糖質制限では、「体重が落ちる」と喧伝する人が後を絶ちません。
糖質、炭水化物を摂取しないとどうなるでしょうか?
糖を必要とする臓器(実質は全臓器)は、備蓄されている糖を使うしかありません。
このとき、肝臓、腎臓そして筋肉の糖のストックであるグリコーゲンが使用されて、枯渇します。
この糖のストックであるグリコーゲン1gには水分3gが結合しています(Relationship between muscle water and glycogen recovery after prolonged exercise in the heat in humans. Eur J Appl Physiol. 2015 Sep;115(9):1919-26)(Segmental extracellular and intracellular water distribution and muscle glycogen after 72-h carbohydrate loading using spectroscopic techniques. J Appl Physiol (1985). 2016 Jul 1;121(1):205-11)。
したがって、グリコーゲンを使うことで、体内の水分が失われるのです。
糖質制限をした1週間に体重が少し落ちるのは、このグリコーゲン使用に伴う水分喪失に他なりません(体脂肪が落ちたのではない(^_−)−☆)。
ボディビルダーなどは、大会前1週間は炭水化物を摂らないという人がいます。
これも水分が少し抜けることで、体の輪郭がよくシャープに見えるようになるからです(体表の血管(静脈)が浮き上がって見える)。
しかし、その後に糖質制限を継続しても健康的な体重減少にはつながりません。
なぜでしょうか?
糖質制限をするとコルチゾール、エストロゲンなどストレスホルモンが上昇します(拙著『慢性病はメタボリック・スイッチにあった』に図表とエビデンスをご紹介しています)。
これらのストレスホルモンは、細胞内に水分を貯留する作用があるからです。
グリコーゲンの枯渇に伴う水分喪失は、今度は水分貯留のため体重が戻ることになります。
糖質制限で体重減少と喜んだのも束の間ということです。
現代人が浮腫んでいる傾向にあるのも、このストレスホルモンの上昇によるものです。
さらに、糖質制限では「メタボリック・スイッチ」を起こして、脂肪が燃焼されることで脂肪が減るものの、糖のエネルギー代謝が低下して肥満・慢性病につながる様々な弊害が出ます(拙著『慢性病はメタボリック・スイッチにあった』)。
そして、糖質制限を継続すると不健康な体重減少にシフトしていきます。
それは筋肉が分解されて失われていくことです(The Effect of an 8 Week Prescribed Exercise and Low-Carbohydrate Diet on Cardiorespiratory Fitness, Body Composition and Cardiometabolic Risk Factors in Obese Individuals: A Randomised Controlled Trial. Nutrients. 2020 Feb 14;12(2):482)。
筋肉は脂肪よりも重いために、筋肉が失われると体重減少が深刻になります。
したがって、糖質制限を長期に行うと、筋肉でできている心臓もダメージを受けます(突然死、心不全、致死的不整脈など)(Low-carbohydrate diets: what are the potential short- and long-term health implications? Asia Pac J Clin Nutr. 2003;12(4):396-404)(A Ketogenic Diet Improves Mitochondrial Biogenesis and Bioenergetics via the PGC1α-SIRT3-UCP2 Axis. Neurochem Res. 2019 Jan;44(1):22-37)。
健康的な体重減少は、糖のエネルギー代謝を高めることで、過剰かつ酸化しやすい脂肪(プーファ)を徐々に減らしていくことです。
一方の不健康な体重減少は、急激な脂肪減少(リポリシス)および癌や糖尿病の末期に認められる筋肉喪失によるものです。
筋肉の喪失が寿命を縮めることは過去記事でも繰り返しお伝えしてきました。
肥満傾向にある現代人が目指すものは、健康的な体重減少であって、糖質制限に認められる病的な体重減少ではありません(^_−)−☆。