『「砂糖中毒」神話の崩壊』
― 甘いものを食べても甘党にはならない驚きの真実―
⭐️常識を覆す6ヶ月間の実験
甘いケーキを食べ続けていると、さらに甘いものが欲しくなってしまう――これは多くの人が信じこまされている一般健康ポップカルチャーの「常識」です。
まるで麻薬のような中毒性があるかのように、甘味への慣れが甘党体質を作り上げると吹聴されてきました。
しかし、オランダのワゲニンゲン大学で実施された画期的な研究が、この常識を根本から覆しました[1]。6ヶ月という長期間にわたる厳密な実験により、私たちの「砂糖中毒神話」は完全に否定されたのです。
この革命的な発見は、現代の栄養学そのものを見直すきっかけとなるでしょう。
⭐️180人が参加した史上最大規模の甘味実験
この研究の規模と厳密さは、これまでの類似研究を大きく上回るものでした。約180人の参加者を3つのグループに分け、6ヶ月間にわたって異なる甘味レベルの食事を摂取してもらいました:
・高甘味グループ:甘い食品を多く含む食事
・低甘味グループ:甘い食品を制限した食事
・混合甘味グループ:甘い食品と甘くない食品の混合
研究チームは、参加者の1日の食事の約半分を2週間ごとに提供し、厳格な栄養バランスを保ちながら実験を継続しました。
これは「部分食事提供法」と呼ばれる先進的な手法で、従来の研究よりもはるかに現実的な条件での検証を可能にしています。
⭐️予想外の結果? ― 甘いものを食べても甘党にならない
6ヶ月後の結果は、研究者たちの予想を大きく裏切るものでした:
・甘味への好みは変化しない
・どのグループも、甘味への好みに全く変化が見られませんでした。高甘味グループの参加者が甘いものを特に好むようになることもなく、低甘味グループが甘いものを避けるようになることもありませんでした。
さらに驚くべきことに、甘味摂取量の違いは総エネルギー摂取量や体重変化にも影響を与えませんでした。甘いものが過食や肥満の直接的原因ではないことが明確に示されたのです。
⭐️健康指標も変わらず
さらに血糖値、インスリン、コレステロールなど、糖尿病や心血管疾患のリスクを示すバイオマーカーにも有意な変化は認められませんでした。
最も興味深い発見の一つは、実験終了後に起こった「自然回帰現象」です。介入を止めると、参加者は1ヶ月以内に自然と元の甘味摂取量に戻りました。これは、私たちの味覚システムが生物学的恒常性によって厳密にコントロールされていることを示しています。
まるで体温が一定に保たれるように、甘味への好みも生得的なセットポイントが存在し、外部からの介入に対して強い復元力を持っているのです。
⭐️従来の研究の限界と新たな視点
・短期研究の落とし穴
過去の多くの研究は、1日から数週間という短期間のものでした[2]。これらの研究では確かに一時的な変化が観察されることがありましたが、それは「感覚特異的飽和」という現象によるものだったのです。
感覚特異的飽和とは、同じ味を繰り返し摂取すると一時的にその味への関心が薄れる現象です。例えば、チョコレートを1週間毎日食べ続けると、その期間中はチョコレートの魅力が薄れます。しかし、これは根本的な味覚の変化ではなく、一時的な適応に過ぎません。
⭐️システマティックレビューが明かす真実
アメリカ臨床栄養学会誌に発表されたシステマティックレビューも、同様の結論を支持しています[3]。21の研究を包括的に分析した結果、「甘味への曝露が甘味への好みを高める」という仮説を支持する一貫した証拠は存在しないことが明らかになりました。
研究の主執筆者であるケース・デ・グラフ博士(ワゲニンゲン大学人間栄養学・健康部門の感覚科学と食事行動学のエメリタス教授)は次のように述べています:
「多くの人が甘い食品がエネルギー摂取量を増やすと信じていますが、私たちの研究では、甘味そのものが過剰なカロリー摂取の原因ではないことが示されました。」
⭐️甘味の生物学 ― なぜ私たちは甘いものが好きなのか
進化的適応としての甘味嗜好
甘味への生得的な好みは、数百万年の進化の産物です。自然界において、甘い味は安全で栄養価の高い食べ物の指標でした。果実の糖分は即座にエネルギーとなり、生存に不可欠だったのです。
この進化的プログラムは現代でも変わらず機能しており、甘味への好みは遺伝的に決定される部分が大きいことが知られています[4]。
⭐️味覚受容体の個人差
人それぞれ甘味への感受性が異なります。これは「甘味愛好者タイプ」の分類にも反映されています:
・甘味愛好者:高い甘味濃度を好む
・逆U字型:中程度の甘味を最も好む
・甘味嫌悪者:低い甘味濃度を好む
重要なのは、これらのタイプが食事によって変化することはほとんどないということです。
⭐️糖質制限ブームの崩壊
近年の糖質制限ブームの背景には、「糖質が中毒性を持ち、摂取するほど欲求が高まる」という考えがありました。しかし、今回の研究はこの仮説を明確に否定しています。
甘味摂取量を人為的に操作しても、甘味への渇望や摂食行動に変化は見られませんでした。これは、糖質や甘味そのものに依存性がないことを示す強力な証拠です。
「甘いものを食べると、さらに甘いものが欲しくなる」という俗説も、科学的根拠がないことが判明しました。実際には、甘味摂取量と甘味への欲求の間に因果関係は存在しないのです。
⭐️肥満と甘味の関係の再考
・甘味と体重増加の誤った関連付け
これまで肥満の原因として甘い食品が槍玉に挙げられてきましたが、今回の研究では甘味摂取量と体重変化に関連性は見られませんでした。
肥満の真の原因は、甘味そのものではなく、基礎代謝の低下にあります。とくに調理や加工食品で使用されるプーファ(PUFA)は、砂糖より高カロリーであるというだけでなく基礎代謝を低下させて、肥満の原因となります。
⭐️人工甘味料の嘘
人工甘味料について「甘味への渇望を増加させる」という懸念がありましたが、この研究結果はそうした懸念の根拠が薄弱であることを示唆しています[5]。甘味そのものが食欲や摂食行動を直接的に操作することはないからです。
現時点での証拠は、人工甘味料を用いて過度に甘い食品を制限する必要はないことを示しています。
⭐️糖質制限政策の見直し
世界保健機関(WHO)をはじめとする公衆衛生機関は、甘い食品への曝露を減らすことで甘味への適応を促すという誤った仮説に基づいた政策を推進してきました[6]。
しかし、今回の研究結果は、そうした政策の科学的根拠が不十分であることを明確に示しています。甘味制限によって甘味への好みを変化させることはできないため、より現実的で持続可能なアプローチが必要です。
権力者が吹聴してきた従来の「甘いものは悪」という単純な二元論から脱却し、自然・生命現象の基本的な成り立ちを重視した食育が求められます。糖質こそは、人類を支えてきた最もクリーンなエネルギー源なのです。
甘いものを恐れる必要はありません。恐るれるべきは、その甘さが人工的なものかどうかだけです。人工的な甘みは、ブドウ糖果糖液糖(HFCS)や人工甘味料などのことです。
重要なのは、身体が本来持っている味覚の恒常性を信頼し、自然な食欲に従うことなのです。
今回の研究での発見は、私たちの食に対する根本的な考え方を変える可能性を秘めています。古代から受け継がれた身体の叡智を信頼し、権力者やそれに追随する人間たちが吹聴する“洗脳”から解放されることで、より自然で健康的な食生活を送ることができるでしょう。
参考文献
Čad, E. M., Tang, C. S., De Jong, H. B. T., Mars, M., & De Graaf, C. (2023). The Sweet tooth study, randomized controlled trial with partial food provision on the effect of low, regular and high dietary sweetness exposure on sweetness preferences and biomarkers related to glucose metabolism and low-grade inflammation: study protocol. BMC Public Health, 23(1), 1-15. ↩︎
Appleton, K. M., Tuorila, H., Bertenshaw, E. J., de Graaf, C., & Mela, D. J. (2018). Sweet taste exposure and the subsequent acceptance and preference for sweet taste in the diet: systematic review of the published literature. American Journal of Clinical Nutrition, 107(3), 405-419.
Mela, D. J., & Risso, D. (2024). Does sweetness exposure drive ‘sweet tooth’? British Journal of Nutrition, 131(8), 1476-1485.
Keskitalo, K., Knaapila, A., Kallela, M., Palotie, A., Wessman, M., Sammalisto, S., … & Perola, M. (2007). Sweet taste preferences are partly genetically determined: identification of a trait locus on chromosome 16. American Journal of Clinical Nutrition, 86(1), 55-63.
Ebbeling, C. B., Feldman, H. A., Steltz, S. K., Quinn, N. L., Robinson, L. M., & Ludwig, D. S. (2020). Effects of sugar-sweetened, artificially sweetened, and unsweetened beverages on cardiometabolic risk factors, body composition, and sweet taste preference: a randomized controlled trial. Journal of the American Heart Association, 9(15), e015668.
World Health Organization. (2015). Guideline: sugars intake for adults and children. World Health Organization.