『足元に潜む見えない脅威——人工芝の正体』
世界中で政府が「炭素削減」を理由に地被植物や樹木を除去し除草剤を散布しています。芝生は人工芝に置き換えられ、野生生物に害を及ぼす場合でも野生植物は根絶されています。
私たちが何気なく歩いている公園やスポーツ施設の「人工芝(緑の絨毯)」が、実は環境と健康を脅かす静かな時限爆弾になっているとしたら、あなたはどう感じるでしょうか。
2024年、日本国内の135のNGO団体が一斉に声を上げました。その要求は明確です。人工芝の生産と流通を原則として禁止すべきだと、経済産業大臣、環境大臣、文部科学大臣に書簡を提出しました。
⭐️目に見えない汚染源——人工芝が放出し続けるプラスチック粒子
人工芝は一見すると、天然芝よりも管理が簡単で経済的に見えます。水やりも芝刈りも不要、一年中緑を保てる「夢の素材」として、学校の校庭から地域のスポーツ施設、さらには家庭の庭にまで急速に普及してきました。しかし、その便利さの裏側には、私たちの目には見えない深刻な問題が潜んでいます。

人工芝の正体は、ポリエチレンやポリプロピレンといった石油由来のプラスチック繊維です。これらは太陽の紫外線や風雨、人々の足による物理的な摩耗によって、日々少しずつ劣化していきます。その過程で放出されるのが、マイクロプラスチック(5ミリメートル以下のプラスチック片)、さらには目に見えないナノプラスチック(1マイクロメートル以下)です。
これは例えるなら、巨大な消しゴムを何千人もの人々が毎日こすり続けているようなもので、目には見えなくても確実に「削りカス」が発生し続けています。
欧州化学物質庁による2023年の推計では、人工芝のスポーツフィールドから放出されるマイクロプラスチックは、ヨーロッパ全体で年間約16,000トンに達するとされています(1)。これは、海洋プラスチック汚染の主要な陸上発生源の一つになっています。
人工芝から剥がれ落ちた微細なプラスチック粒子は、雨水とともに排水溝へ流れ込み、最終的には河川を経て海へと到達します。そこで海洋生物の体内に取り込まれ、食物連鎖を通じて濃縮されていきます。

2020年の研究では、人工芝フィールドの周辺土壌において、対照地域と比較して著しく高濃度のマイクロプラスチックが検出されました(2)。さらに、人工芝施設の近くを流れる河川の堆積物からも、人工芝に特有のポリマー組成を持つマイクロプラスチックが高頻度で見つかっています(3)。これらの知見は、人工芝が単なる「施設内の問題」ではなく、広範な環境汚染の発生源であることを示しています。
⭐️子どもたちの遊び場に潜む健康リスク
環境汚染だけではありません。人工芝は私たちの健康、特に子どもたちの健康に直接的な脅威をもたらす可能性があります。多くの学校や保育施設が「安全で清潔」という理由で人工芝を導入していますが、実際には逆説的な状況が生まれているのです。
人工芝には、その耐久性や柔軟性を高めるために、さまざまな化学添加物が使用されています。その中には、鉛、カドミウム、フタル酸エステル類、多環芳香族炭化水素(PAHs)といったエストロゲン作用(発がん)をもつ有害物質が含まれることが報告されています(4)。これらの物質は、プラスチックの劣化とともに環境中に放出され、子どもたちやペットが直接触れたり、吸い込んだりしています。
特に懸念されるのが、人工芝に使用されるゴムチップ(クッション材として敷き詰められる黒いゴム粒)です。これらは多くの場合、廃タイヤをリサイクルしたものですが、2017年の研究では、このゴムチップから発がん性が疑われる化学物質が検出されたことが報告されています(5)。
子どもたちやペットは遊びの中で転倒し、これらの粒子が口に入ったり、皮膚に直接触れたりします。また人工芝の上でプレーするスポーツ選手も同様です。
2019年のレビュー論文では、人工芝での運動と呼吸器系の問題との関連性が指摘されています(6)。高温の日には、人工芝の表面温度は天然芝よりもはるかに高くなり、化学物質の揮発が促進されます。その結果、子どもたちやアスリートが有害な蒸気を吸入するリスクが高まるのです。

⭐️ナノプラスチック——見えない侵入者の脅威
マイクロプラスチックよりもさらに小さく、そして潜在的により危険なのがナノプラスチックです。これらは細胞膜を通過できるほど微小で、血液を通じて全身を巡り、脳や臓器にまで到達します(7)。
2022年の画期的な研究では、人間の血液中からマイクロプラスチックが初めて検出されました(8)。さらに2024年には、胎盤組織からもマイクロ・ナノプラスチックが発見され、胎児への影響が現実のものとなりつつあります(9)。
これらのプラスチック粒子がどこから来るのか、すべてが解明されているわけではありませんが、人工芝のような日常的に接触する環境中の発生源が重要な役割を果たしていることは疑いありません。
動物実験では、ナノプラスチックが脳の炎症反応を引き起こし、神経発達に悪影響を及ぼす可能性が示されています(10)。また、免疫系の機能を低下させたり、内分泌系を攪乱したりする作用(いずれもエストロゲン作用)も報告されています(11)。
⭐️全国で加速する人工芝化——経済性の名の下で失われるもの
今回の書簡提出の背景には、全国各地で急速に進む人工芝化への強い危機感があります。自治体や学校は、維持管理費の削減や利用可能時間の拡大を理由に、次々と天然芝や土のグラウンドを人工芝に置き換えています。一見すると合理的な選択に思えますが、それは「見える費用」だけを考慮し、「見えない代償」を無視した判断なのです。
天然芝は確かに手間がかかります。水やり、芝刈り、肥料、補植——これらにはコストと労力が必要です。しかし天然芝は同時に、都市のヒートアイランド現象を緩和します。
土壌中の微生物生態系を維持し、雨水を自然に浸透させ、地下水を涵養します。子どもたちは本物の自然と触れ合い、季節の移り変わりを感じることができます。これらは経済的な数値には表れませんが、私たちの環境と健康にとって計り知れない価値があります。

一方、人工芝は初期投資こそかかりますが、その後の維持費が安いとされます。しかし、その「安さ」は、環境汚染の浄化費用、健康被害への医療費、そして将来世代への負債を計算に入れていません。いわば、ツケを未来に回しているだけなのです。
さらに、人工芝には寿命があり、10年から15年程度で全面交換が必要になります。その際の廃棄物処理も大きな環境負荷となります(12)。
⭐️世界が動き始めた——プラスチック汚染への包括的対応
国際的には、マイクロプラスチック汚染への対策が本格化しています。欧州連合では、2023年に人工芝を含む意図的に添加されたマイクロプラスチックの使用制限に関する規制が採択されました(13)。これは、化粧品のマイクロビーズ禁止に続く、包括的なマイクロプラスチック規制の一環です。人工芝についても、マイクロプラスチックの流出を防ぐための技術基準が段階的に導入されることになっています。
また、2024年には国連環境計画主導で、プラスチック汚染に関する法的拘束力のある国際条約の策定交渉が進んでいます(14)。この枠組みの中で、マイクロプラスチックの主要発生源への対策が重要な論点となっています。人工芝は、タイヤの摩耗粉塵や洗濯による繊維の流出とともに、優先的に対処すべき発生源として認識されているのです。
アメリカでは、2021年にカリフォルニア州が人工芝の安全性に関する包括的な調査を開始し、特にゴムチップに含まれる有害物質についての規制強化を検討しています(15)。オランダでは、2020年から人工芝施設へのゴムチップ使用が実質的に制限されており、代替材料への移行が進んでいます(16)。
⭐️今、私たちにできること——未来への責任
また、子どもたちが人工芝で遊んだ後は、手や顔をよく洗うこと、人工芝の上で飲食をできるだけ避けることなど、日常的な注意も重要です。
人工芝の問題を指摘すると、必ず「では代わりにどうするのか」という疑問が投げかけられます。天然芝の維持管理も大変であり、地球全体からすれば不自然な行為です。
草が生えて困るのであれば、やはり面倒でもこまめに草刈りして維持するのが自然です。草刈りも草を引き抜くのではなく、藪化しないように伸びたものを刈る程度でよいのです。それなら労力と時間を最小限にすることができるだけでなく、土壌は豊かになります。
グリホサートなどの除草剤や農薬などで汚染されていない土壌というのが大前提ですが、なるべく土と泥だらけになって遊ぶことは、私たちのエネルギーのフローの循環にとって大きなプラスになります。私たちが自然と触れ合い、生態系の一部であることを実感する貴重な機会でもあります。

人工芝の問題は、現代社会が直面する環境課題の縮図です。便利さと引き換えに失われるものは、私たち生命体の命だけでなく、地球全体の環境です。私たちの選択は、次世代に何を残すかを決定します。プラスチックに覆われた不毛な大地ではなく、生命力溢れる緑の大地を、子どもたちに手渡すために。
参考文献
- European Chemicals Agency. Annex XV Restriction Report: Proposal for a restriction on intentionally added microplastics. ECHA, 2019.
- Leads RR, Weinstein JE. Occurrence of tire wear particles and other microplastics within the tributaries of the Charleston Harbor Estuary, South Carolina, USA. Mar Pollut Bull. 2019;145:569-582.
- Kole PJ, Löhr AJ, Van Belleghem FGAJ, Ragas AMJ. Wear and tear of tyres: a stealthy source of microplastics in the environment. Int J Environ Res Public Health. 2017;14(10):1265.
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- Verschoor AJ, de Valk E. Potential measures against microplastic emissions to water. RIVM Report 2017-0193. National Institute for Public Health and the Environment, Netherlands, 2017.
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