みなさんは、腸の難治性の感染に対して、糞便移植(Fecal microbiota transplant (FMT))という治療が実際に医学の現場で行われていることをご存知でしょうか?
これは健康人の便を大腸に移植する(大腸ファイバーで便を入れる)ことで、感染症を治療しようとする試みです。
健康人の腸内細菌の増殖を期待して、腸に炎症を引き起こしているバクテリアを抑えてもらおうという発想です。
この治療が選択されるのは、すでに抗生物質の過剰投与によって、多剤耐性菌(Clostridium difficile)が発生している場合です。
もうどの抗生物質にも反応しなくなった状態ですね。
さて、この治療はうまくいくのでしょうか?
いくつかの臨床実験でも糞便移植(FMT)の有効性が報告されています(PLoS One. 2019 Jan 23;14(1):e0210016)(Clin Gastroenterol Hepatol. 2019 Apr 19)。
しかし、とうとうFDA(米国食品医薬品局)は、糞便移植(FMT)によって敗血症になり死亡した事例を通達・警告しました(June 13, 2019)。
糞便移植(FMT)によって敗血症(エンドトキシン血症)になったり、ウイルス感染症になったりした事例がすでに報告されています(Current opinion in pharmacology. 2019;49:29-33)(Expert Rev Clin Immunol. 2019 Oct;15(10):987-989)。
実際に、副作用が頻発したり、悪化した結果が出たりした臨床試験は途中で中止されています(研究論文が発表されるのは、期待通りにいった氷山の一角で、ほとんどは失敗しているのでお蔵入りになっている)。
特に、免疫抑制がかかっている(オメガ3、鉄剤やステロイド投与)様な糖のエネルギー代謝が低下している人に、糞便移植(FMT)を行うとエンドトキシン血症になって致死的になります。
なぜでしょうか?
それは、いくら健康人の便とはいえ、そこにはバクテリアが無数に存在するからです。
健康人の腸内では、悪影響を出さなかった(あるいは悪影響があるから排泄された)バクテリアが他の人の腸内で悪影響を与えないという保証は全くありません。
なぜなら・・・・・
腸内細菌に、善玉も悪玉もなく、過剰増殖すると健康人においても、リーキーガットおよびエンドトキシン血症になるからでした(拙著『慢性病は現代食から』参)。
糞便移植(FMT)は、根本治療にはなり得ず、場合によっては、致死的な副作用をもたらすのです。