痔(hemorrhoids)は加齢とともに男女ともによく見られる現象です。
子供や20歳以下の若年者には、ほとんど認められません(Gastroenterology. 1990 Feb; 98(2):380-6)。
つまり、痔は加齢病あるいは老化のサインということです。
それでは、なぜ老化に伴って痔が発生するのでしょうか?
痔の組織を調べると、血管の血栓、静脈の拡張、組織の線維化などが認められます(World J Gastroenterol. 2012 May 7; 18(17): 2009–2017)。
これはちょうど肝硬変で食道の静脈に発生する静脈瘤と同じ所見です。
まず肛門組織を栄養する細動脈、毛細血管が血栓症で閉塞していきます。
このことで、毛細血管の排出血管である静脈が拡張します。
さらに、血管からの酸素や栄養が途絶えると、肛門組織の糖のエネルギー代謝がよりブロックされて乳酸が蓄積してきます。
この乳酸は、新しい血管をたくさん作りますが、この新生血管は脆くて、リークしやすいので、血管周囲の組織がさらに腫れてきます。
静脈の拡張と新生血管のために、肛門粘膜が腫れて、排便のような物理的刺激によって容易に出血します。
それでは、そもそもなぜ肛門を栄養する血管に血栓ができるのでしょうか?
そのヒントとなる研究論文が報告されています。
それは、セロトニンというストレスホルモン(一般にはハッピーホルモンと誤解されている)をブロックすると痔の出血などの症状を軽減したという研究です(Clin Ther. 2012 Feb;34(2):329-40)。
この研究をベースにして、米国では現在、痔に対して抗セロトニン薬を投与する臨床実験を開始しています。
セロトニンは、エストロゲンと共同して血栓や組織の線維化をもたらすストレスホルモンです。
加齢とともに、プーファやエストロゲンが蓄積してきますが、この両者ともにセロトニンの合成を高めます。
つまり、セロトニンも加齢とともに蓄積してくるストレス物質なのです。
セロトニンは糖のエネルギー代謝をブロックするので、乳酸が蓄積して、体内の二酸化炭素が減少します。これによって、さらに血流が低下します(さらには、血小板から大量のセロトニンが放出されます)。
痔なんて硬化療法や手術したら簡単に治ると思ったら大間違いです(実際に再発率は高い)。
セロトニンが肛門の痔を作るということは、体内の他の組織を栄養する血管にも同じ作用を及ぼしているということです(さらには全身の細胞の糖のエネルギー代謝が低下している)。
痔は糖のエネルギー代謝が低下した全身病の部分兆候であり、“レッドフラッグ”のサインなのです(^_−)−☆。