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『セロトニンは組織を硬くする』

『セロトニンは組織を硬くする』

加齢とともに体だけでなく、こころも硬くなるー

 

実際に加齢(および糖のエネルギー代謝低下)とともに体のあらゆる組織が硬くなって、機能が低下していきます。

 

さて、セロトニンと聞くと、多くの方は「幸せホルモン」というキャッチフレーズを思い浮かべるのではないでしょうか。気分を明るくし、睡眠を整え、腸の動きを助ける――そんな穏やかなイメージがすっかり定着しています。ところがその真逆の結果が最新の研究でも明らかになっています。

 

それは、体内のあちこちで組織を硬くする作用です。これをセロトニンの線維化作用と呼びます。進行すれば臓器は本来の柔軟性を失い、機能不全に陥り、時には癌化への地ならしまで担ってしまうことが分かってきました(1)(2)。

 

⭐️心臓弁という「一方通行の扉」に起こる異変

まず心臓の話から始めます。心臓の左心房と左心室のあいだには、僧帽弁と呼ばれる薄い扉が備え付けられています。この扉は、肺から戻ってきた酸素豊富な血液が全身へ送り出される瞬間、ぴしゃりと閉じる一方通行の関所として働いています。

 

ところが加齢や体質によってこの扉が伸びたり厚ぼったくなったりしますと、完全に閉じきれず、血液が逆流してしまう「変性性僧帽弁閉鎖不全症(DMR)」という状態が生じます。この状態が進みますと、肺のほうへ圧が跳ね返り、全身への酸素供給が細り、心臓は無理な残業を強いられ続けることになります。やがて心房細動や心不全という致命的な合併症へと雪崩れ込んでいきます。

 

この心臓の弁を硬化させて不能になるのに、セロトニンが深く関わっているという報告がすでになされています(3)。9000人を超える患者さんの臨床データと100個の弁組織サンプルを解析し、抗うつ薬として広く処方されているSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)を服用していた「変性性僧帽弁閉鎖不全症(DMR)」患者さん(セロトニン濃度が高い)は、服用していない患者さんよりも若い年齢で手術を必要とする傾向があると突き止められました(3)。

 

SSRIというのは、フルオキセチン(プロザック)やセルトラリン(ゾロフト)に代表される薬で、セロトニン濃度を高めます。セロトニンは心臓弁の細胞にダメージを与えて、その結果としてコラーゲンの過剰産生を促してしまいます。コラーゲンは本来、組織に強さと形を与える有益な繊維ですが、これが過剰に産生されると、心臓弁は硬く歪んでしまいます。

 

⭐️セロトニンによる線維化は心臓弁だけの物語ではない

セロトニンは、心臓弁だけでなく、心臓弁だけでなく他の臓器など他の臓器も線維化で硬くし、機能不能に陥れます(1) (2) (4) (5)。肝臓を硬くして機能低下すると肝硬変、肺を硬くして呼吸ができなくなるのが肺線維症。肺の血管が硬くなることで息切れが起こる肺高血圧症。いずれもセロトニン過剰で起こります(6) (7) (8)。

 

 

⭐️「大動脈弁」でも同じ物語が繰り返される

心不全の原因となる大動脈弁狭窄症という別の心臓弁疾患を持つ患者さんの血中セロトニン濃度が、健常者よりも有意に高いことが報告されています(9) (10) (11)。

⭐️線維化は「癌化」への静かな滑走路

そしてここからが本題です。セロトニンが組織を硬くするというだけならまだしも、この魔手はさらに深く、癌化のプロセスにまで手を伸ばしていることが分かってきました。線維化した組織というものは、単に「硬くて不便な組織」ではありません。慢性炎症、酸化ストレス、細胞外マトリックスの異常な蓄積が絡み合った「癌の温床」なのです。肝硬変から肝細胞癌へ、慢性膵炎から膵癌へ、肺線維症から肺癌へ――こうした「線維化から癌化へ」の道筋は臨床医学ではよく知られた王道です。

 

実際にセロトニンは、乳がん、大腸がんなどの癌を増殖させることも報告されています(12) (13) (14) (15) (16)。

セロトニンという物質は「幸せホルモン」ではなく、ストレスホルモンです(『世界一やさしい薬のやめ方』参照)。心身をいつまでも柔軟にするためには、セロトニン分泌が少ない方がよいのです。

参考文献
1. Serotonin paracrine signaling in tissue fibrosis. Biochimica et Biophysica Acta 2013, 1832, 905-910
2. Platelet-derived serotonin links vascular disease and tissue fibrosis. Journal of Experimental Medicine 2011, 208, 961-972
3. Decreased serotonin transporter activity in the mitral valve contributes to progression of degenerative mitral regurgitation. Science Translational Medicine 2023, 15, eadc9606
4. Serotonin transporter deficiency in mice results in an increased susceptibility to HTR2B-dependent pro-fibrotic mechanisms in the cardiac valves and left ventricular myocardium. Cardiovascular Pathology 2025, 74, 107689
5. Serotonin and systemic sclerosis. An emerging player in pathogenesis. Joint Bone Spine 2022, 89, 105309
6. A role for serotonin (5-HT) in hepatic stellate cell function and liver fibrosis. American Journal of Pathology 2006, 169, 861-876
7. Serotonin Exhibits Accelerated Bleomycin-Induced Pulmonary Fibrosis through TPH1 Knockout Mouse Experiments. Mediators of Inflammation 2018, 2018, 7967868
8. The serotonin hypothesis in pulmonary hypertension revisited. Pulmonary Circulation 2018, 8, 2045894018758801
9. Peripheral Serotonergic Activation in Severe Aortic Stenosis: A Biochemical Perspective. International Journal of Molecular Sciences 2025, 26, 10250
10. Serotonin transporter downregulation is associated with aortic stenosis, and early profibrotic remodeling is mitigated by pharmacological inhibition of HTR2B receptor. Frontiers in Cardiovascular Medicine 2026, 13, 1729078
11. Inhibition of the serotonin transporter and risk of heart valve disease: A systematic review and meta-analysis. European Journal of Pharmacology 2026, 1027, 178954
12. Serotonin and human cancer: A critical view. Biochimie 2019, 161, 46-50
13. Role of serotonin receptor signaling in cancer cells and anti-tumor immunity. Theranostics 2021, 11, 5296-5312
14. Serotonin promotes aggressive features in breast cancer cells by activating multiple 5-HT receptors and TPH1-mediated autocrine signaling. General and Comparative Endocrinology 2025, 368, 114735
15. Serotonin acts through YAP to promote cell proliferation: mechanism and implication in colorectal cancer progression. Cell Communication and Signaling 2023, 21, 75
16. Inhibition of HTR2B-mediated serotonin signaling in colorectal cancer suppresses tumor progression. Biomedicine and Pharmacotherapy 2024, 179, 117399

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