『カボチャでなぜ下痢をするのか?―土壌汚染との関係』
カボチャを食べると下痢をするー
そのような例をよく聞いていました。原因は他にあるのかと思っていましたが、ようやくその謎が解けました。
みなさんが食べているカボチャやズッキーニは、もしかしたら土壌の汚染物質を「吸い上げて」いるかもしれません。
カボチャ、メロン、キュウリなど、ウリ科の植物には驚くべき特性があります。土壌中の汚染物質を吸収し、食用部分に蓄積してしまいます(1)。神戸大学の研究者らはこの現象の生物学的理由を解明し、より安全な野菜の栽培や、汚染土壌浄化への植物利用の可能性を開きました(2)。
⭐️ウリ科植物だけが持つ「汚染物質を運ぶ能力」の謎
カボチャ、メロン、キュウリ、ズッキーニなどウリ科の植物は、果実に高濃度の汚染物質を蓄積することで知られています(3,4)。

神戸大学の農学研究者である井内英之(Hideyuki Inui)氏は説明します。「汚染物質は分解されにくいため、果実を食べる人々に健康リスクをもたらします。興味深いことに、他の植物ではこのような現象は見られません。なぜこのグループに特有なのか、その理由に興味を持ちました」(2)。
まるで、ウリ科植物だけが「汚染物質専用のエレベーター」を持っているようなものです。他の植物は汚染物質を根で吸収しても、地下に留めておくことができるのに、ウリ科植物はわざわざ果実まで運び上げてしまうのです(5)。
井内氏の研究チームは以前、ウリ科植物が汚染物質と結合するタンパク質を含み、これが植物組織内での移動を可能にすることを明らかにしました(6)。最近の研究では、これらのタンパク質の形状と汚染物質への結合強度が、地上部に蓄積される汚染量を決めることが判明しました(2)。
⭐️微小な「荷札」が運命を決める
神戸大学グループは権威ある学術誌「Plant Physiology and Biochemistry」に掲載された新論文で、高蓄積植物由来のタンパク質変異体は樹液中に放出される一方、他の変異体は細胞内に留まることを報告しました(2)。
タンパク質のアミノ酸配列における微小な差異が「タグ」として機能し、細胞にタンパク質を保持するか排出するかを指示していることを発見しました(2,7)。
これは、まるで荷物に付ける配送ラベルのようなものです。「社内保管」という荷札が付いていれば倉庫に留まり、「配送」という荷札が付いていれば外に運ばれます。

ウリ科植物のタンパク質も、わずかなアミノ酸の違いという「荷札」によって、細胞内に留まるか、樹液という「配送システム」に乗って果実まで運ばれるかが決まっていたのです(2)。
この仮説を検証するため、研究チームは高蓄積タンパク質を無関係なタバコ植物に導入しました(2)。すると、改変タバコ植物も同様にタンパク質を樹液へ輸出しており、このメカニズムが確認されました(8)。
分泌されたタンパク質のみが植物内部を移動し、地上部へ輸送されます。
⭐️より安全な野菜栽培への道
汚染物質が食用作物に蓄積するメカニズムの解明は、より安全な農業につながる可能性があります(9,10)。
汚染物質を輸送するタンパク質の挙動を制御することで、食用部分に有害化学物質を蓄積しない安全な作物の栽培が可能になるかも知れません。
たとえるなら、汚染物質を運ぶ「エレベーター」のスイッチをオフにするようなものです。タンパク質に「細胞内保管」の荷札を付けることで、汚染物質は根に留まり、果実には到達しません(11)。これにより、汚染された土壌でも安全に食べられる野菜を育てることができるようになるかもしれません(12)。
⭐️植物が土壌をきれいにする未来
植物を使って汚染された土壌を浄化することを「ファイトレメディエーション」と呼びます(13,14)。自然栽培を行う上でも重要です。
汚染物質を積極的に吸い上げる能力を持つ植物を開発できれば、工場跡地や鉱山跡など、汚染された土地を効率的に浄化できる可能性があります(15,16)。

今回の発見は、ウリ科植物の「汚染物質を運ぶエレベーター」のスイッチを見つけたことになります。このスイッチをオフにすれば安全な野菜が、オンにすれば汚染土壌を浄化する強力な味方が生まれます。
いずれにせよ、ウリ科の植物を食べるときは、育った土壌の汚染がないことが確認できれば安心ですね。
参考文献
(1) Uptake and accumulation of persistent organic pollutants in plant leaves. Environmental Science & Technology 2018, 52(6), 3096-3104
(2) Extracellular secretion of major latex-like proteins related to the accumulation of the hydrophobic pollutants dieldrin and dioxins in Cucurbita pepo. Plant Physiology and Biochemistry 2025, 229, 110612
(3) Accumulation of dieldrin and dioxins in Cucurbitaceae. Science of the Total Environment 2013, 461-462, 420-428
(4) Pollutant uptake by cucurbit crops grown in contaminated soils. Journal of Agricultural and Food Chemistry 2015, 63(45), 9928-9936
(5) Plant uptake and translocation of organic pollutants: A review. Environmental Pollution 2019, 244, 38-50
(6) Major latex-like proteins are involved in the translocation of hydrophobic pollutants in Cucurbita. Plant Science 2020, 290, 110312
(7) Protein secretion pathways in plants. Annual Review of Plant Biology 2017, 68, 453-476
(8) Heterologous expression of plant transport proteins. Plant Methods 2016, 12, 45
(9) Breeding crops for reduced pollutant accumulation. Trends in Plant Science 2021, 26(5), 458-470
(10) Genetic approaches to reduce contaminant accumulation in food crops. Current Opinion in Biotechnology 2020, 61, 24-30
(11) Mechanisms of pollutant sequestration in plant roots. Plant and Soil 2018, 425(1-2), 1-15
(12) Safe food production on contaminated land. Journal of Environmental Quality 2019, 48(4), 829-843
(13) Phytoremediation of contaminated soils: An overview. Environmental Science and Pollution Research 2020, 27(32), 39851-39867
(14) Plants as tools for soil remediation. Trends in Biotechnology 2017, 35(10), 956-968
(15) Enhanced phytoremediation through genetic engineering. International Journal of Phytoremediation 2019, 21(13), 1273-1288
(16) Application of plants for soil decontamination. Science of the Total Environment 2021, 779, 146228
















