2012年のコロラドで、子供を含む12人を銃殺した痛々しい事件がありました。
主犯は、当時24歳の大学院生で、映画バッドマンを夜のロードショー中に観客を射殺したことから、その非情さからも凶悪犯罪者として「バットマンキラー(The Batman Killer)」と騒がれました。
判決は、12回の終身刑と3,318年の終身刑でした。
この彼の幼少時からのストーリーをたまたま読む機会がありました。
彼は幼少時より内向的で社会性が低いタイプの人間だったようです。
大学院生になって、自分の性格の悩みをカウンセラーを通じて、精神科医に相談したところ、ゾロフト(sertraline)という脳内セロトニン濃度を高める抗うつ薬(SSRI)を投与されたのです。
するとしばらくして、彼の性格に由来する不安や心配が解消され、何も恐れるものがなくなるどころか、今まで他者にはなかった敵意を抱くようになりました(私が臨床的に経験しているのは、この種の抗うつ薬を服用すると、感情がフラットになっていきます)。
ただ、問題は、「人類はいなくなった方が良い」という妄想が膨らんでいたのです。
そこで、精神科医はその薬を倍増しました。
彼は、しばらくその倍増された薬を飲んでから、妄想などの精神状態が悪化したため、急に服薬を中止したようです。
その後、今まで興味もなかった銃を買い求め、髪の毛も赤に染めて、奇怪な行動をとるようになります。
そして運命の日・・・・・
ちょうど医師が最後の処方をしてから24日目のことでした。
実は、この種の抗うつ薬を急に止めると、さらに精神症状が悪化する「離脱症候群(withdrawal syndrome)」が起こります。
だいたい2週間〜1ヶ月ほど離脱の期間に激しい精神症状の悪化があります。人によっては2ヶ月も続く場合もあります。
ステロイドなどの免疫抑制剤も同じですが、急に中止すると激烈な症状の悪化が1ヶ月は認められます。
敵意や攻撃性といった反社会性特質(および犯罪性:antisocial personality)は、脳内セロトニンの上昇であることはサイエンスの世界でも確かめられています(BMC Proc. 2015; 9(Suppl 1): A49)。
もちろん、ビッグファーマのファイザーは、自社のゾロフト製品と他殺の関係を否定しています。
急に症状を抑制するという行為が、結果的にさらに病態を悪化させるたけでなく、必ず重大な副作用をもたらすのです。
全ての事に共通しますが、短期的な症状(物事)の解決、いわゆるゴマカシや先送りは、後で取り返しのつかない事態を招きます。
この記事を読んで、改めて医薬品(あるいは劇薬物質)の恐ろしさを私自身も再確認しました。