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『衣類に潜む見えない危険:ホルムアルデヒドが引き起こす健康リスクの全貌』

 

 

 

 

みなさんは、新しい服を買った時、すぐにそれを洗濯していますか。もしその答えが「いいえ」なら、あなたは知らず知らずのうちに有害化学物質に曝露されているかもしれません。私もその一人でした。

 

 

 

衣類という最も身近な日用品が、実は深刻な健康被害の温床となっている可能性があるのです。まるで新築の家がシックハウス症候群を引き起こすように、新品の衣類もまた、子どもたちの健康を脅かす化学物質の発生源となり得ます。

 

 

 

⭐️衣類に潜む化学物質の正体

 

2022年に発表されたレビュー論文では、繊維製品からのホルムアルデヒド曝露による健康リスクが詳細に検討されています(1)。ホルムアルデヒドは無色で刺激臭のある気体で、繊維産業では1920年代から使用されてきました。

 

 

 

この化学物質は衣類にシワがつきにくくする「形態安定加工」の主成分であり、防カビ剤や染料の定着剤としても広く使用されています(2)。

 

 

 

あなたが新しく購入した子ども服は、工場から店頭に並び、そしてあなたの手元に届くまでの長い旅をしてきました。その過程で、生地は何度も化学処理を受け、まるでスポンジが水を吸うように化学物質を含んでいくのです。

 

 

特にホルムアルデヒドは、綿とポリエステルなどの混紡繊維に高濃度で検出される傾向があります(1)。

 

 

 

2019年に発表された包括的レビューでは、繊維製品に含まれる無機・有機化学物質への人間の曝露による健康リスクが検証されました(2)。この研究によれば、衣類は単なる外部からの保護手段ではなく、実は皮膚を通じた化学物質曝露の重要な経路となっているのです。

 

 

 

⭐️驚くべき検出率と濃度

 

2022年にスペインのカタルーニャ地方で実施された調査では、妊婦、乳児、幼児向けの衣類120点を分析したところ、20パーセントのサンプルからホルムアルデヒドが検出されました(1)。

 

 

 

平均濃度は8.96ミリグラム/キログラムでしたが、最も高い検出値は妊婦用の黒いパンティから見つかり、なんと55.7ミリグラム/キログラムという驚異的な数値を記録しました。これは法定基準値の75ミリグラム/キログラムに迫る高濃度です。

 

 

 

さらに驚くべきことに、この研究では「オーガニックコットン」と表示された衣類の方が、通常の衣類よりも高いホルムアルデヒド濃度を示すケースが確認されました(1)。

 

 

 

オーガニックコットンという表示は、農薬を使用しない栽培方法を意味するだけで、製造過程での化学物質の添加を制限するものではないのです。

 

 

 

これは消費者にとって大きな誤解を招く現実です。まるで「無添加」と書かれた食品が、実際には最終の出荷工程で添加物だらけになっているのと同じような状況です。

 

 

2013年に発表された研究では、20点の衣類を検査した結果、3点から検出可能なホルムアルデヒドが見つかりました(3)。そのうち1点のシャツからは3172ppmという、国際規制値の約40倍もの高濃度ホルムアルデヒドが検出されたのです。この数値は、まるで化学工場の汚染作業着を着ているようなものです。

 

 

 

⭐️子どもたちが直面する深刻な健康被害

 

国際がん研究機関(IARC)は2004年にホルムアルデヒドを「ヒトに対する発がん性物質」(グループ1)に分類し、鼻咽頭がん、白血病、副鼻腔がんとの関連性について十分な証拠があるとしています(1, 4)。これは最も危険度の高い分類であり、たばこやアスベストと同じカテゴリーに属します。

 

 

プーファが酸化して発生する過酸化脂質も同じアルデヒドです。

 

 

 

しかし、発がん性だけが問題ではありません。ホルムアルデヒドは皮膚に直接触れることで、様々な急性症状を引き起こします。2008年に発表された研究では、繊維製品に含まれるホルムアルデヒドへの職業的曝露によるアレルギー性接触皮膚炎の症例が報告されています(5)。皮膚炎、湿疹、アレルギー反応、感作症状などが主な症状として挙げられています(1)。

 

 

 

特に注目すべきは、子どもたちの脆弱性です。2021年に発表された縦断的研究では、室内のホルムアルデヒド濃度がアトピー性皮膚炎の子どもたちの症状を悪化させることが明らかにされました(6)。

 

 

 

この研究では、中等度から重度のアトピー性皮膚炎を持つ55人の子どもたちを1年間追跡調査し、合計4789人日分のデータを収集しました。その結果、ホルムアルデヒド濃度が10ppb増加するごとに、春季には79.2パーセント、夏季には39.9パーセントもアトピー性皮膚炎の症状が増悪することが判明しました(6)。

 

 

 

まるで花粉症の患者が花粉の季節に症状が悪化するように、アトピー性皮膚炎の子どもたちは、衣類から放出されるホルムアルデヒドによって症状が増悪します。

 

 

 

この研究では、測定された室内ホルムアルデヒド濃度の平均は13.6ppbであり、世界保健機関(WHO)が推奨するガイドライン値(80ppb)を大きく下回る「許容範囲内」の濃度でした(6)。つまり、法律で定められた安全基準を満たしていても、敏感な子どもたちには健康被害が生じる可能性があるということです。

 

 

 

2011年に発表された系統的レビューでは、ホルムアルデヒド曝露と生殖・発達毒性の関連性が指摘されました(7)。ホルムアルデヒド曝露と複数の有害な健康影響との関連が指摘されています。

 

 

特に胎児期や乳幼児期という「感受性の高い発達期間」での曝露が懸念されています。子どもたちの肺は成人とは異なり、環境有害物質に対して極めて脆弱であり、発達の重要な時期に化学物質に曝露されると、長期的な健康影響を受けやすいのです(8)。

 

 

 

2011年のパリコホート研究では、乳児における室内ホルムアルデヒド曝露と下気道感染症との関連が報告されています(9)。この研究は、乳幼児が環境中のホルムアルデヒドに特に脆弱であることを示しており、住居内の換気を増やし、ホルムアルデヒドを放出する建材の使用を減らすことの重要性を強調しています。

 

 

 

⭐️洗濯による除去効果とその限界

 

幸いなことに、ホルムアルデヒドは水に溶けやすい性質を持っています。2013年の研究では、洗濯と乾燥によってホルムアルデヒド濃度が未処理のコントロールサンプルの26パーセントから72パーセントにまで減少することが示されました(3)。

 

 

 

しかし、洗濯の温度や方法の違いは明確な傾向を示さず、アイロンがけの効果も限定的でした。

 

 

 

2022年のスペインの研究では、さらに興味深い結果が報告されています(1)。ホルムアルデヒド濃度が高かった妊婦用ジーンズとパンティ各10サンプルを洗濯したところ、洗濯後の全20サンプルから検出可能なホルムアルデヒドは完全に消失しました。

 

 

 

これは、たった一度の洗濯で大部分のホルムアルデヒドを除去できることを示しています。

 

 

 

ただし、2010年に米国政府会計検査院が発表した報告書では、洗濯後にホルムアルデヒド濃度が一時的に低下しても、複数回の洗濯後に再び増加し始める可能性があることが指摘されています(10)。

 

 

 

これは、衣類の繊維構造の奥深くに化学的に結合したホルムアルデヒドが、時間をかけて徐々に遊離してくる可能性を示唆しています。まるで湿気を吸った壁から徐々にカビが生えてくるように、衣類からもホルムアルデヒドが徐々に放出され続けるのです。

 

 

⭐️国や地域による規制の違い

 

ホルムアルデヒドに対する規制は国によって大きく異なります。2007年に欧州連合で実施された調査では、221サンプルのうち48パーセントから30から166ミリグラム/キログラムのホルムアルデヒドが検出されました(11)。欧州連合の現行基準では、皮膚に接触する衣類のホルムアルデヒド含有量は75ミリグラム/キログラム以下とされています。

 

 

 

日本では、有害物質を含有する家庭用品の規制に関する法律により、生後24か月以内の乳幼児用繊維製品については16マイクログラム/ミリリットル(水への溶出濃度として)以下という基準が設けられています。一般的な肌着類については75ppm以下という基準があります(12)。

 

 

 

 

エコテックス・スタンダード100やGOTS(グローバル・オーガニック・テキスタイル・スタンダード)といった国際的な認証制度も存在します。エコテックス・スタンダード100では75ミリグラム/キログラムを上限としていますが、GOTSではより厳格に16ミリグラム/キログラム以下と定めています(1)。

 

 

 

しかし、2022年のスペインの研究では、GOTS認証を受けた子ども用ドレスから20.0ミリグラム/キログラムのホルムアルデヒドが検出されており、認証制度が必ずしも完全な安全性を保証するものではないことが明らかになりました(1)。

 

 

 

⭐️消費者ができる実践的な対策

 

では、私たちは衣服のホルムアルデヒド汚染に対してどのように対処すればよいのでしょうか。まず最も重要なのは、新しく購入した衣類は必ず着用前に洗濯することです。

 

 

 

これは極めてシンプルですが、最も効果的な対策です(1)。特に乳幼児用の衣類、下着、パジャマなど、長時間肌に密着する衣類については必ず実践すべきです。

 

 

 

洗濯する際は、通常の洗剤を使用するだけで十分です。ホルムアルデヒドの水溶性という性質が、私たちに有利に働きます。高温での洗濯や特殊な洗剤は必ずしも必要ではありません(3)。

 

 

 

次に、衣類を選ぶ際には、合成繊維と天然繊維の混紡製品よりも、100パーセント綿または100パーセント合成繊維の製品を選ぶことも一つの方法です(しかし、肌のことを考えると合成繊維は推奨できません)。

 

 

 

2022年の研究では、混紡繊維からのホルムアルデヒド検出率が47パーセントと最も高かったのに対し、100パーセント綿では22パーセント、100パーセント合成繊維では14パーセントでした(1)。

 

 

また、濃色や染色加工を施した衣類よりも、プリント加工や淡色の衣類を選ぶことで、ホルムアルデヒド曝露のリスクを低減できる可能性があります(1)。染色加工された衣類は、プリント加工された衣類よりも有意に高いホルムアルデヒド濃度を示すことが報告されています。

 

 

 

さらに、購入時に衣類の臭いを確認することも有効です。ホルムアルデヒドは刺激臭を持つため、開封時に強い化学臭がする製品は避けるべきです。

 

 

 

⭐️室内環境とホルムアルデヒド曝露の複合リスク

 

忘れてはならないのは、衣類だけがホルムアルデヒド曝露源ではないということです。2022年の研究では、衣類からの皮膚吸収によるホルムアルデヒド曝露は、空気吸入による曝露の約10パーセントに過ぎないことが示されました(1)。しかし、だからといって衣類からの曝露を軽視すべきではありません。

 

 

 

室内のホルムアルデヒドは、建材、家具、接着剤、塗料、カーテンなど多様な発生源から放出されます。2021年の韓国の研究では、室内温度が25.5度以上、相対湿度が60パーセント以上の環境で、ホルムアルデヒド濃度が有意に上昇することが確認されています(6)。

 

 

 

まるでサウナの中では体が熱くなるように、温度と湿度の上昇は化学物質の放出を加速させるのです。

 

 

 

特に春季と夏季には、室内のホルムアルデヒド濃度が高くなる傾向があり、この時期にアトピー性皮膚炎の症状悪化が顕著になることが報告されています(6)。つまり、衣類から放出されるホルムアルデヒドは、室内環境全体のホルムアルデヒド負荷に上乗せされ、複合的な健康リスクを引き起こす可能性があるのです。

 

 

 

⭐️ファストファッションの時代における警鐘

 

近年、低価格で大量生産されるファストファッションの普及により、消費者はこれまで以上に多くの衣類を購入するようになりました。しかし、この便利さの裏には、化学物質管理の甘さという代償が隠れています。2025年の報道では、中国のファストファッションブランド「SHEIN(シーイン)」の乳幼児用衣類から高濃度の化学物質が検出されたケースが報告されています(13)。

 

 

 

 

特に懸念されるのは、環境規制が緩い国々で生産された製品です。2019年の包括的レビューでは、欧州連合における厳格な規制にもかかわらず、繊維生産の多くが環境基準や労働基準の緩い国々に移転していることが指摘されています(2)。

 

 

 

これは、消費者が知らず知らずのうちに、規制が不十分な環境で製造された化学物質まみれの製品を購入している可能性を示唆しています。

 

 

 

⭐️未来への展望と「手に職」の重要性

 

ホルムアルデヒドを使用しない代替技術の開発も進んでいます。しかし、ホルムアルデヒドを含まない架橋樹脂の中には、ホルムアルデヒド含有樹脂よりも毒性が強いものもあり、単純な代替が解決策にならない場合もあります(14)。

 

 

 

結局のところ、最も確実な対策は消費者自身が意識を高め、適切な行動をとることになるでしょう。新しい衣類を購入したら必ず洗濯する、不必要に多くの衣類を購入しない、といった日常的な選択が、私たちや子どもたちの健康を守る最前線となります。

 

 

 

2020年に南アフリカで実施された研究では、乳幼児用衣類に含まれる重金属とホルムアルデヒドの濃度測定が行われ、繊維製品が人間や動物に健康リスクをもたらさず、環境への悪影響も引き起こさないことを確保する重要性が強調されています(15)。

 

 

 

子どもたちの健康を守るためにも、新しい服を買ったら、まず洗濯。この簡単な習慣が、あなたの愛する子どもを見えない危険から守る盾となるのです。

 

 

 

しかし、この問題の根本は、近代の衣服の大量生産につきあたります。

 

 

 

環境および私たちの心身の健康にとって最適なのは、昔ながらの機織りによる衣服造りの復活になるでしょう。

 

 

「手に職」という言葉が死語になりつつありましたが、現代社会の頂点になるAI監視時代にはこの言葉が復活するでしょう。

 

 

 

参考文献

 

  1. Early-Life Exposure to Formaldehyde through Clothing. Toxics, 2022, 10(7), 361

 

  1. Human health risks due to exposure to inorganic and organic chemicals from textiles: A review. Environmental Research, 2019, 168, 62-69

 

  1. The effect of clothing care activities on textile formaldehyde content. Journal of Toxicology and Environmental Health Part A, 2013, 76(14), 883-893

 

  1. Does formaldehyde have a causal association with nasopharyngeal cancer and leukaemia? Annals of Occupational and Environmental Medicine, 2018, 30, 18

 

  1. Occupational contact allergy to formaldehyde and formaldehyde releasers. Contact Dermatitis, 2008, 59(5), 280-289

 

  1. Harmful Effect of Indoor Formaldehyde on Atopic Dermatitis in Children: A Longitudinal Study. Allergy, Asthma & Immunology Research, 2021, 13(2), 234-248

 

  1. Reproductive and developmental toxicity of formaldehyde: a systematic review. Mutation Research/Reviews in Mutation Research, 2011, 728(3), 118-138

 

  1. The vulnerability of children lung to environmental hazards during the sensitive developmental periods. Journal of Lung Health and Diseases, 2018, 2(1), 1-8

 

  1. Formaldehyde exposure and lower respiratory infections in infants: findings from the PARIS cohort study. Environmental Health Perspectives, 2011, 119(11), 1653-1658

 

  1. Formaldehyde in Textiles: While Levels in Clothing Generally Appear to Be Low, Allergic Contact Dermatitis Is a Health Risk. US Government Accountability Office Report GAO-10-875, 2010

 

  1. European survey on the release of formaldehyde from textiles. European Commission Joint Research Centre Technical Report, 2007

 

  1. 乳幼児の衣類に含まれるホルムアルデヒドについて. 大阪府立公衆衛生研究所, 2018

 

  1. 「子ども用衣類からホルムアルデヒド」「下着から発がん性物質」週刊新潮報道. デイリー新潮, 2025

 

  1. Formaldehyde in Textiles. Cotton Incorporated Technical Report TRI-4008, 2017

 

  1. Determination of the levels of heavy metals and formaldehyde in baby clothes in South Africa: a case study of stores in the greater cape town region. Journal of Chemistry, 2020, 2020, 5084062

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