『現代社会の隠れた健康危機:超加工食品に必ず含まれる毒性物質とは?』
ここ半世紀の間に、私たちの社会は驚くべき変化を目の当たりにしてきました。それはまるで目に見えない津波のように、静かに、しかし確実に私たちの健康を蝕んでいます。
肥満率は急上昇し、2型糖尿病患者は爆発的に増加する一方で、不妊率が高くなっています(男性の精子の質は急激に低下。)これらの変化を結ぶある一つの共通点があります。それは「超加工食品」の普及です。
超加工食品とは、まるで科学実験室で作られたような食品のことです。元の食材の面影をほとんど留めず、添加物、保存料、人工的な香料や色素で構成された製品群を指します。
スーパーやコンビニエンスストアの棚に並ぶ多くの商品、ファストフードのメニュー、インスタント食品の大部分がこれに当たります。これらの食品が様々な健康被害と関連していることは以前から知られていましたが、科学者たちは長い間、その真の原因を特定できずにいました。
この謎に答えを出すべく、国際的な科学者チームが画期的な研究を行いました。その結果は、私たちが想像していた以上に深刻なものでした。
⭐️同じカロリーでも全く異なる結果
研究者たちは、まるで探偵のように綿密な実験を設計しました。20~35歳の健康な男性43名を対象に、それぞれに未加工食品と超加工食品の両方を3週間ずつ摂取してもらいました。
その間には3ヶ月の「ウォッシュアウト期間」を設け、前の食事の影響を完全に排除しました。
最も重要なのは、両方の食事が全く同じカロリー、タンパク質、炭水化物、脂質を含んでいたことです。つまり、栄養成分表示だけを見れば、まったく同じ食事だったのです。しかし、結果は驚くべきものでした。
超加工食品を摂取したグループでは、通常のカロリー摂取群でも高カロリー摂取群でも、未加工食品群と比較して約1キログラムの脂肪量増加が確認されました (1)。
これは、同じエネルギー量を摂取していても、食品の加工度によって体への影響が全く異なることを示しています。まるで同じガソリンでも、エンジンによって燃費が変わるように、私たちの体も食品の種類によって異なる反応を示すのです。
⭐️見えない毒素:エストロゲン作用物質(内分泌かく乱物質)の脅威
さらに衝撃的だったのは、超加工食品を摂取した男性の血液中で、フタル酸エステル類(特にcxMINP)という化学物質の濃度が懸念されるレベルまで上昇していたことです (2)。
フタル酸エステル類は、プラスチックを柔らかくするために使用される化学物質で、エストロゲン作用物質として知られています。つまり、過剰になるとオメガ3と同じく免疫抑制(→自己免疫疾患)、発ガン作用を持ちます。
実際に、この食事群では精子生成に不可欠なテストステロンと卵胞刺激ホルモンのレベルが低下していました。これは、超加工食品が男性の生殖機能に直接的な悪影響を与えることを示しています (3)。
⭐️フタル酸エステル類はどこから来るのか?
これらの有害物質は主に二つのルートで超加工食品に混入します。
一つ目は「食品包装」からの移行です。プラスチック容器、ラップフィルム、缶詰の内側コーティングなどから、時間とともに化学物質が食品に移行します (4)。
二つ目は「製造過程」での汚染です。工業的な加工設備のプラスチック部品や配管から、製造中に化学物質が食品に混入するのです (5)。
⭐️長期的影響への警鐘
コペンハーゲン大学NNF基礎代謝研究センターの主任研究者ロメイン・バレ教授は、この結果について次のように述べています:「超加工食品がこれほど多くの身体機能を乱すことに、健康な若い男性であっても衝撃を受けました。長期的な影響は憂慮すべきものであり、慢性疾患からより効果的に保護するため、栄養ガイドラインの見直しが必要であることを浮き彫りにしています」
この研究の筆頭著者であるジェシカ・プレストン氏も、「我々の結果は、超加工食品が過剰摂取でなくとも生殖機能と代謝機能を損なうことを証明しています。これは加工そのものが有害要因であることを示唆しています」と警告しています。
⭐️現代社会への示唆
この研究結果は、私たちが直面している健康危機の真の姿を浮き彫りにしています。過去50年間で肥満と糖尿病が急増し、同時に男性の精子の質が低下している現象は、決して偶然の一致ではありません (6,7)。
これらは全て、私たちの食生活の工業化と深く関連しているのです。
植物性ミート・ミルク、ラボ肉、昆虫加工食など、さらに加工度が高いものが私たちの生活に浸透しています。これらもフタル酸まみれの物質です。
この研究は、栄養表示だけでは見えない加工食品の真の影響について、私たち一人一人が真剣に考える必要があることを示しています。
参考文献
- Preston JM, Iversen J, Hufnagel A, et al. Effect of ultra-processed food consumption on male reproductive and metabolic health. Cell Metabolism, 2025; DOI: 10.1016/j.cmet.2025.08.004
- Martínez Steele E, Khandpur N, da Costa Louzada ML, et al. Association between dietary contribution of ultra-processed foods and urinary concentrations of phthalates and bisphenol in a nationally representative sample. PLoS One, 2020, 15(7), e0236738
- Valle-Hita C, Salas-Huetos A, et al. Ultra-processed food consumption and semen quality parameters in the Led-Fertyl study. Human Reproduction Open, 2024, 1, hoae001
- Tanzer M, Boissiere-O’Neill T, Sly PD. Phthalates, bisphenols and per-and polyfluoroalkyl substances migration from food packaging into food: a systematic review. Reviews on Environmental Health, 2025
- Edwards L, McCray NL, VanNoy BN, et al. Phthalate and novel plasticizer concentrations in food items from US fast food chains: a preliminary analysis. Journal of Exposure Science & Environmental Epidemiology, 2022, 32, 366-373
- Whittaker J. Dietary trends and the decline in male reproductive health. Hormones, 2023, 22, 235-250
- Sermondade N, Faure C, Fezeu L, et al. BMI in relation to sperm count: an updated systematic review and collaborative meta-analysis. Human Reproduction Update, 2013, 19(3), 221-231