2005年に出版されたキャンベル(T. Colin Campbell)の『チャイナ・スタディ(China study)』は、ベストセラーになった巷の健康本(サイエンスではありません)です。
私はこの本が話題になっていた当時、原書と翻訳書の両方を取り寄せて読みました(翻訳がしっかりできていないので、原書だけ読みました)。
しかし、その内容たるやフェクサイエンスの嵐で、『原始人食で病気は治る』を上梓した際にも、このことを、エビデンスを掲載いたしました。
とくに彼の例示した中国の疫学的調査の解釈や動物実験の数々は、読むに耐えられないものでした。
チャイナ・スタディは、フェイクサイエンスのデパートなので、ゲイツなどのテクノクラット(フェイクサイエンスで支配)のやり方がよく分かるようになるという意味で良い題材です。
しかし、改めてまだこのような古典的プロパガンダ本を信じている人が日本には多くいることを知って今回はさすがに愕然としました。
この本は、政府(とその背後は?)のお墨付きでキャンベルが、「動物性タンパク質は癌や慢性病の原因となる。植物性のタンパク質を摂るべきだ。」というのが主旨です(本当はゴイムは、植物性タンパク質だけを食べなさいということ(^_−)−☆)。
中国の疫学的調査のデータでは、植物性タンパク質が動物性タンパク質に優るというエビデンスは全く認められませんでした(Denise Mingerのreviewに詳述されています)。
さあ、彼は何をもって動物性タンパク質を悪者に仕立てあげようとしたのでしょうか?
彼が動物性タンパク質として目をつけたのが、乳製品の「カゼイン(casein)」です。
なぜなら、同じ乳製品のタンパク質であるホエイ(whey)には、当時でも強力な抗がん作用などの効果が知られていたからです(Anticancer Research, Nov-Dec, 1995; 15 (6B): 2643-2649)。
キャンベルは、インドの研究者が先行する動物実験で、カゼインが肝臓の前癌病変を増大させる可能性があるという結果を知って、それを再実験しました(Cancer Res. 1983 May;43(5):2150-4)。
この実験が不適切であることは、多数の論文で示されていますが、その概要をお知らせすると・・・・
アフラトキシン(カビ毒)を与えて肝臓に前がん病変を作ったラット(生まれて3週間目の赤ちゃんラット)に、5%と20%のカゼインを食餌として与える実験です。
その結果、20%カゼインを与えたグループの方が肝臓の病変が大きくなったという主張です。
この実験で、5%カゼインを与えたラットは大半が早々に死んでいきました。なぜなら、生後3週間目の赤ちゃんラットは最低でも18%以上のタンパク質がないと成長障害などの健康障害が出るからです。
この5%カゼインを与えたラットは、低タンパク質のためにアフラトキシンを肝臓でデトックスする酵素も減少し、肝臓にはストレスによるリポリシスで脂肪が蓄積しました。
キャンべルのその後の同じ実験でも、5%カゼインを与えたラットに20%カゼインを与えたラットと同じ量のアフラトキシンを投与することが出来ませんでした。
なぜなら、5%カゼイン給餌のラットでは、そのアフラトキシン量は致死量になり、死んでしまうからです(J Toxicol Environ Health. 1980;6(3):659-71)。
5%カゼインのような低タンパク質では、アフラトキシンだけなく、他の毒性物質のデトックス能力が低下することをキャンベル自身が発表しています(J Nutr. 1978 Apr;108(4):678-86s)(Fed Proc. 1976;35(13):2470-4)。
その後、キャンベルは、低タンパク質でも脂肪肝にならないラット(Fisher 344 rats)に変更して、同じ実験を行っています。
しかし、今度は彼の思惑を離れて、5%の低タンパク質では、アフラトキシンで死亡したり、深刻な悪影響が出る一方で、 20%カゼインでは、同じ量のアフラトキシンでも耐えることができました(Cancer Res. 1983;43(5):2150-4)(J Natl Cancer Inst. 1989;81:1241-5)(J Toxicol Environ Health. 1980;6(3):659-71)。
それにも関わらず、キャンベルは、5%カゼインの低タンパク質の方が、20%カゼインのタンパク質よりも健康状態が優れていると事実に反する発言を繰り返しました(J Nutr. 1991;121(9):1454-61)。
まだまだキャンベルの意図的な誘導はたくさんありますが、ここで、リアルサイエンスを確認しておきましょう。
キャンベルが動物性タンパク質の悪玉として目をつけたカゼイン。
現在では、ホエイと同じく強い抗がん作用,抗炎症作用があることが判明しています(Cell Cycle. 2012 Nov 1; 11(21): 3972–3982)(Int J Biochem Cell Biol. 2013 Aug;45(8):1730-47)(J Oncol. 2019; 2019: 8150967)。
動物実験においても、致死量のバクテリア(エンドトキシン)を与えても、カゼインを食餌に入れることで、サバイバルすることが分かっています(J Immunol. 2002 Jul 15; 169(2):913-9)。
カゼインは、骨髄に働いて造血作用を高めるため、形態形成維持に必要な白血球や赤血球を増員する働きがあります(Oncogene. 1989 May; 4(5):583-92)(J Nutr. 1992 Jul; 122(7):1376-83)。実際に体内のゴミ掃除をする白血球の貪食作用を高めます(Inflamm Res. 2012 Apr; 61(4):367-73)。
リアルサイエンスでは、動物性タンパク質の代表として使用されたカゼインは、むしろ健康の場を創る重要な栄養タンパク質です。
キャンベルは、御用学者として永遠に名を残すことでしょう。
本物のミルクがなぜ生命のフローを作り出すのかは、このミルクタンパク質だけでなく、ミネラル、ビタミンなどが総合して健康の場を創る栄養だからです(^_−)−☆。