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『世界の流れに逆行する日本でのグリホサート規制』

 

『世界の流れに逆行する日本でのグリホサート規制』

 

世界中でグリホサートの危険性が議論され、使用制限や禁止に向かう国々が増える中、日本の規制状況は驚くべき方向を辿っています。それは、規制強化ではなく、規制「緩和」という、国際的な潮流に真っ向から逆行する道でした。

 

 

 

⭐️日本では使用禁止も販売規制もなし

 

2025年現在、日本国内ではグリホサートの使用禁止や販売規制は一切行われていません。内閣府食品安全委員会をはじめ、農林水産省、厚生労働省、環境省など複数の公的機関が、グリホサートの安全性を科学的に確認しているという立場を維持しています。

 

 

 

商品名「ラウンドアップ」として、ホームセンターや農業資材店で広く販売され、農業、園芸、公園管理などで日常的に使用されています。

 

 

グリホサートは1980年に日本で農薬登録されて以来、その使用量は増加し続けています。2002年からは、日産化学が販売権を譲り受け、農業用のほか、家庭用として「ラウンドアップ・マックスロードシリーズ」をホームセンターなどで販売しています。

 

 

⭐️2017年の衝撃的な基準値緩和

 

日本の規制において最も問題視されているのが、2017年12月25日に実施されたグリホサートの残留基準値の大幅な緩和です(1)。この緩和は、世界各国がグリホサートの使用制限に向かう中で行われたため、「世界の流れに逆行する」として、国内外の市民団体や研究者から激しい批判を浴びました。

 

 

 

 

具体的な基準値の変更を見ると、その緩和の度合いは驚異的です。

 

 

 

小麦は従来の5 ppmから30 ppmへと6倍に、ライ麦は0.2 ppmから30 ppmへと実に150倍に、そばは0.2 ppmから30 ppmへと150倍に、ひまわりの種子は0.1 ppmから40 ppmへと400倍に、トウモロコシは1 ppmから5 ppmへと5倍に、綿実は10 ppmから40 ppmへと4倍に、甜菜(てんさい)は0.2 ppmから15 ppmへと75倍に、小豆類は0.2 ppmから10 ppmへと50倍に引き上げられました(1,2)。

 

 

2021年12月17日には、ハチミツのグリホサート残留基準値も、一律基準の0.01 ppmから0.05 ppmへと5倍に緩和されています(3)。

 

 

 

⭐️なぜ基準値を緩和したのか

 

厚生労働省や農林水産省は、この基準値緩和について、「国際基準に合わせるため」と説明しています。日本は小麦の約90パーセントを米国、カナダ、オーストラリアなどから輸入しており、これらの輸出国では国際基準(コーデックス委員会の基準値)の30 ppmでグリホサートの使用を管理しています。

 

 

 

日本の基準が5 ppmのままでは、輸入小麦の多くが基準値超過となり、「全部輸入禁止」になってしまう可能性があるため、国際基準に合わせざるを得なかったというのが政府の論理です。

 

 

 

しかし、この説明には大きな問題があります。基準値緩和の真の理由は、科学的な安全性の再評価ではなく、米国などの主権国家に強制された貿易上の必要性だったということです。

 

 

食品の安全性、つまり日本国民の命よりも米国の命令に従うこと(それによる官僚・政治家の保身)が常に優先されていることがよく分かる事例です。

 

 

 

⭐️輸入小麦のグリホサート汚染

 

日本が基準値を緩和せざるを得なかった背景には、輸入小麦の深刻なグリホサート汚染があります。農林水産省が2013年から2017年に実施した調査では、米国産およびカナダ産小麦の90パーセント以上からグリホサートが検出されたという報告があります(4,5)。

 

 

 

この高い検出率の原因は、「プレハーベスト処理」と呼ばれる農業実践にあります。これは、収穫の直前に畑に実っている小麦にグリホサートを散布し、強制的に枯らして乾燥させることで、収穫作業の効率化や収穫時期の調整を図る恐ろしい手法です。

 

 

カナダ、オーストラリア、米国などでは、このプレハーベスト処理が恒常化していると報告されています(4,5,6)。

 

 

 

プレハーベスト処理によって、小麦粒自体にグリホサートが残留します。農民連食品分析センターが実施した日本市場の小麦製品の調査では、輸入小麦を使用した全粒粉から1.10 ppmという高濃度のグリホサートが検出されています(3)。

 

 

 

市販の食パンからも0.05 ppmから0.23 ppm、パスタやマカロニからも0.07 ppmから0.11 ppmのグリホサートが検出されました(3)。全粒粉入りの食パンは、皮付きの小麦を使用するため、他の製品と比べてグリホサート残留が特に高い傾向にあります。

 

 

 

一方、国産小麦を使用した食パンからは、グリホサートは検出されませんでした(3)。日本では、プレハーベスト処理は小麦栽培において認められていないため、国産小麦はグリホサートに汚染されていないのです。ただし、小麦畑にグリホサートを使用している場合はその限りではありません。

 

 

 

⭐️一日摂取許容量(ADI)の設定

 

日本の内閣府食品安全委員会は、グリホサートの一日摂取許容量(ADI:Acceptable Daily Intake)を体重1キログラムあたり1ミリグラムと設定しています(7)。ADIとは、人がある物質を毎日一生涯にわたって摂取し続けても、健康への悪影響がないと推定される一日当たりの摂取量のことです。

 

 

 

例えば、体重50キログラムの人であれば、1日あたり50ミリグラムのグリホサートを毎日一生涯摂取し続けても健康に影響はないという計算になります。食品安全委員会は2016年7月に、グリホサートには神経毒性、発がん性、繁殖能力に対する影響、催奇性(胎児の奇形を引き起こす性質)、遺伝毒性のいずれも認められないと結論づけています(8)。

 

 

 

しかし、この結論は2025年に撤回されたウィリアムズらのレビュー論文に大きく依存していた可能性があります。また、独立した研究者による2024年および2025年の研究は、ADIレベルの曝露でも発がん性が認められることを報告しており、日本の安全性評価の科学的基盤は大きく揺らいでいます(17,18)。

 

 

⭐️環境規制と水質基準

 

日本では、環境分野において水質汚濁に係る登録保留基準値が2.66 mg/Lと設定されています(3)。水道法では、水道水中のグリホサートとその代謝物アミノメチルリン酸(AMPA)を合わせた目標値が2 mg/Lに設定されています(3)。ただし、これは法的な基準値ではなく「目標値」であり、強制力ありません。

 

 

 

実際の環境中濃度は、これらの目標値よりはるかに低いレベルです。環境省の全国調査(2001年から2003年)では、河川水中で最高濃度2マイクログラム/L(0.002 mg/L)、湖沼水では最高濃度0.3マイクログラム/L(0.0003 mg/L)のグリホサートが検出されています(3)。ただし、この調査は20年以上前のものであり、その後グリホサートの使用量は増加し続けているため、現在の汚染状況はより深刻である可能性があります。

 

 

 

グリホサートは水溶解度が高く水溶性の農薬であるため、農耕地から河川へ流出しやすい性質を持っており、散布直後には一時的により高い濃度になることが報告されています(3)。

 

 

 

⭐️地方自治体レベルでの動きも限定的

 

国レベルでの規制がほとんどない中、一部の地方自治体では、公園、道路、学校などの公共施設でのグリホサート使用に歯止めをかけようとする動きが生まれています(9,10)。

 

 

 

名古屋市は1992年(平成4年)から、公園などの公共施設では除草剤の使用を原則禁止しています(10)。福岡県宇美町でも、行政でのグリホサートの使用を中止しています(10)。これらの自治体は、子どもたちが日常的に触れる場所での化学物質曝露を避けるという予防原則に基づいた判断を下しています。

 

 

 

しかし、こうした自治体の動きは全国的には広がっておらず、多くの地域では今でも公園や学校、道路際でグリホサートが使用されている可能性があります(11)。

 

 

 

米国のカリフォルニア州では、州政府が2017年にグリホサートを州の「発がん性物質リスト」に掲載したことを受けて、州内の複数の都市が公園・学校など自治体が所有する場所でのグリホサートの使用を禁止する条例を制定しました(3)。日本でも同様の動きが広がることが期待されますが、現状では限定的です。

 

 

 

⭐️市民団体の反対運動

 

日本国内では、複数の市民団体がグリホサートの規制強化や使用禁止を求める活動を展開しています(12,13)。日本消費者連盟、遺伝子組み換え食品いらない!キャンペーン、食の安全・監視市民委員会などの団体が、グリホサート残留小麦を使わないよう食品企業に要請したり、残留基準値緩和に対するパブリックコメントを提出したり、検査結果を公表するなどの活動を行っています。

 

 

 

農民連食品分析センターは、市販の食品中のグリホサート残留を独自に検査し、その結果を公表することで、消費者に情報を提供しています(3,14)。こうした市民団体の活動は、政府の政策に対する監視と批判の役割を果たしていますが、残念ながら政策変更に結びつくには至っていません。

 

 

 

⭐️ 日本の規制の問題点

 

日本のグリホサート規制には、いくつかの根本的な問題点があります。

 

 

 

第一に、規制の方向性が科学的証拠よりも属国の政策に基づいていることです。2017年の残留基準値緩和は、国内外の独立した科学研究が示すリスクではなく、輸入圧力に基づいて行われました。

 

 

 

第二に、規制の根拠となる安全性評価が、業界提供の研究に過度に依存している可能性があることです。米国EPAの評価が、後に撤回されたゴーストライティング論文に依存していたように、日本の評価も同様の問題を抱えています。

 

 

 

第三に、予防原則が適用されていないことです。欧州の一部の国では、確実な証拠が確立される前でも、「疑わしきは使用せず」という予防原則に基づいて規制が強化されています。しかし日本では、「確実な危険性が証明されるまでは使用を認める」という姿勢が維持されています。

 

 

 

第四に、国民への情報提供が不十分であることです。多くの消費者は、日常的に食べているパンやパスタに、世界的に発がん性が議論されている化学物質が残留していることを知りません。

 

 

日本が今後、国民の健康を真に優先した規制体系を構築できるかどうかは、科学的証拠への真摯な向き合い方、予防原則の適用、そして何よりも、米国から独立した主権国家になるという政治的意志にかかっています。

 

 

日本の官僚や政治家は、いつまでも国民の命を犠牲して自分たちだけが延命することはできません。日本を破壊し尽くした結果は必ず自分たちにも及ぶからです。世界が規制強化に向かう中、日本だけが緩和の道を歩み続けることは、もはや正当化できない状況になりつつあります。

 

 

参考文献

 

  1. 伏脇裕一. 除草剤グリホサートの環境及び食品汚染の現状と安全性. 日本食品化学学会誌. 2022;61(2):89-94.

 

  1. 厚生労働省. 食品、添加物等の規格基準の一部を改正する件について. 2017年12月25日.

 

  1. 伏脇裕一. 除草剤グリホサートの環境及び食品汚染の現状と安全性. 日本食品化学学会誌. 2022;61(2):89-94. https://www.jstage.jst.go.jp/article/safety/61/2/61_89/_pdf

 

  1. 農民連食品分析センター. 小麦製品のグリホサート残留調査1st. 2020年4月20日. https://earlybirds.ddo.jp/bunseki/report/agr/glyphosate/wheat_flour_1st/index.html

 

  1. 農民連新聞. 輸入小麦の製品から残留除草剤グリホサート検出. 2019年2月18日. https://www.nouminren.ne.jp/old/shinbun/201902/2019021801.htm

 

  1. 遺伝子組み換え食品いらない!キャンペーン. 小麦粉のグリホサート残留検査結果. https://www.gmo-iranai.org/?p=2396

 

  1. 内閣府食品安全委員会. グリホサート農薬評価書. 2016年7月.

 

  1. 日本パン工業会. 残留農薬(グリホサート)に関するパンの安全性について. https://www.pankougyokai.or.jp/information/glyphosate.html

 

  1. 西日本新聞労働組合. 2019年9月号「危険なグリホサート 検査して禁止させよう」. 2019年9月26日. https://nishoren.net/tokushu/11663

 

  1. 宇治市. グリホサートを主成分とする除草剤の公共エリアでの使用中止を求める請願. https://www.city.uji.kyoto.jp/uploaded/attachment/6750.pdf

 

  1. 南九州新聞. 各国で販売禁止のラウンドアップ、なぜ日本では店頭に. 2024年1月24日. https://weboosumi.com/article.php?id=8895571592

 

  1. NPO法人食品安全グローバルネットワーク. 日本・世界の反グリホサート運動の真相. https://www.nposfss.com/data/risc2021_02_asakawa.pdf

 

  1. 日本消費者連盟. ブックレット「グリホサート~身近な除草剤にひそむ危険」. 2020年10月19日. https://nishoren.net/new-information/13654

 

  1. 農民連食品分析センター. 小麦製品のグリホサート残留調査. https://earlybirds.ddo.jp/bunseki/report/agr/glyphosate/

 

  1. 農民連新聞. グリホサートの規制・禁止は世界の流れ(3/4). 2020年8月10日. https://www.nouminren.ne.jp/old/shinbun/202008/2020081010.htm

 

  1. 遺伝子組み換え食品いらない!キャンペーン. 要請書「グリホサート残留小麦を使わないでください」. 2021年1月3日. https://www.gmo-iranai.org/?p=2387

 

  1. Galli C, Brunetti G, Lozano VL, et al. A comprehensive overview of human health effects associated with glyphosate exposure. Front Toxicol. 2024;6:1474792. DOI: 10.3389/ftox.2024.1474792

 

  1. Panzacchi S, Gnudi F, Mandrioli D, et al. Carcinogenic effects of glyphosate and glyphosate-based herbicides in Sprague-Dawley rats following prenatal and lifelong exposure at environmentally relevant doses. Environ Health. 2025;24:36. DOI: 10.1186/s12940-025-01187-2

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