PUFAの摂取量は総エネルギーの約7%と報告されています。

 

 

これらのデータは20年前のものですから、世界的な不況の現在では、質の悪いプーファ加工食品が蔓延しているため、もっとPUFAの摂取量が高くなっているでしょう。

 

 

参考文献

・Higher Intake of PUFAs Is Associated with Lower Total and Visceral Adiposity and Higher Lean Mass in a Racially Diverse Sample of Children. J Nutr. 2015 Sep;145(9):2146-52.

 

・Scientific Opinion on Dietary Reference Values for fats, including saturated fatty acids, polyunsaturated fatty acids, monounsaturated fatty acids, trans fatty acids, and cholesterol. EFSA Journal 2010; 8(3):1461

 

・Polyunsaturated fatty acids in the food chain in the United States. Am J Clin Nutr 2000;71(suppl):179S–88S.

 

 

 

「消える記憶、壊れる脳」~たった3日間で起きた悲劇~

そして実験は、たったの3日間で驚くべき結果をもたらしました。

 

 

 

わずか3日間の高プーファ食で、マウスたちの脳に何が起きたのでしょうか?結果は科学者をも震撼させるものでした。

 

 

 

高脂肪食を与えられたマウスは、記憶力が明らかに低下。さらに脳内では炎症マーカーが急増し、最も恐ろしいことに、神経細胞間の情報伝達を担う「シナプス」の数が減少していたのです!

 

 

まるでSF映画のような恐ろしい光景が脳内で繰り広げられていました。脳内の清掃係「ミクログリア」と呼ばれる細胞が、突然暴走。本来なら保護すべきシナプスを「不要物」と誤認識し、貪欲に食い尽くしていたのです。

 

 

 

「補体系」と呼ばれる免疫タンパク質が、シナプスに異常に付着。これが「このシナプスは排除せよ」という誤ったシグナルとなり、ミクログリアが健康なシナプスを次々と破壊していったのです。

 

 

太る前に、脳が壊れる

さらに驚くべきことに、このわずか3日間の高脂肪食では体重の変化は見られませんでした。つまり、「太った」と自覚する前に、脳の中ではすでに異常が始まっていたのです。

 

 

 

このことは、体重増加などの外見的な変化よりも先に、脳が見えないかたちでダメージを受けている可能性を示しています。

 

 

ただし「人間にも当てはまる」とは限らない

もちろん、これはマウス実験であり、人間にそのまま当てはまるとは言えません。しかも、同じ実験を通常の健康なマウスで行ったところ、たった3日間の高脂肪食では記憶力の低下やシナプスの減少は見られませんでした。

 

 

 

それでも、脳に既にプーファやエストロゲン過剰で脆弱性がある現代人(認知症のリスクを抱えている)にとっては、短期間の乱れた食生活でも重大な影響がある可能性を示す、興味深い実験結果です。

 

 

 

参考文献

・Short-term high fat diet impairs memory, exacerbates the neuroimmune response, and evokes synaptic degradation via a complement-dependent mechanism in a mouse model of Alzheimer’s disease. Brain Behav Immun. 2024;121:56–69.

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